〜第1部 18人の決断〜 〜第4話 トーナメント戦2〜 オールド・アヴァロンアリーナ場に赴いたユウトとライアは、アキナの妹アレナとトーマス という人物と知り合った。 2人はトーマスの家族を安心した住居に住ますため、彼等と協力してトーナメント方式の試合 に出場する事にした。 チーム名はフォースエアー。それはトーマスとアレナがウインドを師と仰いでいる事から、 ユウトとライアが決めた事であった。 だがフォースウインドと名付けた場合、勘違いされる恐れがあると考えたユウト。それ故に ウインドをエアーへと変えたのである。 トーマス「フォースエアー。いい名前ですね。」 アレナ「ウインド様を模してのお名前。私も会ってみたいです。」 ユウト「意外と近いうちに会えるかも知れませんよ。」 一同はアリーナガレージにて愛機の最終調整を行っている。 この最中もコミュニケーションを取る事を忘れない。彼等にとってこれは当たり前であった。 彼らの対戦相手は、3人1組のペアを組むジェイン・ガルバード・サーベン。地球アリーナ では中核に位置するレイヴン達である。自分達とは互角に近く、実力はかなり高い。 アレナ「やはり心配です・・・、勝てるかどうか・・・。」 ライア「アレナさん、勝とうと思ってはいけませんよ。絶対に負けないと固く決意して下さい。それ こそが勝利に繋がる原動力です。私の師匠もそう仰っていました。」 ライアの発言を聞き、いっぱしにものを言うようになったとユウトは思った。 これはナイラと初めて出会った時に悟った事で、今の彼女の原動力になっている事は言うまで もない。 トーマス「いい事を言いますね、確かにその通りですよ。アリーナはデスマッチではありません。 勝つか負けるか、これしかありませんから。それに余ほどの事がない限り、レイヴンが 死ぬという事はありえません。コンピューター側がACを強制的に停止させますからね。 そう考えると全力で戦えます。それにアレナさん、貴女1人ではありませんよ。私や ユウトさん・ライアさんがいるではありませんか。」 アレナ「・・・そうでしたね、もう弱音は吐きません。」 アレナの闘気がライアと同じように高まる。それを感じるユウトであった。 最終調整を終えた4人はACに乗り込むと、指定のアリーナ場へと向かった。 場所はアリーナ第2区画戦場、旧市街地跡。視界は悪くはないが障害物が多く、レーダーなど を用いた遠距離戦が有効である。 ユウトはアリーナ試合前にしっかりと相手のAC構成を分析していた。相手の戦闘力を事前に 調べるのはレイヴンの鉄則である。 ジェインの駆るブラックヴィルカスターは逆関節脚部をベースに、グレネードランチャー・ 3連装中型ミサイルランチャー・プラズマライフルという重装甲系。 ガルバードが駆るウィールシェネイットはフロート脚部をベースに、自律型支援兵器・小型 自立兵器・デュアルキャノンという支援型の武装。 そしてサーベンが駆るクウェイナイトアルオーンは2足重装甲脚部をベースに、その武装 全てがマシンガンという長期戦を重視した構成であった。 だが3体のACには共通した欠点があった。それは白兵戦が不得意な点である。特に著書に 現れるのが、近接戦闘武器であるレーザーブレードを装備していない点だ。 かわってユウト達は4人のうち3人がブレード装備型のACを操っている。長期戦になれば ジェイン達のチームに勝ち目はない。 短期決戦でケリをつけないと、ジェイン達に勝機はなかった。 ユウト達の4体のACが密集して立ち並ぶ。その先には3体のACが個別に展開している。 この時点で相手の戦術を理解したユウトである。 個別に展開しているという事は、別々に行動するという現れである。ユウト達は最初から相手 の行動が分かるまでは密集して移動すると決めていた。 これを考えると、連携が取れているか取れていないかがよく分かった。 コクピットモニターに突如として試合開始のシグナルが出現。シングルバトルとの時とは 全く違く、いきなり戦闘に入ったのだ。 3体のACはユウトの思考通り、個別に散開し行動を開始しだす。ユウト達はその場から全く 動かず、だた相手の行動を観察しているだけであった。 ユウト「アレナさん、どうですか?」 アレナ「3機とも距離は973です。まだ攻撃範囲外ですよ。」 トーマス「それでどうなさるのですか?」 ユウト「集団で戦った方が効率がいいと思いますが、ここは1機ずつ確実に撃破していきましょう。 おそらく先に現れるのはガルバードさんのウィールシェネイット。攻撃や支援能力はとても 高いですが、防御面も低いので先に叩いた方が先決です。」 ライア「となると・・・サーベンさんは最後となりますね。」 ユウト「そうです。」 ユウトの作戦は、先に近付いて来たACから撃破していくというものだった。 相手側の機動力は大きな差があり、高い順でガルバード・ジェイン・サーベンとなっている。 つまりはガルバードが先陣を切って行動してくると予測しての事である。 アレナ「ですがもし別のフォーメーションを組まれた場合はどうなされるのですか?」 トーマス「そうですよ、3体一度に攻めて来たら・・・。」 ユウト「そうなった場合は別行動をします。自分とアレナさんで、トーマスさんとライアさんで ペアを組みます。この組み合わせだと、攻撃・支援能力が均一になり、戦力低下が少なくて 済みますから。その場合、トーマスさんは気を付けて下さい。貴方のACは白兵戦が苦手な 構成です。ライアさんをバックアップする形で動くといいでしょう。自分の場合はアレナ さんが支援して下されば、効率は高まります。」 このユウトの戦術を聞いた3人は、彼の天性とも言うべき能力に驚きの表情を浮かべる。 トーマス・アレナとは出会ってから僅かな時間、そしてアリーナへ参戦すると決めてからも 僅かな時間。その1時間も満たない間に、これだけの作戦を練れる事に感心するのであった。 そして3人はこう思わざろうえない、ユウトを敵に回したらどれだけ恐ろしい事になるかと。 ユウト「アレナさん、相手の動きは?」 アレナ「え〜と・・・ガルバードさんらしき機影が距離630です。ジェインさんのACが先程より 動きが速いです、注意して下さい。」 ユウト「では自分が囮になります。皆さんは建物の陰に隠れていて下さい。またいつでも攻撃が可能 なようにもしておいて下さい。」 3人「了解。」 ユウト以外のACは散開し、近くの建物の陰に身を潜める。エアーファントムはその場に 立ち続け、相手の行動を誘った。 そこに誘われるかの如く、ガルバードのACウィールシェネイットが近付いて来る。その距離 はユウトの目と鼻の先であった。 ガルバード「立ち続けるとは何を考えている。」 内部通信からガルバードの肉声と思われる音声が彼に向けられた。ユウトも回線を開き、 相手に話し掛ける。 ユウト「もう少し相方を信頼してもいいと思いますが。」 ガルバード「なに・・・?!」 突如ウィールシェネイットに中型ミサイル・空中型拡散ミサイル・地上型拡散ミサイルが飛来 した。夥しいミサイルがガルバードに襲い掛かる。 ウィールシェネイットはエクステンションのミサイル迎撃装置を作動させるが、それ以上の ミサイルがACを襲った。何発かは迎撃に成功はするものの、それ以外は全てが着弾する。 防御面が弱いウィールシェネイットは、ヘッドパーツ・武器腕パーツ・両肩パーツが大破。 ガルバードは即座に沈黙、そう一瞬であった。 ユウト「作戦変更、ペアに分かれ各個撃破。」 3人「了解!」 ブースターを咆哮させ、エアーファントムは前進を開始した。そこにフェザーアローが合流、 ブラックヴィルカスターへ向かって行った。 一方のダークネスハウンドとゴールデンバードはゆっくりクウェイナイトアルオーンへと進み だす。後手に回るかの動きだが、確実に相手を誘っていた。 ジェイン「ガルバードがやられちまったぞ。」 サーベン「まずいな・・・。」 ブラックヴィルカスターはブースターダッシュを繰り返し、旧市街地の奥へ移動していく。 クウェイナイトアルオーンはそのまま進む。この時点で勝敗は決まったも同然であった。 建物の陰に隠れ、相手の様子を伺うブラックヴィルカスター。 だがフェザーアローの目は確実に相手を捕らえていた。広範囲レーザーを元にアレナが相手の 位置をユウトに連絡。ユウトはそれに従い、逆に相手を追い詰めていった。 ジェイン「・・・逃げていても埒があかないな。」 ブラックヴィルカスターは陰から出て、一番近いエアーファントムへ突撃していった。 だが待っていたかのように拡散ミサイルが飛来する。フェザーアローが建物の背後にいる相手 のマーカーが出る瞬間を狙って、既に放っていたものだ。 迎撃装置を装備していなかったブラックヴィルカスターはこれを直撃し、勢いで地面へ倒れ 込む。 そこに追撃でレーザー弾が着弾、右腕主力武器のプラズマライフルが破壊された。 しかしこのまま黙ってやられまいと、ジェインは愛機を立て直す。 だがそこに弾丸が飛来、ヘッドパーツを正確に貫く。フェザーアローの右腕装備のスナイパー ライフルがFCSの有効射程からの射撃であった。それは全く気付かない場所からの攻撃で ある。 ウィールシェネイットと同様に、ブラックヴィルカスターは呆気なく沈黙した。 サーベン「うぉぉぉぉっ!!!」 サーベンは叫びながら右腕主力武器のマシンガンを乱射、ダークネスハウンドへ突撃して いった。だが放たれた弾丸をテンポよく回避し続ける。 その後クウェイナイトアルオーンの正面から左側へ移動したダークネスハウンド。直後後方 から間隔空けずに夥しいミサイルが向かっていった。 ところがサーベンの愛機は他の2機とは違い、ミサイルに対して迎撃装置が充実していた。 ゴールデンバードから放たれたミサイル郡は殆ど迎撃される。僅かながら着弾しそうになった ミサイルを、何とシールドを展開した左腕で殴り付け破壊した。 サーベン「ミサイルは効かんっ!」 ライア「ではレーザーブレードは?」 サーベンが自慢そうにトーマスに話すと、突如視界にダークネスハウンドが現れる。 ライアがウインドのカウンター技を見よう見真似で行った所、すんなりできてしまったのだ。 と言うかクウェイナイトアルオーンがミサイルを迎撃している間に、ダークネスハウンドが 密かに接近している事に気が付かなかったサーベンである。 左腕から赤い刀剣が現れ、クウェイナイトアルオーンのヘッドパーツを正確に切り落とした。 この瞬間で3人の敗北は確定する。特に先行したガルバードは全く行動しないまま沈黙して しまったのである。 トーマス「凄いじゃないですかライアさん、すすすっとサーベンさんの機体まで進み出ましたよ。 あれは一体何なのですか?」 ライア「私達の恩師、ウインドさんが得意としているカウンター技です。相手の攻撃と共に動くので 突如現れたように見えるのですよ。」 ガレージに戻った4人はブリーフィングルームで今の試合を振り返っていた。 今の試合で賞金総額は通常の5倍に跳ね上がる。それらを山分けする事なく、3人はトーマス に譲るのであった。 トーマス「本当によろしいのですか?」 アレナ「気になさらないで下さい。今回の試合でアリーナの楽しみ方が分かりました。これだけでも 私にとっては充分に賞金です。」 ライア「これでマイホームが買えますね。」 トーマス「・・・本当にありがとうございました・・・。」 トーマスは3人に深々と頭を下げる。そして仲間というものに深く感謝するのであった。 暫く会話を続けている一同の部屋に、慌てて入室して来る人物があった。トーベナス社に いるはずのナイラである。 ナイラ「ユウトさん大変です。あの時のデアという人物がオールド・アヴァロン一帯に時限核爆弾を 仕掛けたとの通報が!」 トーマス「本当ですか?!」 ナイラ「何でも人質に母親と女の子供2人を取ったとも言っていました。確か・・・シェイレイック という方です。」 それを聞いたトーマスは愕然とする。間違いなく自分の家族である事が理解できたからだ。 突然の出来事に、両手で頭を抱えその場に蹲る。 ライア「あの野郎!!!」 ライアが激怒し、ガレージへと向かいそうになる。そこをユウトが身体を張って制止した。 ユウト「待って下さいライアさん、あの時と同じですよ。今は救出方法を練りましょう。」 ライア「・・・す・すみません。」 我に返ったライアはユウトに謝罪する。1ヶ月前と同じ過ちを繰り返す所だったと、心中で 深く反省するのであった。 その後一向はガレージへ向かい、ナイラはコンピューター端末を使用し送られて来たメール を一同に見せる。 ライア「・・・デアの野郎・・・。」 アレナ「どうしたらいいのでしょうか・・・。」 ナイラ「今回の目的は私達のようです。特にライアさん、貴女に対してです。」 案の定矛先はライアに向けられていた。余程彼女を潰したいのだろうと、ユウトやナイラを 始め後から知ったアレナやトーマスは思った。 ライア「いいでしょう、私が行きます。皆さんはここで待機していて下さい。」 やはり先走り愛機の元へと走っていくライア。ユウトは今度は制止する暇がなく、彼女の行動 を許してしまった。後ろから彼女を大声で呼び止めるも甲斐なく、ライアは愛機の元へと駆け 足で向かっていってしまう。 だが自分の愛機の足元に寄りかかる人物が見える。その人物は彼女を見ると徐に話しだした。 ウインド「待てライア。闇雲に動けば奴の思う壺だ。確実な作戦を練り、救出に当たった方がいい。 それに敵さんはご丁寧に待っているようだ。」 今度のそれを制止したのは、火星で世話になりその後別れたウインドであった。 ライア「ウインドさん!」 ライアの一声を聞いたナイラ・トーマス・アレナは驚いた。 目の前にいる優男があの伝説のレイヴン、ウインドであるからだ。そして自分達にとっては 憧れの存在、驚かないレイヴンはおかしいぐらいだろう。 ウインドは徐に一同の元へと歩み寄って来る。 ナイラ「あ・・貴男様が・・・ウインド様・・・。」 ウインド「平西奈衣羅だな。確かにユキナに似ている。お前を見る限り、青い鷹は受け継がれている ようだ。」 開いた口が塞がらない3人。とにかく心の底から驚いている事に変わりはなかった。 ユウト「ウインドさん、どうしてここに?」 ウインド「デアの手口は卑怯極まりない。今のお前達ではトーマスの家族を救出する事はできない。 それで制止に来たのだ。」 ライア「そ・・それは私達が未熟だからですか?」 悲しさと怒りが織り交ざった声で、ライアが発言する。 2回目の出会いだが、今だに緊張するそのプレッシャー。それは1回目の時より闘気が全く 違うからだ。 だが自分達の未熟さゆえだと勘違いしたライアは半ば怒り気味。それが伝説のレイヴンだと してもだ。 ウインド「それは違う。今のお前達はデアやゴリアッグよりレベルは上。だが言っただろう、手口が 卑怯極まりないと。下手に動いた場合、家族の命が危険にさらされる。」 ライア「そうでしたか・・・。」 ウインド「フッ、別に貶している訳ではない。」 ライアの心中を見抜いてそう話すウインド。それを聞いた彼女は苦笑いを浮かべる。 ウインド「こういった事に打って付けの人物がいる。オールド・ガル近郊に住む、キュービヌの師匠 ライディル=クルヴェイアだ。彼なら力を貸してくれる。オールド・ガルの炭鉱跡地に 行けば、彼がいるだろう。」 ナイラ「ウインド様がお力をお貸ししてくれるのではないのですか?」 ウインド「それではお前達の存在する意味がないだろう。俺は助言者、未来を切り開くのはお前達。 それだけだ。」 トーマス「・・・了解です、早速ライディルさんに交渉してきます。」 アレナ「私も同行しますよ。」 ユウト「自分も同じく。」 早速行動を開始するトーマス・ユウト・アレナ。ガレージに待機中の愛機に乗り込み、一路 オールド・ガルへと向かって行った。 3人がガレージから去っていった姿を見つめるウインド。その落ち着いた姿を見たライアは 落ち着きを隠せない。 ライア「ウインドさん。このような無駄な時間を費やして・・・ご家族の方は無事なのですか?」 これは誰もが思う事だろう。ライアを始め、ナイラも他の3人も心中ではそう思っていた。 ウインド「奴等の本質を知るんだ。愛する者が目の前で殺される事をこの上なく好む連中が破壊神、 すぐには殺さない。むしろ今の時を苦しめという事なんだよ。」 ライア「・・・悔しいですが、確かに一理あります。あいつ等が考えそうな事ですよ。」 全くもって正論だとライアは頷く。卑怯な者とはこういった異常者の事を指し示している。 ウインド「もし本当に危険な場合は俺が動こう。お前達に行動しろといった物言いだが、これは今後 のお前達に必要な事なのだ。全て自身の成長の為の試練だと思いな。俺はその手助けや 助言をしているに過ぎない。」 ライア「分かりました、感謝します。」 まるで父から指導を受けている子供のような一面を見せるライア。それを見たナイラはこれが 師弟なのかと痛感した。 その後ウインドは徐にナイラのACトゥルース・ロードに近付き、その機体を眺めだす。 それに気付いたナイラは彼の元に近付いていく。当然ライアも同様に。 ナイラ「珍しいですか?」 ウインド「機体構成は俺のウインドブレイドと同じだ。今は改装中で動かせないがな。」 ナイラ「当然ですよ。ウインド様のACと似ているのは、貴方を憧れてですから。」 ウインド「フフッ、ユキナと同じ事を言うんだな。」 トゥルース・ロードを眺めながら、ウインドはそう呟く。その視線は遠くを見つめ、まるで 過去を詮索しているかのようである。 これらの言動を目の当たりにしたナイラはユウト並みの直感が働き、その青年風の姿の答えを 話しだす。 ナイラ「・・・祖母が話していました。今でも守護神に守られていると。その守護神はウインド様の 大の親友のシェガーヴァ様。貴方のその若々しい容姿、それはクローンとして今の世に転生 なさったのですね?」 ウインド「鋭い洞察力だな、その通りだ。本来の年齢は200歳を超えている。それに俺は一度、 シェガーヴァによってこの世を去っている。俺は完全なクローン体だ。」 ライア「2・・・200歳・・・。」 彼の素性を知ったライアは驚愕し、その常識をも覆す行動に驚きの連続であった。 その後ガレージのベンチに腰をかけ、3人は会話を続ける。 ウインド「俺の深く大きな罪滅ぼしは、今も続いている。お前達を助け悪を滅する事こそが、俺の 罪滅ぼし・・・。」 ウインドの心中が伝わるように、ライアとナイラはその悲しい念が伝わってくるようである。 その悲しみは癒す言葉を思い出させる事ができなく、2人はただ黙って彼を見つめるだけで あった。 ナイラ「・・・力になってあげたい。」 ウインド「フフッ、ありがとよ。だがお前達にはやるべき事があるはずだ。それをしっかりと貫き 通しな。それだけで俺は充分に嬉しい。」 ライア「・・・おじいさん、レイスさんはどんな人だったのですか?」 珍しい発言をするライアにナイラは驚く。だが内容を聞くと同時に、その意味が分かるので ある。 ウインド「気丈な娘だった。俺の事を毎日のように気にしてくれたよ。そして強い人物でもあった。 だが深く悩む性格が、彼女を殺人鬼へと変えてしまった。それがお前の両親とナイラの 叔父に当たり、ライアの祖父を殺すに至ったのだ。」 ナイラ「そ・・そんな・・・。叔父様は・・・レイスさんに殺されたのですか・・・。」 ウインド「ああ。」 ライア「で・・ですが・・・余ほどの事がない限り、立派な人が殺人鬼になるとは思えません。」 ウインドの事例を当てはめ、心が不動の如く座っている人物はそう簡単に堕ちないと思った。 だが次の発言を聞いた2人はそれが覆された。 ウインド「立派な故に殺人鬼へとなったのだ。そう・・・彼女は立派過ぎたんだよ、全てにおいて。 そこに・・・俺があの言葉を話さなければ、このような事が起きる事はなかった。」 俯きながら、ウインドはそう話す。その言葉を聞き、2人は心が重苦しくなる。 ウインド「昔のお前は、もっと立派だったぞ。今のお前は、現実から逃げているに過ぎない。」 低く悲しい声で発せられた言葉に、2人は心中が重く苦しくなる。今のこの感情がおそらく レイスにのし掛かったのだろうと思った。 ウインド「これを話した時、レイスは変わった。今までの自分に対する苛立ち・怒り・悲しみが一気 に爆発し、俺やお前の祖父から去ったのだ。」 暫くの間、ガレージに沈黙が続く。 その後ウインドが徐に話を続けだす。 ウインド「・・・半年後、レイスは帰ってきた。そう・・殺人鬼に変わってな。黒い魔女との異名を 持っていたが、あの時の彼女は破壊の魔女だった。全てのものを壊し・人を殺し、そして お前達の大切な人の命を奪った・・・。」 再び沈黙がガレージを包む。機械音だけが虚しく響き渡っている。 その沈黙は前よりも長かった。この長さに耐え切れずナイラが続きを急かしだす。 ナイラ「・・・その後どうなったのですか?」 ウインド「これ以上彼女に罪を重ねて欲しくないと思ってな。俺のこの手で彼女を殺した。」 その言葉に2人は何も言えなくなる。ライアは既に聞かされていた事だが、ここまで詳しく 知ると何も言えなくなる。 ウインド「俺はお前達レイスと縁を受け継ぐ者に言いたい。彼女の一途さは受け継いでいい。だが 自分を責めたり、全てに絶望はするな。それこそ己の破滅の時だ。」 徐にその場から立つと、ウインドは天井を見つめ語りだす。 ウインド「ある意味・・・レイスはこの事を教える為に殺人鬼へと変貌したのかもな。お前達に同じ 過ちを犯してほしくない事を願いつつ・・・。」 ウインドの頬に一筋の涙が流れる。それに気付いた2人は今までにない悲しい気分になる。 自分達にこの事を教えるべく、過去の辛い現実と向き合った。これは今の人間であれば、 並大抵の事ではできないだろう。 暫くすると右手で涙を拭い、再びベンチに座った。 ウインド「その後、俺はウインドブレイドに乗らなくなった。俺自身の罪として、それを忘れない ように。」 ライア「・・・何だかゴリアッグからユウトさん達を助ける時のあの動き。あれはまるでおじいさん の意識が私に乗り移ったみたい・・・。」 ウインド「ああ、あの時か。俺のカウンター技はユキナに受け継がれ、そしてナイラ・ライアへと 受け継がれたようだな。」 ユウト達を助けた時のライアは気迫が違っていた。同乗するウインドの意識がそのまま彼女に 流れ、今まで以上の力が出せていたようである。 ウインド「あの時のお前の集中力は凄まじかったぞ。カウンター技は集中力を多く使う。一点に的を 絞り、相手の行動を見定め一撃必殺の一閃を繰り出す。これこそがカウンター技の奥義。 まあ奥義とは言えないがな。」 ジャケットの懐から煙草ケースとライターを取り出し徐に吸い出す。その仕草はやはり年配者 の如く、どことなく気品を感じさせる。 ウインド「まあカウンターカウンターというが、実際問題格闘技とは異なる。あれだけの大質量の ACを人間と同じように動かすのだからな。てこの原理も利用しないと不可能だ。」 苦笑いを浮かべながら語る。その硬い表情から優しくなった彼を見つめ、ライアとナイラは 心が温かくなる。 ウインドは相手の心までも動かすほどの人物だと、2人は身を以って知る。 ライア「私も強くなりたいです。今以上に・・・。」 ウインド「戦うという意思と仲間を思う気持ちはユウト以上だ。あの時の発言は、お前の内なる心が 叫んだもの。だが不の感情に取り込まれないように注意しな。」 顔でレイスと同じ過ちを繰り返すなと語り、ウインドはそう行動した。それを見抜いたライア とナイラは、心中でその言葉を心に刻み付けた。 ナイラ「話は変わりますが、ユウトさん達が戻ってきたらどうなされますか?」 ナイラが今後の行動を催促した。ウインドは灰皿に煙草を捨て、煙草ケースとライターを ジャケットにしまう。そして今後の行動の大まかな事を話しだした。 ウインド「作戦を練る。先刻話した通り、デアの手口は卑怯極まりない。救出部隊と爆弾解体部隊の 2班に分かれ、行動をする。俺はここに残り、通信を通してお前達をサポートしよう。」 ライア「了解です。あとはユウトさん達が帰ってくるのを待つだけ・・・。」 自分では思っていないだろうが、ライアはユウトの事になると瞳が輝いている。それは当然 愛の何ものでもなく、相手をどれだけ好いているか自ずと窺えよう。 ウインド「ユウトに一目惚れか、お前らしいな。」 意外な事を言われ、ライアは赤面し慌てふためく。それを見たウインドは小さく笑うので あった。 ライア「ちょ・・ちょっとウインドさん!」 ウインド「ハハッ、いいじゃないか。女は恋をする事によって美しくなり強くなる。ナイラも男の ようなクールさを続けるのはいい。だが偶には異性に甘えるんだな。」 ナイラ「な・・・ちょっとウインドさん・・・。」 ライアと同じ反応をするナイラ。頬は彼女以上に真っ赤に染まっている。この仕草を見て、 レイスの後継者だなとウインドは思った。 その後ウインドはACの操作関係の技術を、2人に詳しく話しだす。少しでも彼女達の力に なれるようにと、彼なりの配慮だった。 ライアとナイラはウインドからの指導を熱心に聞く。それは一生に一度もないような指導で あろう。 第5話へ続く |
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