〜第2部 9人の決戦〜
   〜第6話 12人の決戦2〜
    決戦の朝を迎えた平西財閥地球本社ビル。
   今回もお馴染み、ウインドが夜通しで出撃する面々の機体を最後まで念入りにチェックを繰り
   返していた。
    決戦まであと3時間。しかし他の面々は緊張もせず今だに眠りについていた。

ウインド「よくもまあ後3時間だというのに寝てられるよな・・・。」
シェガーヴァ「今までの戦いとは変わりだしている証拠だろう。」
    全機体のメンテナンスを終え、近くのイスに腰をかけながら語るオールドレイヴンズ。
   同じガレージのソファーではターリュとミュックを抱きかかえ、レイス姉妹が眠っている。
シェガーヴァ「・・・最近動きすぎだと思わないか?」
ウインド「だな・・・。若い連中に任した方が、今後のためになるが・・・。」
シェガーヴァ「フフッ、お前らしいな。あの時とちっとも変わらない。」
ウインド「だな。」
   小さく笑う2人。その会話はまるで親子のようであった。
    ウインド・シェガーヴァ両名は思っていた。シュイル登場から自分達が構い過ぎていると。
   これでは大切な人材の芽を摘む事に変わりない。
    残酷な言い方だが、厳しい現実を体験してこそ人間は強くなれる。自分達の存在は彼らに道
   しるべを与えてはいるが、同時にその才能を開花させなくしているのである。
   この決戦が終わったら、暫く全く何も手を下す事はしないと心中で決意する2人であった。

    それから2時間が過ぎ、決戦まであと1時間を切った頃。
   一同は全員起床。大食堂にて食事を取りながら後わずかな時間を休んで過ごした。
ライディル「前にもこうやって食事を食べさせてあげていたな。」
キュービヌ「そうだねぇ〜。」
   ライディルとキュービヌの師弟はユウト達が戦った決戦時と同じように、ターリュとミュック
   に食事を食べさせてあげていた。
   満2歳となった2人の姉妹。ある程度ではあるが自分でも食べられるようになっていた。
アリナス「こっちの方が家族っていう感じがするね。」
シュイル「言えてる。」
メルア「この1年で見違えるほどに成長しましたね。母親の私でも驚きです。」
トーマス「厳しい環境下が2人をより一層成長させたのでしょう。本来は私達が育てなければいけ
     ないのですが・・・。先輩方には頭が上がりません。」
   もう熟年夫婦となりつつあるトーマスとメルア。
   平西財閥の副社長と運営委員長を任された2人は毎日が激務の連続だ。しかし2人は弱音を
   上げることなくこなしている。
トーマス「いいですねぇ〜・・・。戦闘はこの1年以上全くやっていません。皆さんが羨ましい。」
メルア「エルディル様の前で決意しましたが、やはりレイヴンと育児などの両立は並大抵ではありま
    せん。しかし決して諦めない事もまた事実です。」
ライア「私もメルアさんに負けないようなお母さんになるぞぉ〜!」
アリナス「こりゃメルアさんよりパワフルママになりそう。」
   アリナスの発言で一同は笑う。
   つい最近出産したというのに、当の本人は回復しつつある。まだ歩く事は控えてはいるが、
   再び出産前と同じ大食いが始まったのである。

シュイル「そうそうレイス姉さん。量産機のダークネスと聞きましたが・・・。これは一体?」
レイス姉「シェガーヴァ様とレイシェム様、そして皆様が組まれた人工知能と同じ代物です。どの
     程度の戦闘力があるかは不明です。当然機体構成も全く・・・。」
レイス妹「となると・・・全脚部で来るかも知れない・・・。」
ディーン「と言うと?」
レイス妹「カンですよカン。私の戦闘時のカンは外れた事がないんです。恐らくは奴等は全脚部を
     ベースに多岐多様の組み合わせを施した機体で来るでしょう。」
   レイス妹のその確信が理解できない一同。そこに彼女の祖母であるウィンが詳しく説明を
   しだした。
ウィン「敵の主力メンバーはエルディル様・バレヴ様・チェブレ様のクローン体。この3戦士以外に
    人間はいないでしょう。となると今までの戦術では通用できないのも、奴等はしっかり
    知っています。だからまるで人間が操っているかのように見せかけるため、多岐多様の機体
    を組んだのです。」
シェガーヴァ「私だったらそうするだろう。同じロジックでしか動けないのなら、その動く物を変え
       れば別の動きをせざろう得ない。一種の戦略だ。」
ディーン「となると脚部別に攻めるメンバーを決めなければいけませんね。」
ウインド「人選は任せる。今回から俺達は一切口も手も出さない。お前達の好きなようにやるんだ。
     だが後方支援は任せな。補給・人命救助、ありとあらゆる支援は全て行おう。」
シュイル「助かります。また先陣切って動かれてしまっては、自分達の活躍する機会を皆さんにお見
     せできませんから。」
ウインド「フフッ、その通りだ。」
   冷たく聞こえるシュイルの発言だが、ウインドは笑って答え返した。
    ウインドやシェガーヴァが動きすぎで彼らの成長を妨げているのも事実。だが後方支援なら
   喜んで行おうと、2人の大物レイヴンは黙って皆に任せた。
シェガーヴァ「クローンファイターのレイヴン達は、今回の出撃は緊急事を除き出撃を許可しない。
       若い人材と彼らが造り上げた人工知能に全て任せるんだ。」
クローンファイターズ「了解。」
   伝説のレイヴン、クローンファイターズは彼の意見に同意した。
    今まではサポートすると豪語していたウインドとシェガーヴァが、表立っての行動を一切
   行わないと告げたからだ。
   これはある意味彼らにとって、絶対的命令でもあった。

ミナ「あの・・・先輩・・・。」
    恐る恐るミナが質問をする。だがそれは一同を代表しているものであった。
ウインド「何だ?」
ミナ「敵の数があまりにも多すぎる場合はどうしたらよいでしょうか・・・。」
ウインド「その時はクローンファイターズを出撃させる。だが戦力が互角になるように調整してな。
     残酷な言い方だが、お前達の為でもある。分かってくれ。」
ミナ「は・はい・・・、先輩がそう仰るのなら・・・。」
ウインド「ごめんな。」
   ウインドの詫びの発言に、ミナは慌てふためきその場に立ちながら構わないと発言する。
ミナ「そ・・そんな、先輩が謝る事はありません・・。私達が未熟であるが為に、先輩を無意識に
   頼ってしまっている・・・。それを直そうと行っているのでしょう?」
ウインド「確かに。」
ミナ「だったら謝らないで下さい・・・。私の方が悪者になってしまいますから・・・。」
   ミナのウインドを擁護する発言に、一同はどれだけ彼の事を思っているかが理解できた。
   またそれが恋心から来るものだと、女性陣は深く痛感したのだった。
シュリヌ「本当に好きなのね、ウインドさんの事が。」
   シュリヌの発言にミナは沈黙を以て答えた。
   本来は慌てふためき否定する所だが、これが彼女の本心と言えよう。

ウインド「・・・今日のリーダー、ミナに任せる。お前が全責任を担ってメンバーを先導しな。」
   意外な発言に一同やミナ本人は驚く。その本心を聞くべく、ミナが先に聞いてきた。
ミナ「ど・・どうしてですか?」
ウインド「・・・俺がかつてアマギ達が活躍する頃、一時期平西財閥を後にした時があった。その
     時のレイスにそっくりだ。お前のその仲間を守ろうとする一念と、俺に対する一念だ。
     その一念が2つに分かれ、それぞれ別の行動をするようになった。」
   煙草を吹かしながら、語り続けるウインド。その発言にレイス姉妹はその内容が掴めた。
ウインド「仲間を守ろうとする強い一念、それはレイス=ビィルナが実行した。レイス姉が死ぬまで
     平西財閥でアマギ達やアマギ達の子供達も命懸けで守った。まるで守護神みたいにな。」
レイス姉「そしてウインド様に対する一念が、私を動かしたと言う事ですね。」
ウインド「ああ、つまりは2人2役だ。だがミナ、お前は1人だ。お前の持つ信念の強さはしっかり
     理解している。お前がリーダーシップを取り、仲間を勝利へと導いてくれ。」
   ミナの決意ある信念を見抜いたウインド。それを聞いた本人は深く感銘し、それが己の受けた
   使命だと痛感したのである。
ミナ「分かりました。この命・・・ウインド様が仰られた事を最期まで突き通します。」
   この発言を聞いたレイス姉妹は、本当に自分達にそっくりだなと痛感した。
シェガーヴァ「レイスの真の後継者が再来・・・だな。」
ウインド「だな。しかし本人達よりしっかりしてそうだ、これなら満点だろう。」
レイス姉妹「ちょっと、それはどういう意味ですかぁ?!」
   ウインドの発言にレイス姉妹は激怒した。
   しかしその激怒はミナを嫉妬してのもので、またそれが本気ではない事は一同理解した。
ライア「怒れば恋人も殴り飛ばす。ミナさん、そうはならないで下さいね。」
ミナ「は・・はい・・・。」
   ライアの発言を聞き、ユウトは苦笑いを浮かべる。またそれを聞いたレイス姉妹は呆れ顔で
   納得した。

マイア「しかしおじいさんは色々な異性からアタックがありますね。」
   男性の視線から、マイアはウインドの異性から好かれる魅力に羨ましがる。それを聞いた男性
   陣は心中で苦笑しながら納得した。
ウインド「俺は好かれる行為をしていないんだが。」
アリナス「またまたぁ〜、エルディルさんを口説こうとしたじゃないですか〜。」
メルア「私もそう聞こえましたが。」
ウインド「異性は好きだが、俺の立場上許される行為じゃない。その人の幸せを奪う事になりかね
     ないからな。」
ライア「ビィルナさんとデュウバさんはどうなんですか、二夜を共にした仲だったそうじゃない
    ですか。」
デュウバ姉「成り行きよ、成り行き。」
レイス妹「ですね。」
   素っ気なく言い切る2人。その素っ気なさがよく分からない一同であったが、年配である
   ウィンやレイス姉などは理解できた。

マイア「そういえば、ウィンさんのお父様は研究員とお聞きしましたが?」
シェガーヴァ「・・・ああ、あいつか。」
ウィン「私の父は、今のプラスの基礎を築いたのです。そして最初の実験台がシェガーヴァ様だった
    のです。」
ライア「となるとサイボーグになられる前に、生身の身体も強化人間手術を施さられたのですか。」
    シェガーヴァが普通に話しているように思えるが、ウインドがどこか言い表せない辛そうな
   表情をしていた。
   それを見抜いたライアは事の心境を聞き出す。
ライア「・・・何か別の事がありそうですね。」
ウインド「・・・フフッ、鋭いな。」
ライア「・・・まさかとは思いますが・・・、ウィン様のお父様はシェガーヴァ様なのでは?」
   ライアの発言にウインドやシェガーヴァなどは何も言わず、沈黙を以て答え返した。
   それはある意味凄い事であり、話し出したライア自身が一番驚いている。
ライア「・・・私の祖父が、シェガーヴァ様・・・。ほ、本当なのですか?」
ウインド「・・・ああ。しっかり本当の事を言うべきだな・・・。」
   ウインドが事の真実を話し出そうとした時、突如社内に警報音が響きだした。
   ナイラは直ぐに内部通信からオペレータールームへアクセスし内容を聞き出す。
ナイラ「どうしましたか?」
オペレーター「未確認部隊襲来、本社セキュリティシステムを攻撃しています。おそらくは社長が
       仰っていた部隊かと思われます。」
ナイラ「了解です。」
ウインド「詳しい事は後で必ず話す。今は目の前の敵を殲滅するぞ。」
レイヴンズ「了解!」
   秘話の興味を沸き立てながらもレイヴン達はガレージへと向かう。むしろ話さない方がいいと
   ウインドは思った。
   しかし必ずといった以上は、約束として守らねば。心中でそう決意する。
                               第6話 3へ続く

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