第3部 9人の勇士 36人の猛将 〜第3話 蟠りを超えて2〜 その日はマキの両親を偲びつつ、一同は酒を飲み交わした。 酒を飲めない者は何かしらの飲み物で。一同何故かそうせずにはいられなかったのだ。 この日ばかりはその雰囲気を悟ってか、6人の子供達は何時になく大人しかった。 アマギ「先ほどの話ではユウト君とは初対面だったそうで?」 マキ「はい。名前は前から知っていましたが、まさか従兄弟だとは思いませんでした。」 落ちこみようは酷かったが明るさが取り柄のアマギ=シャドウ。直ぐに彼女と意気投合し、 酒が2人の会話を弾ませた。 同様にウインドの自室では彼以外が大賑わいで騒いでいる。 アマギ「そうですか、ユウト君以上に戦い続けていたのですね。」 マキ「生きるためでしたから。」 明るい物腰のアマギに心を躍らせるマキ。祖父には変わりないが、目の前の祖父は自分より 若い。 そしてオリジナルアマギ独特の異性を引き付けるといった魅力もある。会話していくうちに その魅力に引かれていた。 マキ「お歳は取らないのですね。」 アマギ「遺伝子操作で外見の成長は止まっています。ウインドさんもレイスさんもデュウバさんも 同じです。まあタブーには変わりませんが、何度も年老いて死んでるようでは戦えませんし ね。」 その気さくさには驚かされるばかりである。酒が会話を押し進めているとはいえ、殆ど口に していない。ボトル1本も空かしていないのだ。 マキ「もっと早くにお会いしたかった。」 アマギ「自分もです。もっともマキさんのお母さんの時からお会いしたかったのですがね。」 苦笑いをする彼に再び心が躍る。祖父の言動のどれもが新鮮で楽しい。父親しか知らない彼女 にとって、同世代の人間は接しやすかった。 そんな2人を遠巻きに、ライアとマイアは安心した表情で見つめていた。 大食堂には他の面々も酒を飲み交わしているが、殆ど相方や複数での会話に集中している。 2人が心配して様子を見ているので、子供達の面倒はユウトやレイシェムが行っていた。 悪戦苦闘するものの、やはり我が子や子供は可愛くて仕方がない。ユウトは笑顔を絶やさず 接していた。 アマギとマキ。両者はもう心配要らないと感じたライア。 妊婦から普通の女性に戻った彼女は今までのブランクを取り戻すべく、ガレージにて愛機の メンテナンスやシミュレーターで己の腕を磨いた。 そう、ライアはレイヴンとしての道を諦めてはいなかった。 ユウトは子育てもあり、来るべき決戦まではそちらを優先するつもりだった。それはライアを 労っての行動である。 今平西財閥には39人の勇士が集っている。 時期に来るであろうデヴィルの軍勢を叩くまで、各々修行の毎日を過ごした。 シェガーヴァ「久し振りだろ、コクピットに座るのは。」 ライア「ですね。流石約2年間のブランクは大きいです。」 酒が飲めないシェガーヴァはライアのサポートに回っていた。 身体が金属なので、活力となるものは電気が元である。しかし電源供給では限度があるので、 最近開発した小型携帯原子炉をコアとして稼動いる。正に動く核弾頭といっていいだろう。 それはレイシェムも同様であった。 シミュレーターで何度か機体の操作を行うと、愛機を解体し清掃する。その後元あった武装 へ換装し、最終チェックへと移る。その手際の良さにシェガーヴァは小さく驚いていた。 ライア「よーしっ、これで実戦可能っと。」 シェガーヴァ「ふむ、オールグリーンだな。完璧に仕上がってる。」 ライア「ヘヘッ、恐れ入ります。後は実戦テストですね。」 実戦を行うには実際に戦った方が戦闘力が把握できた。しかしアリーナへ赴くのは指名手配で ある自分には厳しいものがある、ライアはそう思っていた。 暫くして何かを思いついたらしく、シェガーヴァに相談を持ち掛ける。 ライア「そうだ小父様、財閥にヴァスタールの予備は残っていませんか?」 シェガーヴァ「火星の守備を強化したからな。造り上げた200体全て火星本社に護衛で回した。 ここには人工知能ACはない。」 ライア「むう・・・その性能を確かめたかったのですが・・・。」 シェガーヴァ「ああ、それなら可能だ。」 とんでもない事になったと、ライアはコクピット内部で思っていた。 人工知能ヴァスタールのコアは全て火星の護衛に回した。それはシェガーヴァが告げた通り。 だがヴァスタールのコアを作成したのは彼自身だ。故に己の筐体にそのロジックをアップ ロードすれば、同じ動きが可能だと告げたのだ。 つまり本来のシェガーヴァの戦闘力ではなく、シェガーヴァのボディをコアとした筐体の ヴァスタールとの対戦を行う事になったのだ。 ライアとシェガーヴァ、ダークネスハウンドとゴースト・キャット。財閥の外にて対峙する 2機のAC。一定距離を保ったまま、静止した時が過ぎる。 偲び酒を飲んでいた一行は外部カメラからの映像に見入っていた。これから行われる戦闘は 滅多に見れないものである。 シェガーヴァ「アップロード完了。では始めるぞ。」 ライア「いえっさ。」 どちらからともなく発砲を開始する。 マシンガン系の武装で固めたダークネスハウンド、逆にゴースト・キャットはレーザー兵器の 武装だ。 一撃の重みはシェガーヴァに分がある。だがライアの機転溢れる行動も未知数で、この勝負 どちらが勝つか分からなかった。 両者ともブースターダッシュによる平行移動を続け、間合いを取りながら攻撃を続ける。 ライアはマシンガンで段幕を張り、ゴースト・キャットの動きを読んだ。ブランクによる 腕の弱体化がどこまで深刻化しているのか、それを確認しつつの行動である。 シェガーヴァは強化人間特有の動きながらキャノンによる攻撃を繰り返す。放たれるパルス キャノンは確実にライアを捉えていた。 だが両者とも当たらない。確実に命中させているつもりが全て回避されていた。 特にライアは直前回避によるものである。まだ機体操作に慣れていない様子であった。 また回避はシェガーヴァにも当てはまり、段幕を張る弾丸全て読み切ってるかのように回避 している。 一定距離を動き回り、ある時は空中でまたある時はヒットアンドアウェイをする両者。 その戦いはまるでアリーナのトップバトルのようであった。 機体性能的にゴースト・キャットの方に分があったが、ダークネスハウンドも決して負けて はいなかった。それは機体性能以上にライアの腕の良さである。 当てずっぽうで段幕を張っていたのは相手の動きを読む戦法。ある程度ロジックを理解した ライアはマシンガンではあるが、確実にシェガーヴァに当てるようになっていった。 逆に機械独特の必中ともいえる射撃はどれも命中せず、その殆どが空振りに終わっていた。 ライアの腕がヴァスタールのコアより高いと確信したシェガーヴァ。彼は攻撃し続けている 間に、何とヴァスタールのロジックを止めた。 つまりその瞬間からシェガーヴァ自身が直接ライアと対戦しだしたのだ。 針の穴にでも通すような射撃を開始したゴースト・キャット。それはダークネスハウンドの 駆動系ユニットを1つまた1つと撃ち抜く。しかし相手が行動不能にならない程度である。 だがその攻撃を一定数食らうと、突如と当たらなくなっていった。 シェガーヴァは驚いた。自分の十八番である精密射撃がいとも簡単に回避されだした事に。 戦闘開始よりどんどんスピードを増すライアに、シェガーヴァは追いついていけなかった。 孫の力に歓喜するシェガーヴァ、自分の力がここまで高い事を知って燃え上がるライア。 ライアはオーバードブーストを発動、赤い炎を纏いシェガーヴァに突撃する。 対するシェガーヴァもオーバードブーストを発動させ、同じく突撃を開始した。 2機のACの距離はグングン縮まり、あっという間にぶつかる寸前まで接近する。 とその直後2機は突然その場から消え去り、暫くしてお互い後方へと出た。 着地すると両者とも同時に、そう全く同時にヘッドパーツが地面へと落ちた。 シェガーヴァが基礎となり、ウインド・ユキナ・ライアへと受け継がれたカウンター斬撃で ある。それを両者とも寸分違わず繰り出していたのである。 ヘッドパーツが切り落とされた事により、2機のACは沈黙した。 開始から2分も経たない戦闘であった。 大型ガレージでは驚愕し続けるレイヴン達。 約2年間妊婦でありレイヴン活動を休止していたライア。その彼女がシェガーヴァと互角の 戦闘を繰り広げていた。 開始早々はヴァスタールのコアが起動していた事は全員が承知していた。だが一定時間を 過ぎた後、シェガーヴァ本人が動き出していた事も承知済み。 ウインドと大差ないレベルのシェガーヴァに真っ向勝負で戦いドローを勝ち取ったライア。 一同はただただ圧倒され敬意を表するしかなかった。 ライア「小父様ずるいですよぉ、後半本気を出したでしょ?」 シェガーヴァ「ヴァスタールが負けるのは構わなかったが、私自身にもプライドはある。ライアこそ ヴァスタールを超えた動きをしていた。それを見切った直後からロジックを停止し、 本気を出させてもらった。私もレイヴンの端くれ、そう易々と勝たさせはしない。」 今までにないシェガーヴァの高揚した発言に、ライアの行動が彼に火を付けた事は理解した。 だがその声は高らかで清らか。合成音声ではあるが戦いきったというものの歓喜溢れるもので あった。 シェガーヴァ「だが・・・よくぞここまで成長したな。祖父として嬉しく思う。」 ライアの頭を撫でるシェガーヴァ。ライアは褒められたと言わんばかりにはにかみ、小さく 舌を出して照れた。 ライア「子供達を産むまでの病室生活。その間頭の中ではどう戦えばいいかとか考えてましたよ。 しかし実際に動けるかどうかは別でした。」 シェガーヴァ「ふむ。約2年もの間、イメージトレーニングを続けていたのか。実際に戦闘で慣れる ものも修行といえるが、イメージトレーニングでの強化も十分現実に反映される。 それを見事に行ったお前には敬意を表するよ。」 ライア「でもまだまだブランクは取り戻せてません。もっと一杯戦わないと。」 遠巻きに見つめるレイヴン達を見回し、ニヤリと笑うライア。その不気味な笑顔に後退りする 面々であった。 しかしライアが実演したイメージトレーニング。これほどまでに有効という事実を知った 一同。心中にて暇な時は行おうと秘かに決意を固めた。 辺りは暗くなり、星空が輝く夜中。 ライアの行動に火が付いていったレイヴン達。愛機のメンテナンスから始まり恒例のイメージ トレーニングまでも進んで行うようになる。 食事中も入浴中もイメージは続いていた。 ライア「もしかして・・・、お父様が強いのは常日頃からイメージトレーニングを行っていたから ですか?」 ウインド「何だ、今頃気付いたのか。戦闘しない時、暇な時などは全てイメージでの戦闘中だよ。 相手は自分に一番近い存在である己自身との戦い。だがやりすぎてノイローゼになった 時もあったが。」 苦笑いをするウインド。 集中する出来事など意外の時間は全てイメージを膨らませ、心中での己との戦闘を続けていた という。己では限界があると感じた時は身近な人物を相手に。 その繰り返しをレイヴン成り立ての頃から続けてきたというのだ。 ライア「ね・・年季が違いますね・・・。」 ウインド「伊達に150以上は生きてないぞ。」 きゃいきゃいはしゃぐライア。 母親になったとはいえまだ20歳前後。遊び盛りの小さな母は女性としての生き方を満喫して いる。それは言動を見れば一目瞭然である。 ウインド「しかしな、約2年でシェガーヴァと互角か。お前には頭が上がらない。俺等は今の力を 身に付けるまで約200年近く掛かった。お前は約2年、しかもイメージのみでの戦い。 真女性には敵わないなぁ・・・。」 女性陣であるウィンを筆頭にメルア・レイス姉妹・デュウバ姉妹など。その原動力となる力は 男性を遙かに超えている。 特に恋する者・守るべき者がいる女性ほど究極の存在はいない。男性など足元にも及ばない のは当たり前である。 300年近く生き続け、どの時代も女性が強いと痛感させられた。 ウインド「子供達もレイヴンになるだろう。お前のその一途な姿、絶対憧れない訳がない。」 レイアとリュム、2人の姉であるユウとアイ。そして4人の姉であるターリュとミュック。 そのやんちゃ振りがそのまま反映される事を考え、ウインドもライアも苦笑いを浮かべた。 酒が回り完全に酔ったマキ。当然であろう、今まで飲酒などした事などなかったのだから。 殆ど歩行困難なマキを抱きかかえ、アマギは新しく用意された彼女の自室へと向かう。 会話が進むにつれて飲む勢いが増していった。気付いた時にはベロベロになるまで飲み干して いたのである。 マキ「う〜・・・気持ち悪い・・・。」 アマギ「飲み過ぎですよ。」 自室のベッドに寝かせると、アマギはそのベッドの端に腰を掛ける。 一応吹っ切れた形にはなっていたが、心中ではまだ己を許せない自分がいた。 それはマキが会話をする事で彼女は薄らいでいったのに対して、アマギは逆に深く心中に傷付 いていったのである。 額に手を当て唸る彼女を見つめ、自分はどうしたら償えるのかと自問自答していた。 メルアやレイス姉・そしてライアが行った我武者羅に進む。これが一番の解決策であったが、 人一倍生真面目な彼にとって悩み出すと深く考え込むようになっていった。 マキ「・・・まだお悩みですか・・・。」 そんな彼を見透かしてか、徐にそちらに向き語りだす。酔ってるとはいえ、言動はしっかり している。マキが酒には強いという現われであろう。 マキ「心配しないでいいですよ。過ぎ去った事ですし。それに姉さんが諭してくれた、私はその生き 方を実践します。」 アマギ「それは分かります。マキさんが仮にも立ち直ったという事は。しかし自分自身はその過ちを 許しません。貴女が本当に幸せになるまで、自分は貴女の分の悩みまで苦しみます。」 マキは心中が苦しくなった。 自分の辛い過去を負担するため、アマギは自分の悩みをも抱え苦しむという。端から見れば 何を考えているのだと激怒する事だろう。 しかしマキも元来、根は生真面目。自分の事をここまで心配している彼に、胸が張り裂け そうな思いだった。 ウインド(亡き者の願う事はただ一つ、生きている者の幸せだ) ウインドがマキに対して語った言葉。幸せとは自分で掴むもの、自分で作るものだ。 今はまだ心中が不安定な自分の事だ、これからも過去を思い出し苦しむだろう。それを彼は 自分の事のように苦しみ続けている。いや苦しみ続けるだろう。 自分が立ち直り幸せになった時、初めて両者とも本当に笑う事が出来る。 涙が止まらない。血縁はあるとしても今日初めてあった他人だ。その彼が自分の事のように 苦しんでいる。その姿は彼女にとって苦痛の何ものでもなかった。 マキ「私・・・私・・・・・。」 アマギ「泣かないで下さい。貴女には笑顔が似合います。その笑顔が私にとって一番の幸せです。 どんなに辛くとも突き進んで下さい。私の大切な人なのですから。」 マキは飛び起き彼に抱きつき大泣きした。アマギは優しく彼女を抱きしめる。その胸中で思う 存分泣かせてあげた。 大食堂でもマキは声をあげて大泣きしたかった。しかし気丈である彼女にとって、それは したくない事。それに心を許せる人物はいない。 だが目の前の彼なら心を許せる、許せるからこそ心を開き泣いたのだ。 2人はそうして寄り添い続けたのだった。 彼の胸中で静かに眠るマキ。その彼女の頭をそっと撫でるアマギ。 マキはアマギを求めた、祖父である彼を。だが彼女の目には祖父ではなく、自分を心から 心配してくれる1人の男性として映っていた。迷いはなかった。 アマギも下らぬ蟠りを捨て、彼女を受け入れた。彼女は自分を求めている。それによって 罪滅ぼしになるのならと、迷う事もなくそれに応じた。 マキは欲していたのだ、自分の大切な人となる存在を。 3歳まで育ててくれたであろう亡き父を、自分を思い苦しむアマギの姿に思い浮かべていた。 幼少の頃、その存在は父親という形を欲していた。しかし年を重ねる事により、それは自分 の大切な存在へ変わっていった。 ウインドがレイス妹とデュウバ姉を一夜を共にした事、それはアマギも知っていた。 タブーである行いを愛情が凌駕したのだ。 アマギもマキも僅か数時間しか経っていないのに、お互い心を許せ合う存在になった。 それはお互いを求愛したという事になる。タブーという蟠りなど問題ではない、今お互いが 求め合っている。必要と感じているからこそ求め合ったのだ。下らぬ概念に囚われる必要など ないと。 この瞬間彼もまた真の戦士として目覚めたのであった。 第3話 3へ続く |
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
戻る |