第3部 9人の勇士 36人の猛将
   〜第3話 蟠りを超えて1〜
    セントラルオブアース。
   この近郊にアリーナの修行層ともいえるサブアリーナ中心の施設がある。
    レイヴン成り立ての新米はまずはここから修行を積むが、いきなり高レベルのアリーナへ
   参戦する無謀者もいる。
   しかしそういった無謀者が大きく花開かせると言った事もまた事実である。
    しっかり確実に力を付けるサブアリーナか、道は険しいが直ぐに強くなるアリーナか。
   それはレイヴン次第であった。

    そんな中、我武者羅にまるで気づいてもらうように動き続けるレイヴンがあった。
    マキ=ヨシクラ。
   アマギが真っ先に気にしだした由来、セカンドネームの吉倉にある。彼女は自分の兄の血縁に
   当たるのか。
   その真意を確かめるべく、3人のクローンファイターは動きだしていた。

レイス姉「やはりサブアリーナ内では一目置かれる存在のようですよ。」
    現地のガレージへ到着した3人は情報収集に奔走した。相手の真意が分からない以上、現地
   で情報を集めるしか手がなかった。
   いや手段はあるにはある。だがそれを行っていいのかどうかと、3人は心中で思い悩んだ。
ユウト(マイアさんの力を確かめるべく戦闘しましたよ)
    過去にユウトがマイアと対戦した時の様子を思い出した3人。やはり直接対峙した方が手っ
   取り早いと痛感した。
    しかし思い止まる事が1つだけある。それはユウトと自分達との事。
   いくら変装をしたとはいえ、自分達はクローンファイターだ。
    本来は陰の戦いに徹する事が目的であり、表だって行動するのはよろしくない。それが自分
   達の行動を抑制するものとなっていたのだ。
    それを見透かしてだろうか、突如携帯端末が鳴り響く。レイス妹は端末を手に取り、通信を
   開始しだした。
レイス妹「はい・・・はい、了解です。」
アマギ「どうされました?」
   どこか安心した表情をした彼女に内容を聞く2人。だが歴戦の強者の2人は、薄々は理解した
   様子であった。
レイス妹「父からです。エリディムさんを派遣するので率先して動かしてくれとの事。」
   流石風の剣士だと2人は痛感した。
   本当に必要で本当に願っている事を瞬時に実行してくれる彼に3人は敬意を表した。
    ガレージにて吉倉真希に関するデータを悩みつつ見ていた彼等、ウインドはこういった悩み
   がでると薄々気付いていたようである。
    またエリディムも己の修行も兼ねて、3人の代表として行動する事を志願したのであった。
   3人は今後の作戦を考えつつ、エリディムが到着するのを待った。

女性レイヴン「姉御〜、対戦依頼が来てますよ〜。」
    不慣れな手つきでコンピューターを操作するレイヴン。その近くにはもう1人同じく不慣れ
   な格好で資料を見入っている。
    ガヴュレス=ガードにアキコ=イケミヤ、そして別の場所でコンピューターを操作している
   マキ=ヨシクラ。
    3人とも調べているものは、あのクローンエルディル達との決戦を録画した動画データだ。
   そう3人もまたエリディム同様、ロストナンバーレイヴンズの戦いに感銘した者達である。
   だがマキには別の何かしらの思いがあるようだ。
マキ「対戦相手は誰ですか?」
アキコ「エリディム=クライゼイルという女性レイヴンです。手合わせ願いたいとの事。」
   エリディムと合流したアマギ・レイス姉妹は早速行動を開始。
   エリディムが中心になって行動してくれる事になったので、3人は自分達が動きたいが動け
   ない分のサポートに回る。それはエリディムも理解しており、我勇んで行動を開始した。
ガヴュレス「対戦戦績を見ると、アリーナで中位を維持するレイヴンらしいです。」
マキ「受けましょう。相手にそう伝えて下さい。」
   かくしてマキとエリディムの接触は開始した。
   両者とも求めるものはお互いであり、また伝説のレイヴンの存在が彼女達を押し進めていた。
   対戦開始時間は1時間後。その間お互いは万全な体制で対戦できるように準備を進めた。

ウインド「ふむ、やはり接触理由はこれか・・・。」
    大型ガレージのソファーに6人の可愛い天使達が寝息を立てて眠っている。
   その束の間に間にウインドは吉倉真希に関するデータを見ていた。そして彼女が自分達に接触
   する理由を知ったのである。
ウィン「やはり復讐、ですか?」
    彼の側に黙って立ちつくすウィンが静かに語る。ウインドは沈黙を以って答えた。
   吉倉真希はオリジナルアマギの孫であったのだ。
    ユウトの母親である吉倉秋の妹、吉倉有紀。それは正に隠し子に近かった。
   アマギとユリコの間に生まれた子供ではあったが、生まれつき虚弱で長くはないと思われて
   いた。
   2人は身を裂く思いでユキを病院に預ける。だがそれが今生の別れであったのだ。
    その後大深度戦争へと移っていった事により、ユキにまで手が回らなかったのである。
   辛うじて生死を乗り越えたユキは男性と結ばれ子供を産む。しかし子供を産む引き替えにその
   命を燃やし尽くした。
    母親の顔を見た事のないマキ。男手一つでマキを育てた父親もまた、火星へと移住する際に
   テロリストの愚策で命を落とす。この時マキは3歳。
ウィン「天城様に別のお子様がいらっしゃったとは・・・。」
ウインド「俺もアマギからは聞いていたが、それ以上は彼が辛そうだったから触れなかった。まさか
     その孫がこのような形で現れるとはな。」
    ウインドは思った。
   このアリーナ個人戦績などによる自分を示すという行為。これは自分達に気付いてもらうと
   いう意味もある。
   しかし真の意味は復讐にあると痛感した。
    両親が他界した後、誰も自分を助けてくれはしなかった。孤児として育ちユウトと同じ年代
   にレイヴンになった。
    そして一心不乱・破竹の勢いで駆け上がった。
   今現在24歳。ユウトとは5歳年が離れている。姉に当たる彼女、当然彼の事は既に知って
   いるであろう。

ウィン「しかし本当に復讐なのでしょうか。」
ウインド「これを見てみな。」
    ウインドは別の画面を映し出しウィンに見せる。それを見た彼女は納得した。
   孤児の時に密かに付けていた日記。彼女を調べている時にいとも簡単に見つけたらしい。
   日記のどのページにも許せない者がいると記述されている。
ウィン「よく見つけましたね。」
ウインド「見つけるも何も、マキの名前を検索したら出てきた。まるでこれを読んでくれと言わん
     ばかりにな。」
ウィン「しかし諭す事は可能でしょう?」
ウインド「それはアマギの子孫であるユウトやクローンであるアマギ自身にかかってる。本心までは
     見抜けないが、心中に深い傷があるのは事実。」
   ウインドは携帯端末を使いアマギに連絡を入れ、今調べた事を細かく語る。またそれは他の
   面々には話すなとも告げた。
    通信を終えると深いため息をつくウインド。そんな彼の肩に静かに手を置くウィン。
   マキの存在が再び彼の苦悩として焼き付いた。それを感じ取るウィンであった。

    同じ頃アマギも心が苦しかった。また全く知らされていなかった事実を知り、叔父として
   不甲斐ないと心中で自分を責めた。
   自分の孫が知らない場所で苦しんでいる。それ自体彼にとってかなりの苦悩であった。
    しかしアマギはそういった悩みを表に出した事は一切ない。心中に抱え込む事はよくない事
   であるが、それを表に出し周りを苦しめる事は一切しなかった。これがオリジナルアマギと
   違う点であろう。
    また歴戦のレイヴンなだけにレイス姉妹にも気付かれない。これがウインドやオリジナル
   アマギとは違う能力でもあった。
   普段同様の明るい笑顔で接する彼に、悩みはないと周りは思っていた。

レイス妹「始まりましたよ。」
    今し方エリディムとマキは対戦を開始した。
   マキは熟練レイヴンだがエリディムは新米レイヴン。だが踊り子としての直感や洞察力が凡人
   より優れている分、その穴を埋め合わしている。言うなればお互い互角の力であった。
    普通に2人の対戦を黙視しているアマギだが、心中は彼女に対する罪悪感に駆られていた。
   祖父でも親でもない。血は繋がっているが直接的な責任はアマギ=シャドウにはなかった。
    しかし吉倉天城以上に責任感と優しさが強い彼の事、祖父以上に悪いという意識に駆られて
   しまっていた。まあそれがアマギにとって何ものでもない優しさではあるが。
アマギ「ちょっと外しますね。」
   ガレージから離れて1人外へと出る。と同時に涙が流れた。
   悲しくて仕方がない、罪悪感で自分が苛立たしい。今まで体験した事がない感情に駆られて、
   アマギはどうしていいか分からなくなっていた。

    試合中のマキ。心中では互角以上に戦うエリディムの勇猛振りに歓喜していた。
   しかし心の奥底では復讐の二文字が徐々に浮き出してきた。
    ロストナンバーレイヴンズに接触できれば必ず祖父の子孫と会えると直感していたからだ。
   しかし祖父のレイヴンとしての実績などを見ればどう考えても悪い者には見えない。
    また他人を助けるというタブーとされた行いを率先して行う行動にも共感を感じていた。
   自分が憧れていたナインブレイカー、小松崎優斗と同じ境涯になりたいと思っていたのだ。
   そう、マキはユウトがアマギの孫とは知らなかったのである。
   憧れる先輩としてその背中を追い求めている。だが実際は心中で許せない祖父の真の後継者。
   その事と向き合った時、マキ自身どういった対応を取るのであろうか。

    試合はドローで終わった。全く互角であったため、試合時間が終了。
   機体耐久値を示す数字も射撃の際の軽い被弾などで両者とも同じであった。
   これは本物だ、マキは直感した。

    試合後、ガヴュレス・アキコを引き連れてエリディムに接触を試みる。当然エリディム側も
   本当に会いたいという3人が中心に待ち構えていた。
アキコ「あの〜、貴方がエリディム=クライゼイルさんですか?」
エリディム「エリディムでいいですよ。」
    綺麗な女性だと3人は思った。その近くには見知らぬ3人の人物が自分達を見つめている。
   その1人に目が行くとマキは驚愕した。
    許せない相手として唯一思っていた相手。大深度戦争直後に撮られたという祖父の姿と全く
   同じであったからだ。
    彼女の中で何かが切れた。
   今まで押さえていた復讐という二文字が解放され、もの凄い剣幕でアマギに掴み掛かった。
   驚愕するアマギ以外のレイヴン達。だが掴まれたアマギは無言のまま彼女の発言を待った。
ガヴュレス「姉御どうしたんですか?!」
マキ「黙ってなさい。」
    今まで怒る事をしなかったマキが凄まじい剣幕で一同を睨む。
   その声は一段とトーンダウンしており、歴戦のレイヴンであるレイス姉妹も恐怖するぐらいで
   あった。
マキ「知らないとは言わせない。私を知って来たのであろう。何を今更・・・今になって・・・、
   でも・・・あれから100年以上経っているのに・・・。」
   復讐の概念に囚われたマキだが、不可解な現実を目の当たりにする。
    目の前の敵は100年前の祖父の姿。それに表情は年取ったものは見られない。全盛期の
   吉倉天城と同じものである。
アマギ「・・・私はアマギ=シャドウ、吉倉天城の2番目のクローン生命体。」
   徐に語り出す。それを聞いた3人は驚愕する。
   まあ当然であろう。事前に彼等の事を調べていたエリディムと違い、後継者を捜していたマキ
   達である。実際にクローンファイターズがいる事を知らなかったのだ。
アマギ「お怒りになられる事は十分承知です。ですが今暫く時間を頂けませんか。お会いさせたい
    人物がいます。その場所で詳しくお話しします。」
   腰のホルスターから拳銃を取り出し、マキに差し出す。もしおかしな行動をすれば射殺して
   構わないとアマギは告げる。
   その深刻な表情と決意が本物だと気づいたマキは、徐に拳銃を受け取り静かに胸に抱く。
   その後一同は平西財閥へと帰還していった。

    物静かな大会議室。
   1つのテーブルにはユウト・アマギ・マキがお互いの顔を見つめている。別のテーブルでは
   ライア・マイア・ウインドが静かに見守る。
   他の面々は音声が聞こえるようにしてもらい、大型ガレージにて聞き入った。
    アマギは語った。
   マキ以外にも家族がいた事、自分の出生や今までの戦いの事。自分が話せる事を渾身を込めて
   語り尽くした。
マキ「お兄様がいらっしゃったとは。」
ユウト「年齢差からいってマキさんの方が姉ですよ。」
   四児の父親になったユウトはいつになく大人に見える。ライアも同様であった。
アマギ「詫びて済む事ではありません。兄が父親になった事は知っていました。しかしマキさんの
    お母さんがお生まれになっていた事は全く知りませんでした。」
   いつもは明るいいつも気さくに話すアマギが暗い。それを見たり聞いた者はどこか虚しさを
   覚えた。
アマギ「もし・・・お生まれになっていてその事に気付いていたら、自分が代わりに親として引き
    取る事ができたのに・・・。」
   悔しさで涙が止まらない。爪が手の平に刺さり、握り拳から血が垂れてテーブルに落ちる。
   今まで見せた事のないアマギの言動に、一同は戸惑いを隠しきれない。
アマギ「どうしたら詫びれますか。どうしたら許して頂けますか。・・・いや、許される問題では
    ありませんね。しかし責任を取って死ぬ事はいつでも出来ます。ですが今はやるべき事が
    控えている。もし構わないのであればもう暫く待って下さい。」
   マキは黙って俯いた。
    祖父のせいで母が苦しんだ、父が苦しんだ。そして自分も辛い日々を過ごし続けた。しかし
   目の前の彼には深い責任はない。
    同じ容姿をしているがそれは善からぬ輩が駒を作ろうとして行った事だ。クローン生命体
   として今を生き、苦しみながら過去の罪を償おうとしている彼を責める事ができようはずが
   ない。
   また祖父が行った事を自分のように責めているアマギを見て、マキは何も言い出せなかった。
アマギ「来たるべき決戦が間近に迫っています。それまでは自分の命、貴女にお預けします。無事
    戦いが終わるその時まで、私はこの身この魂を以て貴女をお守りします。」
   精一杯の笑顔を作り、アマギはマキに語る。その表情をまともに見てられなかった。
    徐に席を立ち、アマギは大会議室を後にする。表には静かに覗いていたレイヴン達がいた。
   彼等に笑顔で一瞥すると、そのまま自室の方へ向かっていく。

ウインド「どうするよマキ。今は待ってみるか?」
マキ「・・・もう暫く考えさせて下さい。」
ウインド「よく考えな。だが1つだけ忠告しておく。」
    ゆっくり煙草を吸いながらウインドは語る。その威圧感はいつになく一同を重たくさせた。
   アマギだけが悩んでいるのではない。師匠として・父親として共に悩んでいるウインド。
   その声を聞くウィンやレイス姉妹・デュウバ姉妹は今までにない胸の苦しみを覚えた。
ウインド「死んだ者が願う事はただ1つ、お前自身の幸せだ。復讐に駆られ目先が見えなくなり、
     最悪の結果になった時。はたして吉倉有紀は喜ぶかな。」
   重い足取りで大会議室を去る。表で伺っていたレイヴン達はただ黙って俯いていた。

ライア「マキ様。私の両親は・・・祖母に殺されました。」
    徐に語り出すライア。それを聞いたマキは驚愕した。
   自分の祖父と違う。祖父はどういう経歴で見捨てたかまでは知らないが、直接的には殺しては
   いない。
   殺したに変わりない行いだが、自らの手で殺めたのではなかった。
    だがライアの両親は違った。
   己自身に苦悩し負けてしまったレイス姉が走った行為。破壊と殺戮の魔女となり、罪もない
   人々・自分の愛するべき夫と子供達を殺したのだ。
   ライアは今までの自分の経歴を詳しく話し出す。マキはその言葉に静かに耳を傾けていた。
ライア「でも私は祖母を感謝しています。もしあの悲惨な出来事が起きなかったら、私は今こうして
    いません。それは断言できます。過去がどうあれ今自分がどのような行いをしているか。
    辛い過去を踏み台にし先に進むか、辛い過去に縛られ進歩なく苦悩し続けるか。私の祖母は
    ついさっきまで苦悩していました。ですが今は振り切りましたよ。」
マキ「・・・希望、があったからですか?」
ライア「希望もそうですね。しかし希望があっても動けない時はあります。マキ様はその時はどうな
    されますか。」
マキ「・・・分かりません。ライアさんはご存じなので?」
ライア「我武者羅に動く、これに尽きます。」
   メルアが行った、レイス姉が今行っている行動。我武者羅に動く。ライアはこの行動に深い
   感銘を受けた。
   まあレイス姉が我武者羅に動く切っ掛けとなったのは、ライアの負けまいとする姿勢が元では
   あるが。
ライア「復讐・悩み・苦しみ、それ以上の辛い現実が舞い下りればそれどころではありません。その
    現実を乗り越える事を第一として行動するのが当たり前。私の祖母も今そうして生き続けて
    います。」
   レイス姉妹・デュウバ姉妹がクローン生命体として今を生きている。自分以上に苦悩する面々
   を知り、何とも言えない気分になる。
   ロストナンバーレイヴンズは憧れる存在、慕う存在である。しかし自分の祖母を見捨てたと
   思っているマキには、彼等全てが敵に見えた。
ライア「小父様から詳しく聞きました。祖父である天城様は大深度戦争に当たり、病弱なマキ様の
    お母様を施設に預けた。その後の30年に渡る大戦がお母様を忘れさせてしまった。確かに
    忘れ去ってしまった小父様にも原因はあります。しかし責めるべきは戦争を続け、私利私欲
    に駆られた亡者たる輩。小父様達はそういう輩と真っ向勝負で戦い抜かれた。だから私達が
    今こうして戦える。もし負けてしまっていたら、私達は存在していないかも知れない。いや
    存在していてもこうしていないでしょう。」
   不意に涙が流れる。マキは無意識に涙を流していた。自分の従兄弟であるユウトの妻、その
   妻がまるで亡き見ぬ母親に見えた。
ライア「私がマキ様の立場で復讐心を抱いていたら、確かに同じ衝動に駆られるでしょう。しかし
    許せると思います。それは何故か、自分が生きているから。復讐心を抱いて生きていても、
    目的がある。挫折し苦悩し生きる事を諦め自殺する、これよりは遥かにいいと思いますよ。
    今を生きる・今を生きている。過去のその辛い出来事が自分を押し進めている。それでいい
    じゃないですか。」
   涙が止まらない。マキはただ俯いて泣き続ける。
    祖父に責任があるわけではない。自分の苦悩の生き方に苛立ち、誰かを責めずにはいられな
   かった。それが祖父に当てていたのだ。
    またそんな自分自身に苛立ちをつのらせるばかりで、ますます祖父に対して怒りを募らせて
   いった。
   間違っている・間違ってはいる。しかし自分を押さえる事が出来ず、流されるがままに祖父を
   責めて生きてきた。
ライア「行動に出なかっただけまだいいと思いますよ。祖母はそれを通り越し、祖父と両親を殺害
    するに至った。こうなるな・こういう過ちを絶対するな。私は祖母が現れた時、そう痛感
    しましたよ。」
   徐にマキの側に歩み寄り、その泣き崩れる頭をそっと胸に抱く。ライアはただ黙って胸中で
   泣かせてあげた。
   同じ苦しみを持つ者同士、痛みを知っているからこそ力になれる。ライアはこの時初めて自分
   の過去の辛さが人の役になったと痛感した。それはマイアも同様であった。

    財閥の大食堂。その一角でウイスキーを飲み続けるアマギ。
   やけ酒ではない、マキの両親を偲んでの酒である。
    彼は自分を責めた。マキの存在を知らなかった事に、知っていれば助けられた事に。
マキ「隣・・・、いいですか?」
    酒を飲みながら俯いているアマギに、マキは歩み寄ってきた。
   ライアに諭され彼を励ましに向かったのである。
    徐に頷くアマギの隣にマキは座る。沈黙が2人を包んだ。
アマギ「・・・私は兄が成せなかった事を継ぐために転生しました。クローン生命体として兄と共に
    大深度戦争を戦い抜き、兄と姉の死に際を見取りました。・・・その時誓ったのです。必ず
    困っている人を助けよう、と・・・。」
   ゆっくりウイスキーを口にする。グラスを置き手をテーブルに置く際、マキは先ほど彼が己
   自身で傷付けた両手の傷を見た。
アマギ「・・・守れませんでした。守れたはずなのに・・・守るべき時に守れなかった・・・。」
マキ「叔父さん・・・。」
アマギ「・・・勿体ないお言葉。私には叔父という言葉は向きません。」
マキ「でも私の・・・ただ1人の叔父さんです・・・。ただ一人の・・・家族・・・。」
アマギ「それはありませんよ。ユウトさんやライアさん、生まれたお子さん達。皆さんマキさんの
    ご家族です。大切なご家族・・・。」
   マキは隣にいるアマギに頭を寄せる。アマギはその頭を優しく撫でた。頬に涙を浮かべる両者
   であった。
   彼女が死ぬまで守り抜こう。アマギは心中に金剛たる決意を固めた。そして自分はウインドと
   共に死ぬ事のない戦士として、戦い続ける事を強く誓った。

    ウインドは自室のソファーにもたれ掛かり、目蓋を閉じて物思いに耽っていた。
   彼もアマギ同様、マキを助けられなかった事で自分を責めた。
   彼女の父親と彼女を助けた事もあった。だが結果的に救えなかった事に後悔をしていた。
メルア「何湿気た面してるんですか。」
    徐に入室してくるメルア。精一杯の励ましのつもりで声を掛ける。だがウインドは目を重く
   閉じたままだ。
   何かと色々ある彼。しかし今まで見た事がないような落ち込み様に、自分はどうしたらいいか
   悩んだ。
ウインド「ありがと。」
    沈黙が続いた後、彼は呟いた。それは今まで発した言葉ではないぐらいに穏やかだ。
ウインド「本当は誰よりも気丈でいなければいけないのにな。ライアが俺の代わりに語ってくれた。
     情けない・・・。」
   ライアの熱演は自室にも届いていた。当然大食堂にも。
   自分達が諭さなければいけない事を彼女は顕然と語ってくれた。母になった彼女は一段と強く
   なっている。それが嬉しくも悲しくあった。
メルア「我武者羅に動いて下さいな。」
ウインド「もちろんそのつもりだよ。」
メルア「ならよしっと。皆さん心配そうにしてますよ。」
   直後ウィンを頭にミナ・レイス姉妹・デュウバ姉妹が入室してくる。ウィンは偲び酒を持ち、
   共に飲もうと誘ってきたのだ。
   メルアも加わり、7人はウインドに酒を勧める。精一杯の笑顔で彼はそれを受け取り徐に飲み
   出した。
                               第3話 2へ続く

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