第3部 9人の勇士 36人の猛将 〜第1話 生きる価値1〜 エリディム=クライゼイル。レイヴンとダンサー・歌姫として生計を立て日々強く生きる。 同僚のアニーとペアでのダンサー家業は他のダンサーの追随を許さず、トップクラスの実力を 持つ女優として広まっていった。 斉藤アニー。エリディムの良きパートナーで妹的存在。 またレイヴンとしてはウイングマンとして凄まじい連携力を発揮した。 エリディムとアニーの2人のダンサーレイヴンを言い表し、ダンシングレディーズと人気が 高かった。 デュウバ妹「はい・・・はい、了解しました。引き続き任務を続けます。」 当然2人がロストナンバーレイヴンズの一員になる事を理解していたウインド。 彼女の元に監視護衛役としてデュウバ妹を就かせていた。 エリディムとアニーにとって、デュウバ妹はよく顔を見せる女性客だという認識を持つ。 だがそれが自分達を守るべく行っている行動だとは知る由もない。 シュイル率いる12人の決戦から約1年。 完全に悪の巣窟と化したトーベナス本社がデヴィルの軍勢の拠点となってからも約1年経つ。 ライア達運営するトーベナス運営陣は、平西財閥と合併し共に財閥の経営を歩み出した。 その後新生平西財閥としてスタートを開始する。来るべき決戦に向けてレイヴンズは毎日が 修行の日々であった。 再び産休に入った副社長のライア。マイア・レイス姉も彼女をサポートしつつ、鍛錬の日々 が続いていた。 メルア「デュウバ様から連絡です。状況は普通との事。」 ウインド「分かった。」 約1年経過し、更にやんちゃぶりを発揮するターリュとミュック。そして歩けるまでには 至らないが、同じくやんちゃになりつつあるユウとアイ。毎日が冒険で楽しいようである。 ミナ「ますます大変になりますね。」 ウインド「まあ仕方がないさ。これが4人の仕事みたいなものだからな。」 ミナも大役を任されてからレイスクラスの人物となり、今ではクローンファイターズに肩を 並べるほど強くなっていた。 また4人の子守りを行う事が、彼女をより一層女性へと引き立たせていった。 メルア「将来この子達もレイヴンとして活躍するのでしょうかね。」 ウインド「かもな。こいつらの事だ、手が付けられないぐらい暴れまくるだろう。」 未来の大切な人材。今は温かく見守り続ける一同であった。 それから数日が経過。 エリディムとアニーもデュウバ妹とすっかりうち解け雑談をするぐらい仲が良くなった。 華の剣士と言われる自分達デュウバ姉妹。故にダンサーという職業に何か共通するものが あるのであろう。短時間で意気投合する事は滅多にない事である。 ここはネオ・アイザック近郊のアリーナ闘技場。 その休憩場近くに建てられた酒場の片隅で、3人の女性陣が雑談をしていた。 デュウバ妹「それ言えてるわねぇ。」 アニー「でしょでしょ、それが目当てなんだからねぇ。」 エリディム「まあ生きられるなら問題はありませんが・・・。」 レイヴンとしての腕はまだ浅いが、ダンサーという職業柄機敏な洞察力などが働いている。 それ故に短時間で中ランククラスまで駆け上がったのだ。 また生きる事を何よりも大切にしている2人にとって、レイヴンという本職は勝たなければ いけない戦いでもあった。 アニー「しかしデュウバ姉も珍しいよね。ダンサーに女性は殆ど話しかけないんだよ。」 デュウバ妹「どうして?」 エリディム「ストリップという誤認があるようなのです。別にそんな過激なショーはやりませんが、 どうも裏家業の職業という認識が強いようですよ。」 デュウバ妹「それいっちゃあさ・・・、レイヴンなんかぶっちゃけ暗殺家業だよ。人殺しの道具を 使い合法非合法問わず依頼を受ける。破壊・殲滅、どれをとっても血生臭い。レイヴン 自体殺人集団でもある訳よ。」 のほほんとしているデュウバ妹がしっかりとした現実味ある発言をし、2人の新米レイヴンは 呆気に取られた。 それもその筈、彼女達2人はまだ知らないのだ。デュウバ妹がクローンではあるが、伝説の 華の剣士だという事を。 エリディム「とにかくお気を付けて下さい。私達と話した女性はどなたも世間から白い目で見られる ようです。」 デュウバ妹「あ、気にしない気にしない。それ以上の冷たい視線を浴びて生きてるから。こんなの 目じゃないわ。」 気遣って話したエリディムにデュウバ妹は明るく問い返した。そのしっかりでどこか寂しげな 発言に、2人は心が重くなった。 デュウバ妹「とりあえず今日は引き上げるね。お2人さん、どんな辛い事があっても負けちゃダメ。 希望を持って辛くても歯を食いしばって生きなさいね。」 そう告げるとデュウバ妹は酒場を後にした。 2人は自分達より遙かにしっかりしている彼女の後ろ姿を見つめ、私達もこういった女性に なりたいと心中で思った。 シェガーヴァ「上出来だ。これなら奴等に引けを取らないだろう。」 平西財閥地球本社。その近くに別棟が建てられ、レイヴンズは来るべき決戦に向けて戦力 増強を行っていた。 内部ではシェガーヴァを中心に人工知能を作成。それを各々が組み上げたACに搭載し、起動 実験を繰り返していた。 マイア「味方と敵とはどう区別したらいいでしょうか?」 シェガーヴァ「敵側の特別な信号があれば別なんだが。ACはどれも機械の固まり。また敵側の人工 知能と連動し、誤作動を起こしかねん。そのプランは別に考えておこう。」 マイア「よろしくお願いします。」 ライアが再び産休に入り、マイアがトーベナス副社長として指揮を執っている。それが影響 してか以前より美しくなり、今ではナイラやライアを超える美貌を持つようになった。 シェガーヴァ「しかしお前も悲しい役目だよな。本来は姉のやるべき事なのに。それによって自由を 奪われているように見える。」 マイア「いいのですよ。私が進んで行っている事です。姉が生きていた事が何よりも嬉しかった。 私が出来る事があれば何でもしますよ。」 シェガーヴァは目の前のまだ20以下の女性に脱帽していた。ここまで一途に尽くす事はそう なかなか出来る事じゃない。 その激務を顔色一つ変えず行う姿に、再婚してすぐ他界した亡き妻とダブって見えた。 シェガーヴァ「フフッ。お前を見ていると他界した妻を思い出す。」 マイア「ウィン様のお母上ですか?」 シェガーヴァ「ああ。お前みたいに一途で研究などを手伝ってくれた。また明るく気さくで周りを 和ませてくれた。」 マイア「まあ・・・私の祖母がシェガーヴァさんの奥様なのですから。似ていると言えば似ていると 言えますが・・・。そう褒められると恥ずかしいです・・・。」 シェガーヴァ「ハハハッ、全くもってそっくりだな。」 頬を赤く染めるマイアを見つめ、シェガーヴァは亡き妻を思い浮かべていた。 流石妻の子孫だなと心中で言わざろう得ない。 レイス姉「エコー検査の結果、胎児は双子で男の子と女の子のようです。」 ライア「やったぁー!!!」 飛び上がらんばかりに喜ぶライア。側にいるユウトも同じく嬉しい表情をしている。 胎児の定期検診の際に性別が確認でき、医師の免許を持つレイス姉が報告した。 ここは新しく作られたライア用の病室。ユウトも今回は付きっ切りで看病しており、彼女の 負担を軽くしようとしているのが分かる。 また最近レイス姉も付きっ切りでライアの面倒を見ており、彼女の中で罪滅ぼしの一念が強く 出ていた。 レイス姉「よかったですねライアさん。」 ライア「これで跡継ぎができるわね。」 ユウト「名前は何にしましょうか。」 ライア「まだ決めてないわ。そうそう・・・今回はあなたが決めて。あなた自身の後継者だしね。」 ユウト「分かったよ。」 会話する夫婦にレイス姉はこの手で殺めた息子夫婦を思い浮かべ、心中悲しい雰囲気になる。 レイス姉「ちょっと席を外しますね。夫婦の会話に水差してはいけませんから。」 ニヤケ顔でレイス姉は病室を退室した。だが心中は2人の姿を見ていられなくなったからで ある。 ウインド「フフッ、お前らしい。」 悩みなどがあるとついついウインドの元へ訪れるレイス姉。彼の側にいる時が唯一安らぐ、 彼女は何度もそう思った。 レイス姉「自分から看病すると言い出したのにこの様はないですよね・・・。」 ウインド「まあ深く考えなければいいんじゃないか。辛い過去として振り返るのはお前自身が反省 している何の証拠。それにお前自身が赤い血潮が流れる人間としての証だしな。」 レイス姉「・・・そう言って頂けると嬉しいです。」 何年経っても彼には世話になりっぱなしだ、レイス姉は心中で自分を叱咤した。しかしそれも また、彼を愛してるからこそ頼っている自分がいる。 1人の男性の妻として一時期は過ごした。だが他者を気になるという彼女自身には逆らえな かったのである。 ましてや相手は初恋の相手、これでは尚更ではあるが。 ウインド「お前最近そういった事が多いよな、少しはリラックスしなよ。ビィルナとデュウバを見て みな、率先して動いてるぜ。」 レイス姉「それは・・・。」 一夜を共にしたから、レイス姉はこう出掛かった言葉を押し殺した。 しかし相手が悪かった。ウインドは直ぐに彼女が思っている事を察知した。 ウインド「その事はタブーだとは知っている。しかし俺自身もそれによって2人に救われた。かと いってお前に同じ事をして、お前自身がそれで解決するのか?」 レイス姉「・・・しません。」 ウインド「お前自身が選んだ道だ。戦士としての道を捨て、母として生きる道を。今はこうやって いるが、いい加減自分とケジメを付けるべきだ。」 レイス姉「・・・またあのような事になりかねないですからね。」 ウインド「分かっていればいいさ。お前は俺より強いのだから、もっと気丈に気持ちを持ちなよ。」 この言葉、何度となく耳にした事か。 自分の為を思って誠心誠意応じてくれている。だが己は一度それを反感し、負の感情に身を 委ねた。その結果がライア・マイアの両親を殺害に至っている。 消える事のない大罪、何度となく思い出す悪夢。 それらに何度も振り回され周りに迷惑を掛け続けるか。 または心の奥底に封印し、それらをバネとし先に進むか。 レイス姉自身はそれを理解している。いや、本当には理解していないのだろう。だから今だに 同じ事を繰り返している自分がいるのだ。 レイス姉「・・・申し訳ないです。毎度毎度愚痴ばっかこぼして・・・。」 ウインド「心の奥底にしまい込み1人で悩むよりはまだマシさ。聞き役がいるという事はどれだけ 幸せな事か。それだけ思ってくれればいい。」 妹より小柄になってしまった姉を抱きしめ、ウインドは軽く背中を叩いた。 生前のアマギや自分より気丈夫だった彼女が、今は悩み苦しんでいる。 だがその解決の糸口を切り開くのは他ならない彼女自身である。その意味を込めて軽く背中を 叩く程度にしたのだった。 ウインド「俺より背が高かったのにな・・・。年は取りたくないものだよ。」 レイス姉「フフッ、貴方はいつまでもそのお姿ですしね。」 ウインド「だな・・・。」 相手の心拍数が自分に伝わるほど、レイス姉の鼓動は高まっていた。それを感じたウインドは 徐に話し出す。 ウインド「本当にお前自身が構わないのなら、夜俺の部屋に来な。」 レイス姉「・・・いいのですか?」 ウインド「決めるのはお前自身だ。俺はお前の背中を押す事しかできない、先に進むのはお前自身。 その糸口になるのなら構わない。」 レイス姉「・・・暫く考えさせて下さい。」 ウインド「よく考えな。この行為がお前にとってどんな結末になるか。母親のお前ならよく分かる だろう。」 そう語るとウインドはガレージの方へ向かっていった。 レイス姉は強い胸の高鳴りが続き、胸に手を当てて俯く。 己が望むものは吉か凶か、何度も心中で問いかけていた。 第1話 2へ続く |
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