〜第1部 18人の決断〜 〜第1話 襲撃2〜 その後エアーファントムはガレージへと帰還し、ユウトは愛機をガレージ内へと進ませる。 帰還してきたユウトに気付くと、キュービヌは手を振りながら出迎えた。 キュービヌ「お帰り、意外と早かったね。」 ユウトはエアーファントムをガレージへ待機させると、コクピットハッチを開く。外へと 出た彼は、キュービヌの元へ駆け寄った。 エアーファントムが待機したのを確認すると、他のメカニック達が機体のメンテナンスを開始 する。ハンガーアームが機体を支え、メカニック達が整備へと取り掛かりだした。 ユウト「姉さん。今回の依頼、キャンセルします。」 キュービヌ「ど・どう言う事?」 ユウトはライアとガードックとの戦闘や思考を全て話す。それを聞いたキュービヌは納得、 今時そのような思考の人間がいる事に驚いた。 キュービヌ「へぇ〜・・・お祖父様と同じ考え方の人間か・・・。でもその場を何とかしたいが為に 嘘をついたのかもよ。」 ユウト「話し方からして、とても嘘をつく人には思えませんでした。それに自分らの行動を妬むのと 言っていましたし。信じていい人達でしょう。」 キュービヌ「フフッ、ユウちゃんはこの点だけは強いよね。」 キュービヌはユウトの人を見定める鋭い洞察力と直感を信じている。それゆえに彼が話す事は 真実だと直感している。 彼女はデスクに戻ると、依頼破棄のメールをクライアントに送った。普通なら依頼を断る事 をしないキュービヌだが、ユウトの真面目な眼差しに戸惑いを隠し切れなかった。 一方ユウトは自室へ戻り、ベッドに仰向けに倒れ込んむ。 ユウト「女性レイヴンか・・・。それに行動理念がお祖父さんと同じだったよな・・・。」 ユウトはライアとの会話の事を振り返っていた。今時このような思考を持つ人間は珍しい。 それに相手は若い女性だ、どう考えても異種の存在であった。 もし自分に出来る事があるなら手伝ってあげたい、ユウトは心中でそう呟くのである。 数十分後キュービヌがユウトの自室へ入室してくる。彼は疲れにより眠りに入っていた。 キュービヌ「お〜い、ユウちゃん。」 キュービヌはユウトの肩を叩きながら起こした。ユウトはそれに気付き、あくびをしながら 起きる。 ユウト「どうしたんですか〜、姉さん・・・。」 キュービヌ「メールが届いているよ、トーベナス社から。」 半分眠っているユウトであったが、キュービヌから内容を聞くと一気に目が覚める。それは メールの送信先が先程襲撃したトーベナス社だったからだ。 ユウトは急ぎガレージへと向かった。その後をキュービヌがゆっくり追いかけて行く。 ガレージに到着すると、ユウトはデスクにあるコンピューターを黙視する。トーベナス社 からのメールを真剣に読み出した。 キュービヌ「どんな内容だった?」 遅れてキュービヌが追いつき、ユウトにメールの内容を聞き出す。 ユウト「・・・俺に会いたいだそうです。」 キュービヌ「でもよくさっきユウちゃんが襲撃したって分かったわね。それにユウちゃんのメアド、 殆ど非公開なのに。」 ユウト「ナインブレイカーになれば、どこの企業にでも自分のメアドはありますよ。」 ユウトが11歳の時、火星での最強レイヴン“ナインブレイカー”の称号を取得した。 史上最年少でのナインブレイカーであったため、半信半疑なレイヴン達もいたが企業側には 一応認められていた。 それ相応の腕前を持つレイヴンは確実な依頼遂行を達成してくれるからである。 ユウトの亡き祖父、吉倉天城も最年少でマスターオブアリーナになった強者。孫もまた祖父と 同じ経歴を辿っていたのだ。 キュービヌ「それで、どうするの?」 ユウト「承諾のサインを送りましたから、じきここにおいでになるそうですよ。」 キュービヌ「それはまた不思議な人だねぇ〜・・・。」 2人はトーベナスからの使者を待った。ユウトが直感するには、メンバーはおそらく社長と 護衛の人物であると思えた。 2人がガレージのデスクで雑談しながら待機している事数分後、弟子のメカニックから連絡 が入る。 メカニック「姉さん、到着しましたぜ。」 キュービヌ「あいよ。」 ユウトとキュービヌはガレージの中央に進み出る。直後大型ハッチが開きだし、2体のACが 入室してきた。 それを見たユウトは驚く、先程戦闘したAC2体であったからだ。 メカニック案内の下、2体のACは指定のハンガーに待機させる。そしてコクピットハッチ が開閉し、それぞれのACからレイヴンが降りてくる。 重装甲ACからは体格がしっかりとした男性が、標準ACからはスラリとした女性が現れた。 ユウトは女性レイヴンを見た瞬間ドキッとするのである。今も女性レイヴン自体珍しい存在で あり、異性の男性からすれば花のような存在であった。 ライア「あの・・・初めまして、ライア=トーベナスと申します。」 ガードック「ガードック=インシェルアと言います。君が小松崎優斗君?」 ユウト「あ・はい、小松崎優斗と言います。先程はそちらの深い行動理念を無視し、本社を襲撃して しまって申し訳ありませんでした。」 ユウトは自然と頭を下げる。この世界詫び錆びの行動を取り入れないと、逆に痛い目を見る 時がある。今までの経験上、詫びる時は詫びるといった行動を無意識に行っている。 これは祖父吉倉天城が、彼に心得るようにと言い聞かしていた事であった。 キュービヌ「まあまあ、過ぎた事を根に持っていてもしゃあないよ。お2人さん、ユウちゃんの事は 大目に見てやってくれ。」 ライア「は・はい。」 キュービヌのこの対応、女性なら憧れる話し方であろう。 大多数の女性は相手の視線や思考を考えて話す。しかキュービヌの場合は何振り構わず話して いる。だがしっかりと詫び錆びは入れて会話している。そうこれが彼女の自然体なのだ。 ユウト「ところで、自分に用とは一体なんでしょうか?」 ライア「あの・・・、貴方は伝説のレイヴン吉倉天城様の縁の者ですか?」 ユウト「アマギさんは自分の祖父です。」 2人は驚愕する。薄々感じていたとはいえ、当の本人の孫であるユウトと会った事に非常に 感銘した。 ガードック「そうだったのか・・・だからあれほどの腕前があるのは頷けるな。」 ライア「ユウト様、どうか貴方のそのお力をお貸し願えませんか。出来る限りの事は致します、貴方 のその器が私達には必要なのです!」 力説するライア、それを見たユウトは自然と心構えを決めていた。 2人の行動、そして信念。これは間違いなく祖父アマギと同じ、そこにまるでアマギがいる ような感じがしたのである。 ユウト「自分にそのような資格があるかどうかは分かりませんが、人々を助けるという行動理念は 一致しています。こんな自分でよかったら喜んでお力をお貸しします。」 ライア「あ・・ありがとうございますっ!」 ライアは感無量なあまり、ユウトに抱き付く。それだけ彼女にとってユウトの存在がどれだけ 大きいものなのかをユウトは身をもって知った。 だが現実には若い女性に抱き付かれ、赤面する自分がいるだけである。 暫くしてライアは正気に戻り、そそくさげにユウトから離れるのであった。 ライア「あ・・・ごめんなさい・・・。私ったら・つい・・・。」 ユウト「か・・構いませんよ・・・。」 キュービヌ「フフフッ、相変わらずだねぇユウちゃんは。」 ユウトの肩を軽く叩きながら、キュービヌは若い2人を羨ましそうに見つめる。 キュービヌ自身も一連の言動から2人が悪い人物ではない事を知った。この相手を見定める 鋭い直感と洞察力は吉倉天城の産物といってよい。 ユウト「ところで・・・力を貸すといっても、一体何をしたらいいのでしょうか?」 ライア「え・・・え〜と・・・。」 ガードック「ハハハッ、ライア様はこのような交渉は向きませんね。」 ユウトとキュービヌは一連の行動がライアの勢い余っての行動であると直感する。現に何を したらいいのかが掴めていない彼女であった。 ガードックはライアの代わりに訳を話し出し、遅れてライアもその内容を確認するのである。 ユウト「分かりました。とりあえず専属レイヴンという事ですね。」 ガードック「そう取って貰えれば幸いです。」 キュービヌ「ユウちゃん専属メカニックはどうするんだい?」 ガードック「キュービヌ嬢にお願いします。」 キュービヌ「フフッ、そうこなくっちゃ。」 キュービヌの瞳が輝いた。キュービヌ自身、戦場ほど自分を強化できる場所はないと確信して いる。 キュービヌは育ての親であるユウトの両親の願いを叶えるべく、両親の息子ユウトにどこまで もついて行くと固く決めていた。これが彼女の生きる信念であり、姉としてユウトを守るべく 戦う姿勢であった。 ライア「あの・・・ユウト様。」 ユウト「その様はどうにかなりませんか、別にそんな偉くはありませんから。」 ライア「では・・・ユウトさん。ユウトさんにもう一つお願いがあるのですが・・・。」 ユウト「無理難題でなければ。」 意地悪っぽくそう話すユウト。これはライアのぎこちない行動を和らげようとする、彼なり の思いやりであった。 ライア「・・・社長ではなく、一レイヴンとしてお願いです。私を一人前のレイヴンとして、貴方の 下で修行させて下さい。」 ユウト「構いませんよ。でも・・ガードックさんがいるのでは?」 ガードック「ユウト君。実は私は殆ど企業の運営の方に回っていてね。ライア様の面倒を見られない 状態なんだ。よかったら私の代わりに一人前のレイヴンに育ててあげて欲しいんだ。」 ユウト「分かりました、喜んでお引き受けしましょう。」 全く考えず、即行で答えを出すユウトだった。 これはユウト独自の性格で、悪い事は即座に断る。そしていい事には即座に承諾のサインを 出す。これがユウト流の事の運び方であった。 だが何振り構わずの行動ではない。ユウト独自の鋭い直感と洞察力が相手の強い思考と信念を 見抜き、応えを返すからである。 これは祖父のアマギですら出来なかった事で、彼の血を受け継いでいるからこそできる荒技で あった。 ライア「ありがとうございますっ!」 ユウト「では早速修行に入りましょう。ライアさんの今回の戦闘行動、どうみても初心者的動き方 でした。まずは基礎から学び返し、そして応用と行きましょう。大丈夫です、貴女なら必ず 凄腕のレイヴンになれますから。」 ライア「よろしくお願いします、ユウト先輩!」 明るく答えるライア、これを見たガードックは嬉しい気分になる。それは今までに見せた事が ない言動であったからだ。 その後彼と出会ってからのライアは明るくなる一方で、その明るさはユウト専属メカニック 男性陣が憧れる存在になるほどである。 またガードック自身も殆ど笑顔を見せない人物であったが、ユウトと出会ってからはよく笑う ようになる。その笑顔に少なからずキュービヌが影響を受けていた。 ユウトという人物がどれだけ偉大な人物なのか、ライアとガードックは自分達の変わりようで 分かるのであった。 ユウト達はトーベナス社を守る側になり、彼等が参戦してくれた事でトーベナス社は更に その力を増していった。無論、それはいい方向性である。 第2話へ続く |
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