〜第1部 18人の決断〜
   〜第2話 平西財閥2〜
    アリーナ登録場へと戻った3人は、アリーナ対戦表を見る。
   アリーナでの対戦は数日前からの予約で開始するものと、登録後すぐに試合をするものとの
   2通りがある。
   前者の方は時間を置いて確実に相手と対戦場所を選べるが、後者はその場に登録した人物と
   今現在空いている対戦場所でしか戦えない。つまり相手の戦力が掴めない状態で闘いに望む事
   になるのだ。戦略家レイヴンにとっては全く向かない試合であった。
    だが対戦が決まった相手とその場で試合する場合を難なくこなすレイヴンは、戦場で確実に
   生き残れる人材である。
   不測の事態が付きものであるミッション、戦略家ほど戦場には向かない者はいない。

ライア「ナイラさん、貴女の対戦相手は?」
ナイラ「貴女ですよライア様。」
ライア「え・・・。」
    驚愕するライア。ナイラはアリーナ2位に君臨する猛者であり、初心者のライアとは格が
   違かった。
   ライアは先の試合結果が目に見えてしまう。
ライア「はぁ〜・・・そうですか。」
ナイラ「大丈夫ですよ、手加減はしませんから。手加減をすると、貴女を貶した事になる。全力で
    貴女と対戦します。」
   一瞬でも諦めかけたライアは、自分が恥ずかしくなった。
    負ける事が嫌でレイヴンになった訳じゃない。絶対諦めない為にレイヴンになったのだと
   初心へ戻る。
   今までの不安な表情は消え、闘志溢れる表情へと変わった。
ライア「すみません、一瞬引いてしまって。引いてしまっては何も変わらない。ナイラさん、私を
    ぶちのめしてあげて下さい!」
ナイラ「フフッ、分かりました。」
   凄まじい闘気が2人の体から放出されるのを、ユウトは感じ取る。この試合は面白くなると
   ユウトは思った。

ナイラ「ユウト様、貴方の対戦相手は?」
ユウト「3体バトルです。相手はアキナさん・ライアンさん・ディーレアヌさんの3人。」
    ライアとナイラは更に驚愕、ユウトは1対3の対戦をするのだと言う。これはある意味勝率
   は殆どない。相手がコンピューター制御のACなら何とかなるが、今回の相手は生身の人間
   である。
   2人は思った、ユウトの方が面白い戦いになると。
ライア「そ・・それで、先に試合をするんですか?」
ユウト「ライアさんとナイラさんの試合が先ですよ。」
   そう話すとユウトはトーベナス社のガレージへ戻ると言ってその場を去る。
   まだ時間があるライアとナイラは、何故戻るのかと追いかけながら問い質す。
ナイラ「ちょっと待って下さい。時期試合があるのに何故ライア様の会社まで戻るのですか?」
ユウト「機体構成を組み替えるんですよ。対戦相手は3体です、しかもかなり腕は立つと思います。
    今のエアーファントムの武装では撃破はできません。重装甲ACにして戻って来ますよ。」
ライア「そうですか、分かりました。ガードックさんに連絡を入れておきます。」
   ユウトは2人と会話を終えると、アリーナガレージに待機してあるエアーファントムに搭乗。
   アリーナガレージを出て、トーベナス社のガレージへと戻って行った。
   エアーファントムを見送ると、ライアとナイラはアリーナ控え室でユウトを待つ。

    のほほんと足をぶらつかせ、ベンチに腰をかけているライア。そんな彼女にナイラはある
   質問をした。
ナイラ「ライア様。」
ライア「何でしょうか?」
ナイラ「ライア様はユウト様を好いていらっしゃいますね。」
ライア「な・・・何を言い出すのですかナイラさん!」
   いきなり意外な事を言われ、声を裏返らせながら反論するライア。この言動にナイラは図星
   だなと直感した。
ナイラ「フフッ、別に恥ずかしい事などありませんよ。女性なら誰しも異性を憧れる事がある、私も
    憧れの人物はいます。」
ライア「そ・・その方とは?」
ナイラ「吉倉天城様の師匠的人物、ウインド様です。」
   その憧れの人物を聞き、ライアは小さく驚いた。どうやら既に知っている素振りである。
ライア「ウインド・・・、あの伝説のレイヴンですね。」
ナイラ「個人的理由で好きな訳ではありませんが、レイヴンとしては絶対に憧れ好きになります。
    最強のレイヴンと言って過言ではありませんから。」
ライア「確かに。」
    ライアは懐から手帳を取り出し、ページを捲りだす。そして目的のページを開き、徐に語り
   出した。
ライア「通称ウインド、搭乗ACウインドブレイド。伝説のレイヴン吉倉天城の師匠で命の恩人。
    その卓越した戦術から繰り出される攻撃は、必ず相手の力を殺ぐ。別名、風の剣士。」
ナイラ「よくお調べになりましたね。」
ライア「ロストナンバーレイヴンズの事でナーヴに検索をかけたら、この記事が出てきまして。自分
    も色々と勉強しませんと、一企業の社長は務まりません。」
   ライアの発言にナイラは驚いた。自分より若いこの美丈夫が努力家である事を知ったからだ。

ナイラ「またウインド様には5人・・・、いや8人の妹様方がいたそうで。当然義理の妹ですが。」
ライア「アマギさんと一緒に、クローン再生されたという9人の鬼神と対峙したとも聞いています。
    その中で5人の方々はアマギさん達の説得で味方になったようで、残りの4人の鬼神を全て
    倒されたそうです。」
    手帳を見ながら語り続けるライア。その行動は勤勉の学生のようである。
   彼女はコンピューターでロストナンバーレイヴンズの事を詳しく調べたようで、その話の内容
   は確信さが込められている。
ライア「改心した5人の勇士方の名前は次の5名です。レイス=ビィルナ・ブレナン=ジャークス・
    デュウバ=ドゥヴァリーファガ・ジェイズ=タルヴィムヴォルナ・アマギ=デヴィル。」
ナイラ「アマギ=デヴィル?」
ライア「吉倉天城さんの最初のクローン実験体で、体内の全ての器官を人工物に変えられたとか。
    それにより精神的に異常をきたし、数々の犯行に及んだとか。」
   彼女の話を聞き、ナイラは顔が曇った。どうやら辛い事を思い出したようである。
ナイラ「・・・その方ならご存知です。祖母の家族を殺害した方で・・・。」
ライア「らしいそうですね・・・。でもユキナさん自身が許したとか。」
ナイラ「祖母はその方と一緒に暮らしているそうです。デヴィル様自身が祖母を守りたいと話した
    そうで、専属のボディーガードで活躍しています。ユキナ様にはご主人がいらっしゃいます
    が、そのご主人も一緒に守っているそうです。」
ライア「そうですか。」
   ナーブの検索では大まかな事しか調べられないが、さすが直系の子孫とライアは思った。
   本人達の間でしか語り継がれない話もまだまだ沢山あるのだ。ある意味秘伝の秘話みたいで
   ある。
ナイラ「とにかく、ユウト様とは喧嘩しないように。」
ライア「してませんっ。それに私とは格が違いすぎます、失礼ですよそんな事・・・。」
ナイラ「そのうちため口を聞ける仲になりますよ。」
   ナイラの発言に頬を赤く染めて俯くライア。満更ではないなと微笑ましい視線で彼女を見る。

女性「あの〜すみません。」
    突如2人の背後から話し掛ける女性、側には2人の男女がいる。ナイラは直感からこの3人
   がユウトの対戦相手だなと分かった。
ナイラ「何でしょうかアキナ様・ライアン様・ディーレアヌ様。」
   ナイラの発言で、3人は驚く。自己紹介もしていない見ず知らずのレイヴンの名前を当てて
   しまったからだ。
アキナ「貴方がユウトさん?」
ナイラ「ご冗談を、私のどこが男性に見えます?」
   苦笑いを浮かべながらナイラは答えた。まあ男性はまずいないが、女性は素性を男性と語る
   人物が多くいる。
    今の世界、女性社会進出率が高くなりだしている。それは大破壊以前ではごく当たり前で
   あったが、大破壊後は一時的に男性社会を再び形成していたのである。
   女性メカニック・女性オペレーター、そして女性レイヴン。
   女性レイヴンが多くなりだした切っ掛けを作ったのは、他ならぬアマギ達の行動が大きく影響
   している。ロストナンバーレイヴンズ面々の大多数が女性を占めているからだ。
    女性も社会で通用すると豪語しだしたのは、他ならぬロストナンバーレイヴンズレディーズ
   である。それ以来彼女達を憧れてレイヴンになり、社会に出た女性が急激に急増し続けた。
   今では女性の意見がなければ通らないものもあるのだ。
    だが今でも女性差別という壁がある。差別に苦しむ女性は男性と偽り、活躍している人物も
   沢山いるのが現実だ。そうやって今の世の中を生きている者もいるのだ。

アキナ「申し訳ありません、貴方がユウトさんかと思いまして・・・。」
ライア「ユウトさんなら今しがたガレージへとお戻りになりましたよ。時期に来ると思いますが。」
    アキナの恐縮気味の言動を変えようとライアがユウトの事を切り出した。それに気付いた
   ナイラも別の会話を持ち掛けだした。
ナイラ「自己紹介がまだでしたね。私は平西奈衣羅、こちらはライア=トーベナスアイグ様。」
ライア「ライアです。よろしくお願いします。」
アキナ「白木明菜です。」
ライアン「ライアン=ガーヴェナスレイベルクと言います。」
ディーレアヌ「ディーレアヌ=イスフェイトです、よろしく。」
   実に年齢層が離れている面々だとライアとナイラはつくづく思った。
    ディーレアヌは外見上からは14・5歳、アキナは20歳以上・ライアンは30代だろう。
   これほど年齢が離れている人物を見た事はないと2人は思う。
ライアン「失礼ですがナイラさん、貴女はあの平西奈衣羅ですか?」
ナイラ「2通りありますが。」
ライアン「2つともです。世界最強と謳われている企業である平西財閥の女社長、また地球アリーナ
     ランク2位の蒼い鷹。お会いできて光栄です。」
ナイラ「そ・それはどうも・・・。」
   頬を染めて俯くナイラ。ユウトに褒められた時は笑顔であったが、ライアンに褒められた時は
   恥ずかしそうであった。それは殆ど知らない人物であったからだろう。

    一行がコミュニケーションを取っていると、突如警報音が鳴り響いた。
   5人は受付場まで走り、何事かと問い質した。
ディーレアヌ「どうしたんですか?!」
受付嬢「大変です、アリーナ内部に正体不明の物体が現れました。試合は一旦中止です。直ぐに非難
    して下さい!」
ライア「なら尚更放って置けないっ!」
   そう叫ぶと、ライアはガレージへと向かった。その他の4人もライアの後を追う。

    アリーナのガレージでは突然の騒ぎにメカニック達が混乱を起こしていた。
ナイラ「待って下さいライア様、お1人で行かれるつもりですか?」
ライア「これは私の戦いなんです。困っている人々がいたら何がなんでも助けると、死んだ両親に
    誓ったんです!」
ライアン「なら私達も戦わせてもらいますよ。貴女みたいなお嬢さんが戦っているんだ、のんびり
     見物なんかできない。」
ライア「・・・ありがとうございます。」
アキナ「もちろん私達も戦いますわ。私の祖母もそういった人々を助けて回ったそうですから。」
ナイラ「祖母?」
ディーレアヌ「話はあとあと、急ごう!」
   5人はそれぞれの愛機に乗り、アリーナ試合場まで向かった。
   途中非常事態によりゲートが開かない箇所があったが、非常事態なので5人は問答無用で破壊
   しながら進む。
    一方トーベナス社に戻っているユウト。機体構成を変更している最中に、ガードックから
   現地アリーナの非常事態を告げられる。
   ユウトは換装を終えるとすぐさまライア達がいるアリーナへ向かって行った。
   だがユウトの行動はライア達が行動を起こす前である。

レイヴン1「クソッ、対生体兵器用のヘッドにしておけばよかった。」
レイヴン2「こっちは非武装に近いぜ」
レイヴン1「ロックすら出来ない、全くとんだ貧乏クジだな。」
    アリーナ闘技場では2体のACが生体兵器のディソーダーを撃破していく。だが次々と出現
   してくるディソーダー相手に、2人は苦戦気味であった。
    片方のレイヴンは生体兵器ロックシステムを搭載しておらず、ミサイル類はロックオンすら
   できない。唯一の攻撃手段は右腕のバズーカのみ。
    もう片方のレイヴンは生体兵器ロックシステムを搭載しているものの、武装はハンドガンと
   レーザーブレードのみであった。

レイヴン1「ちきしょう・・・こんな所で死んじまうのか・・・。」
レイヴン2「まともな試合ができなかったのが唯一の悔いだな・・・。」
ライア「そうでもありませんよ。」
    内部通信を通して、2人にライアの肉声が響き渡る。直後複数の中型ミサイルが飛来し、
   目の前のディソーダーを一撃で倒す。
   そこへライアのACダークネスハウンドが近付き、2人のACの前へと踊り出る。
ライア「皆で力を合わせれば、できない事なんかありません。貴方達は絶対に死なせはしない!」
    ダークネスハウンドは膝を折り、チェーンガンを構える。そして現れ続けるディソーダーへ
   射撃を開始した。
   そこにナイラ・アキナ・ライアン・ディーレアヌも駆けつけ、共に交戦を開始しだした。
ナイラ「大丈夫ですか?」
レイヴン1「ありがてぇ・・・助かったよ。」
    ナイラのACトゥルース・ロードは生体兵器ロックシステムを搭載している。相手の位置と
   行動をしっかり理解しつつ、左腕武器のレーザーブレードによる斬撃と右腕主力武器である
   レーザーライフルの射撃でディソーダーを倒していく。
   その行動は凄まじい速さで展開されており、次々と相手を薙ぎ倒していった。
ライア「さすが青い鷹、一騎当千ですね。」
    ライアの発言を聞いた2人のレイヴンは驚愕する。それはアリーナ第2位の青い鷹が目の前
   で戦闘を繰り広げているからだ。
   そこに後方のゲートからエアーファントムが到着する。
ユウト「ライアさん、余所見をしないで。」
   ライアが雄弁に語っている所にディソーダーの攻撃が集中する。そこに重装甲ACとなって
   戻って来たエアーファントムが割入り、左肩装備のマルチミサイルランチャーを展開。
   放たれた複数のミサイルは、敵に近付くと4つに分散。それぞれがディソーダーを襲った。
ライア「す・・すみません・・・。」
ユウト「気にしないきにしない。それよりキリがないですよ。」
ディーレアヌ「でもやるっきゃないっしょ〜。」
   レイヴン達はとにかくディソーダーを倒していった。こちらの方が戦力は絶大だが、敵側は数
   押しで攻めてくる。どんな強豪のレイヴンであっても消耗戦はさすがに辛い。

    暫くして突如ディソーダーの増援が止まる。まるで何者かに操られているかのようである。
レイヴン2「と・・止まった?」
レイヴン「ほぉ・・・やり手がいるとはな、恵まれたものだな。」
   直後前方の非常口近辺が爆破され、爆炎の中から2足ACが現れた。
レイヴン「作戦は失敗か。まあいい、次はこうはいかせないぞ。」
ライア「誰なんですかあなたは!」
   ライアが内部通信を通して大声で叫ぶ。発言などを聞けば、自分を狙っての事であると直感
   した。
レイヴン「自ずと気付いているだろう、貴様を狩る者だ。貴様はイレギュラー、イレギュラーは即刻
     排除する。」
   それを聞いたライアは心身共に恐怖する。今まで何も言わずに襲撃されたケースが多かった。
   だが今は直接ライアを消すと話してきている。今までの強がっていた自分が一瞬にして崩壊
   していく瞬間であった。
ユウト「そんな事はさせませんよ。私は彼女を守る傭兵です。敵が現れたら同じく即刻排除する。
    それが依頼内容ですからね。」
ナイラ「同感です。青い鷹・真実の名において、貴様を消す。」
   ナイラが殺気が込められた発言をする。それは今まで聞いた事がないもので、ユウトもそれに
   一瞬だが恐怖した。
レイヴン「今ここで消してやりたいが、今回は引き上げよう。俺はデア。覚えておくんだな。」
   デアが駆るヴュイクーレヌは反転し、非常口の方へ去って行った。残りのディソーダーも後を
   付いて行くかのように去っていく。
   それらを目の当たりにした一同、直後どっと力が抜け深く溜め息をつく。
ユウト「ナイラさん、奴は祖父と関係があるのでしょうか。」
ナイラ「分かりません。今言える事は、我々リターン・トゥ・ザ・ロストナンバーレイヴンズの敵
    だという事です。」
ユウト「そうですね。警戒しておきます。」
   ユウトはこれからこういった輩が出現する事を覚悟した。
   祖父アマギの時でも多くの敵が現れたと知っている。だがこれほどの者を軽く撃破する祖父達
   ロストナンバーレイヴンズの強さに、ユウトは心の底から驚いたのであった。

    アリーナ闘技場は一時使用ができなくなり、当然ユウト達の試合もできなくなっていた。
   一同はアリーナのガレージにACを待機させ、ブリーフィングルームで休んでいる。
   この中で一番目立つのはライアの落ち込みようである。
レイヴン1「改めて、インシェア=ヴァイルと言います。」
レイヴン2「ノルム=ビィルガードです。」
   インシェアとノルムが自己紹介を済ますと、今度はユウト達が自己紹介を始めだした。
   この全く知らないレイヴンでさえ、ユウト達は普通に会話している。2人はユウト達の心構え
   に偉く感心した。
ナイラ「そうでしたか、アキナ様はミリナ様の孫の方とは。」
アキナ「ナイラさんもユキナさんのお孫さんの方とお聞きしています。まさかこのような形でお会い
    できるとは光栄です。」
ユウト「ロストナンバーレイヴンズ、伝説の最強レイヴン。その思想は我々孫の代に受け継がれ、
    今も各々が行動している。ナイラさん・アキナさん・そして自分、私達が頑張らないと。」
アキナ「そうですね。私も微力ながら、貴方様にお力をお貸し致します。」
   アキナは右手を差し出し、ユウトは同じく右手を重ねる。そして力強く握手を交わした。

ナイラ「大丈夫ですかライアさん。」
ライア「・・・私は何の為に戦っているんでしょうか、力がなさ過ぎる・・・。」
    ユウトが元気付けようとも、ライアは全くの放心状態である。そんな彼女を見つめ、ユウト
   は悲しくなった。
ユウト「しっかりして下さいライアさん、普段の貴女らしくありませんよ。」
ライア「・・・怖いんです・・・、次は私が殺される番・・・。」
   ユウトは直感した。今のライアに何を言っても無駄だという事に。しかし怒りの感情による力
   は出るとも直感する。
   ユウトはあえて彼女を奮い立たせるため、態と悪キャラを演じ始めた。
ユウト「・・・情けないね、これが世界を救うと豪語していた奴か。あんたの両親が可哀想だな。」
ライア「・・・何だと。」
   今までにない怒りの表情を顕にし、ライアは凄まじい剣幕で彼に食い付いて来た。他の面々は
   いきなりの出来事に、固唾を飲んで見守るしかなかった。
   ユウトも全く屈せず会話を続ける。
ユウト「情けないと言っているんだよ。そういった感情に左右されるのは、まだまだ人間として
    なっていない証拠。」
   ライアはユウトの胸倉を掴み、大声で言い返しだした。ユウトは黙って彼女の行動を見守る。
ライア「私を殺そうとしていた奴が何を言う、貴様に言われる筋合いはない。貴様こそろくでなしに
    すぎないな、あの時私の事を殺しておけばよかったものをっ!」
ユウト「当たり前だ。なぜ殺さなかったと思う、苦しめという事だよ。」
   完全に頭に来たライアは、ユウトに渾身のパンチを繰り出す。
   体格的にはユウトよりライアの方が上、そのパンチはユウトを軽々とブリーフィングルームの
   壁へ突き飛ばした。
ライア「よく分かった、貴様の思考が。私に取り入って甘い汁を吸うのが目的なんだろ。私より他の
    連中を利用すればいい、私はまっぴらごめんだっ!」
   ライアはガレージへと走っていき、その場から去って行った。
   しかし怒りに奮い立っていたとしてもその後ろ姿はどこか悲しげだった。

    ナイラは突き飛ばされたユウトの元へ駈け寄り、彼の安否を気にかける。
ナイラ「ユウトさん、酷いじゃないですか。なにもあそこまで言わなくても・・・。」
ユウト「自分が本気で言ったと思いますか?」
   口元から出血しているのを手で拭い、その場から徐に立ち上がる。ナイラは彼の肩を支え、
   ベンチの方へと進んでいった。
ナイラ「先程のは本気ではないと?」
ユウト「当たり前ですよ。今は彼女に何を言っても無駄だと思いました。ですが怒りの感情は駆り
    立てる事ができると思ったんです。あの発言をしなかったらライアさんはずっと立ち上がれ
    ない。だからあえて逆撫でするような発言を話しました。」
   徐にベンチに座りながら、ユウトは皆にそう話す。一同はユウトの他人思いの強さに驚いた。
ユウト「ナイラさん、自分は暫くライアさんの元から姿を消します。暫くの間でいいので、彼女を
    よろしくお願いします。」
   深々と頭を下げるユウト。それを見つめナイラは首を縦に振るしかなかった。そんな一途な
   彼を見つめ、他のレイヴン達も何かできるのではと奮い立った。
アキナ「ユウトさん、私にも何かお手伝いさせて下さい。」
ライアン「そうだぜ。若いあんたが体張って頑張ってんだ、俺もしっかりしないとな。」
ディーレアヌ「あたいも同じ〜。」
インシェア「自分も同感です。」
ノルム「命の恩人には、行動を以って応えないと。」
ユウト「・・・ありがとうございます。」
   ユウトは5人のレイヴンにも深々と頭を下げた。ユウトは短い間でしか彼等と接していない。
   それが今では5人を信じ切っている。
   相手を信じ敬う。祖母も同じ行動をしていたとナイラは心中で思った。そして心の底から彼に
   脱帽するしかなかった。

    ユウトはベンチから立ち上がり、ガレージへと向かおうとする。一同はどこに向かうのかと
   彼を呼び止め問い質す。
ディーレアヌ「ところでユウちゃんはどこ行くの?」
ユウト「火星へ飛びます。先程のデアが気になりますから。留守中ライアさん達を頼みます。それと
    姉さんには飛び立ったと言えば分かってもらえるはずです。」
ナイラ「分かりました。」
アキナ「ユウトさん、火星まではどうやって行かれるのですか?」
   アキナがどのような方法で火星に行くのかと問う。今一番気になる事はこれであった。
ユウト「ラプチャーを使います。ナインブレイカーの特権を使えば、簡単に通して貰えますから。」
   そう問い返すと、ユウトはブリーフィングルームを後にした。
   6人の目には彼の姿は青年ではなく、歳相応の男性に見えるのである。
ライアン「ナインブレイカーか、さすがですね。」
ディーレアヌ「う〜っ・・・カッコいい〜。」
ナイラ「さあ皆さん、我々のやるべき事をしましょう。」
5人「了解!」
   6人もブリーフィングルームを後にし、ガレージへと向かった。
   その最中ナイラはユウトから教えてもらったキュービヌの携帯端末へ連絡。事の事情を詳しく
   話した。
   それを聞いた彼女はすぐさま納得し、ナイラに了解のサインを送る。これを聞いたナイラは
   キュービヌがユウトにとって、実の姉ではないにせよ本当の姉であると直感した。
    ユウトはナイラ達がガレージに来る前に愛機と共に出発。一路輸送車で北上し、ラプチャー
   がある地区へと向かって行った。
   その姿を遠くから見つめる青いAC、ただ黙って彼の移動を見守るのである。
                               第3話へ続く

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