〜第2部 9人の決戦〜 〜第1話 憧れ2〜 ガレージの外で待ち続けるライア。 彼女の格好は妊婦風のものである。安静を義務づけられた彼女にとって、唯一の安息の時間 でもある。 ここはトーベナス新本社。外観は前回と殆ど変わらないが、地下に本社を置くといった対処 が取られている。地上の建物が破壊されても通常通りに機能するように。 レイス「大丈夫ですか?」 ライア「はい。」 ライアが母になる事が分かった時点で、ウインドは直ぐ様サポート役にレイスを抜擢する。 母親ではないが、レイスの存在はもはや伝説の母親的存在になりつつある。デュウバもそうで あるが、清き純粋な母の心を持ち合わせているのはレイスが一番お似合いであった。 レイス「しかし驚きです。ライアさんが先に母親になるとは。」 ライア「ですね。」 母になると決まった時から、ライアは熱血漢風の性格からお淑やか風の性格へと変化した。 それは彼女なりの過去からの成長でもあった。 レイス「とにかく安静になさって下さい。貴女の分まで私が動きますから。」 ライア「お世話様です。」 その後ライアは社内へと戻り、自室で安静に時を過ごす。その間の身の回りの世話などは、 レイスとウインドが解放した人工知能レイシェムによって行われた。 レイシェム。本名、レイシェム=ウインド。 ウインドの娘でもあり、シェガーヴァのサポート役でもある。 彼女の人格はウインドの行動原型ともなるウィム=レイリヴァイトと、既に亡き人となって いるレイスのオリジナルの南村レイスの2つである。 シェガーヴァと互角の力を持つプログラミング能力。そして彼より数倍以上の優しさを持ち 合わせている。 ウインドはレイシェム自身を誕生させるとは考えてはいなかった。だがライアの身に起こった 事を知ったのとシェガーヴァのサポート役が必要であった事が、レイシェムを誕生させるに 至ったのであった。 それから暫くして、シュイル・アリナス・デュウバが到着した。それぞれ標準2足AC・ 4足AC、そして軽量2足ACがトーベナス社のガレージへと入っていった。 デュウバ「お久し振りですキュービヌ様。」 キュービヌ「元気だった?」 デュウバ「元気すぎるほどですよ。」 愛機から降り、出迎えてくれたキュービヌに軽く挨拶を交わすデュウバ。そこに恐る恐る シュイルとアリナスがコクピットから出てくる。 キュービヌ「この彼氏がシュイル君?」 シュイル「あ、はい。シュイル=フォースと申します。」 アリナス「アリナス=ナークリェントです。」 キュービヌ「・・・何だか訳ありみたいね。」 キュービヌは瞬時に彼女の心中を見抜く。それはユウト同様、アマギ直伝の優れた洞察力が ものをいっていた。 その後デュウバは2人を連れてライアがいる自室へと向かった。その間にキュービヌは2人 の愛機をメンテナンスに取りかかる。何時いかなる時でも出撃できるようにするためである。 ライア「お待ちしておりました、シュイル様。」 部屋ではライアが椅子に腰をかけて2人を出迎えた。その仕草はかつての彼女ではなく、 大人のライアであった。 ライア「それと・・・こちらの方が依頼を受けて下された方ですね。」 アリナス「あ、失礼しました。アリナス=ナークリェントといいます。」 ライア「ライア=トーベナスアイグと申します。」 対応の機敏さにアリナスは心から驚く。自分とは大して年齢が変わらないのに、応対の仕方は 大人の女性並だったからだ。 シュイル「依頼の件ですが、相手は分かりますか?」 ライア「分かりません。ですがこちらを叩き潰すのが第一ですから、好戦者が該当かと。」 アリナス「任せて下さいっ。ライアさんの代わりに敵をぶっ潰しますから!」 以外にも興奮気味に話すアリナス。それはライアの姿を見たからであった。 自分と同世代の女性であるのに既に母親。それに応対の仕方やその気品溢れる笑顔。これが 周りの人間を明るく活発にさせている。彼女はその影響を一番受けたと言ってよいだろう。 ライア「フフッ、昔の私に似ていらっしゃいますね。」 アリナス「む・・昔と言われましても・・・。」 ライア「確かに。1年前まではアリナス様と同じでした。ですが今となってはこの通りに。いつ出産 してもおかしくないと言われているので、軽はずみな行動はできませんし。」 自分の身体を指し示し、これが変わった原因だと言うライア。同性であるアリナスはその事が 心から理解できた。 ライア「ですがアリナス様。決して怒りに駆られて自分を見失ってはいけません。それは己の破滅を 指します。それに自分はともかく、周りの方々を困らせるのはいけませんしね。」 アリナス「肝に命じときます。」 アリナスは思った。この人は幼い時に生き別れになった母に似ていると。 明るく気さくだが、決して甘えず自分を見失わない。他人を気遣い心優しく包んでくれる。 うる覚えではあるが、彼女はその温かみだけは忘れずに覚えていたのである。 ユウト「ただ今戻りました。」 直後ドアが開き、ユウトが入室してくる。それを見たシュイルは驚きの表情をする。 シュイル「せ・・・先輩っ!」 ユウト「お、シュイル君。久し振りですね。」 訳が分からなそうにしているアリナスを見たユウトは、とりあえず自己紹介を始める。そして 自分とシュイルがどのような関係なのかを詳しく述べた。 アリナス「そうでしたか。若いながらも師匠なんですね。」 ユウト「若輩者ですよ。」 ライア「そうでもありませんよ。ユウト様はしっかりしていらっしゃいます。私達を支えてくれて いる方なのですから。」 徐にライアが歩み寄る。それを見たアリナスは直ぐ様手を差しのべ、安否を気にかける。 アリナス「大丈夫ですか?」 ライア「ありがとうございますアリナス様。」 シュイル「・・・もしかして、ライアさんのご主人って・・・先輩ですか?」 ユウト「そう・・なりますね。」 ライア「もう、まだ慣れないんだから。」 図星だとシュイルとアリナスは直感する。ライアの今までの言動が、ユウトの前ではまるで 違う。本当の夫婦のようであるからだ。まあ事実、2人は既に夫婦ではあるが。 デュウバ「信じられないでしょう、この年でご結婚されているのですから。」 レイス「私なんか小母さんですよ、この年で。」 2人の美女が溜め息を付きながらそう述べる。自分より年が若い2人が結婚しているのだ、 遣る瀬無い気分にもなるだろう。 アリナス「デュウバさんとレイスさんはご結婚はされていないのですか?」 レイス「したくても、永遠にできません。」 アリナスの発言に2人は暗い表情をする。それを見たアリナスはしまったという顔をした。 その後レイスは事情を2人に話しだす。 レイスとデュウバは既に亡き人であり、クローン体によって今のご時世に生きているのだ。 また憧れの人物はいようとも、その人物も自分達と同じクローン体である事も告げた。 生きていてはいけない人物。だが罪滅ぼしの為に永遠に生き続ける決意である事も、しっかり と告げた。それが己の生きる執念であるともである。 アリナス「そうだったのですか・・・。」 レイス「貴方達を羨ましく思います。私達の視点からでは一瞬の時ではありますが、恋愛をし愛を 育み結婚する。子供が生まれ円満な家庭を築く。これこそが女性の憧れでもあり、絶対的な 幸福でもあるのですから。」 デュウバ「私達は既に死んでいる者です。死んでいる者が幸せになれるはずがありませんから。」 レイス「ですがあの方と一緒に永遠を生きられるのでしたら、決して後悔はしません。」 デュウバ「そうですね。」 4人は心から辛い思いになった。目の前の明るく見える女性2人は、心中では辛く悩んでいる 事が痛いほど分かった。 本当は好きな人と一緒になりたいのであろう。その思いが痛いほど伝わってくるのである。 ウインド「幸せになりたいのだったら手はあるぞ。」 重苦しい雰囲気のライアの自室、そこにウインドが入室してくる。自分達と同世代か、年上 であろうとシュイルとアリナスは思った。 シュイル「あの〜・・・貴方は?」 ウインド「ウインドだ。よろしくシュイル・アリナス。」 驚く2人。目の前の優男が伝説のレイヴン、ウインドであるからだ。しかしそれは一部の人物 にしか分からない事。他のレイヴンからしてみればウインドの存在など普通の者でしかない。 2人が驚いたのは、デュウバから自分の師匠と聞いているからであった。 アリナス「と・・・ところで、先ほど手はあると言っておられましたが。」 ウインド「ああ。今の身分を捨てて、普通の女性として生きる事だ。」 シュイル「身分とは・・・罪滅ぼしを止めて普通に生きろという事ですか?」 ウインド「そうだ。かつて言ったと思うが、別に無理して付き合わなくてもいいと言った筈だ。今の 地獄のような苦しみから解放され、一時の幸せを楽しむのも悪くはない。」 レイスとデュウバは黙ったまま俯いている。自分達が軽はずみで発言した事が、一番大切で 愛している人物を苦しめている事になった。 かつて2人は顕然と言い放った。苦しくても共に生きようと。それを忘れて話していたからで ある。 だがそれは本来人間が考える事であり、地獄を見続けていた2人にとっての逃げ場であった。 ウインド「大切な人には楽をさせるのが俺の主義だ。苦しかったら止めてもいいんだぞ。」 レイス「・・・できません。」 泣きながら言い切るレイス。自分の一瞬の本音が、愛する人を苦しめる結果になった。自分 から望んで彼と一緒にいると決めたのだ。それを忘れてしまっていたのだから。 デュウバ「申し訳ありませんでした・・・。」 ウインド「別に謝らなくていいんだよ。人間誰しも本音は持っている。それをいかに押さえるかに よって、苦しい人生を生きられるのだから。笑いたい時には笑い、泣きたい時には泣く。 なんら恥ずかしい事でもない。」 泣き続ける2人の肩にそっと手を置きそう話す。まるで幼い子供が父親に慰めてもらっている ようであった。 ウインド「ごめんな。お前達の心の苦しみを感じ取れずに。」 レイス「そんな事ありません。」 デュウバ「側にいて下さるだけで充分です。」 シュイルとアリナスは、2人の大切な人がウインドである事に気づいた。それと同時に確かに 叶わぬ恋だなと痛感した。 ウインド「苦しい時はいつでもいいな、出来る限りの事はする。どんな時でも気丈でありな。」 シュイルとアリナスは僅かな間でウインドの偉大さが痛感できた。これほどまでに先を見定め 生きている人物はいないと。自分の師匠ユウトやライアが慕う訳も、しっかりと理解できた。 ライア「・・・原因は私にあるんですね。私が子供を作り、結婚したから・・・。」 ウインド「いや、ライアに責任はない。むしろそれが自然だ。ユウトとライアが結婚する、レイスと デュウバがやきもちを焼く。それらは全て人間が行う行動だ。恥じる事はない。」 そうレイスとデュウバの発言は、ユウトとライアの行動を見てのやきもちであったのだ。 まあやきもちを焼かない人間はいない。レイスとデュウバはしっかり人間として生きていると いう証でもある。 ウインド「俺も時たまやきもちを焼く。恋愛とかは無縁だと言ってるが、実際の所、異性は好きだ。 それが人間であり、男だからな。」 今までにない明るい表情でウインドは語る。皆に対しての詫びのつもりなのであろう。彼が 心の内を明かす事は、そう滅多にない事だ。 シュイル「となるとウインドさんの方が羨ましいですよ。永遠に付き合ってくれる女性が2人もいる のですからね。」 ウインド「ハハッ、違いないな。」 シュイルの発言に大笑いするウインド。意外な一面を見せるので、それ以外の面々は呆気に 取られている。 ウインド「行う事はしっかりやる、永遠にな。だが時には、そういった感情があってもいいものだ。 人生苦しくても楽しくやっていかないとな。俺も改めて学ばさせて貰ったよ。」 シュイル「ですね。」 自然と笑顔になっている一同。それにレイスとデュウバはすっかり立ち直ったようである。 流石自分が慕う者だと、2人は心の底から痛感した。 そしてレイス・デュウバの2人の心中では、ある決意が固まるのであった。 ウインド「相変わらず可愛いな。」 ターリュとミュックを胸に抱き、優しくあやしているウインド。 ライアは身体の事もあり、早い就寝を行っている。その間の雑務等はユウトが代わりに担って いる。 今ウインド達はブリーフィングルームにおり、トーマスとメルアが平西財閥本社派遣のため 代わりに2人の世話を買って出た。同室にはレイス・デュウバ・シュイル・アリナスの4名が 待機している。 襲撃予告があってから、数時間が経過していた。何時いかなる時にでも襲撃されても大丈夫 なように、24時間態勢で警備に当たっていた。 当然厳重な警備には、ライア自身の身の安全を第一に考えられていた。 アリナス「よく懐かれてますね。」 ウインド「幼くても同じ死線をくぐり抜けた同志だ。何か繋がるものがあるんだろう。」 彼の頬を優しく撫でるターリュとミュック。半年前より身体は大きくなり、歩けるようにまで 成長していた。そして幼い表情は、幾分美しさが増したのであろう。 流石は幼くても女性。所々まだ言葉になっていない発言をするのが可愛らしい。 シュイル「お父さんみたいですね。」 アリナス「お母さんはレイスさんとデュウバさんというところかな。」 シュイル「そうすると・・・ターリュちゃんがレイスさんで、ミュックちゃんがデュウバさんのお子 さんかな。」 アリナス「でもさ、そうなると一夫多妻になるわよ。十分不倫だし。」 シュイル「言えてる。」 心で望んでいる事を声に出されて話されているので、レイスとデュウバは今までにない赤面で 俯いている。 だが相手役となるウインドは違いないと、意見する2人と共に笑い合っている。 ウインド「俺とレイス・デュウバは、これから生まれてくる子供達の両親的存在だ。その子達が未来 の大切な人材になるために、誠心誠意守り抜く。目に映る子供達だけは、そうやって育て ていきたいものだ。」 その発言に4人は頷く。ターリュとミュックやライアのお腹の中にいる子供達は、未来の大切 な人材だ。自分達の後継者になってもらうべく、自分達が見本を示さなければならない。 その役柄を担うのだと若いシュイルとアリナス、そして永遠の母親たるレイスとデュウバは 心中で固く決意した。 その後ブリーフィングルームで待機していた一同。相手から襲撃予告が入る。それは明日の 午前中だという。つまりは今は攻めてこないという事になる。 5人は明日に備え、十分な睡眠を取る事にした。 シュイルとアリナスはターリュとミュックの面倒を見てくれるという。その後解散となった。 ウインドの自室。突如発作とも思える魘されをしだすウインド。隣にいるそれに気付いた レイスとデュウバは、すぐに彼の安否を気にかける。 デュウバ「大丈夫ですか?!」 暫くうなされ続けると、その後いきなり起きあがり辺りを見回す。その行動に2人は驚いた。 ウインド「・・・レイスは・・・レイスはいっちまったのか・・・。」 レイス「私ならここにいますよ。」 震える両手を胸に抱き、レイスが慰める。だが今目の前にいるレイスの事を指しているよう ではなかった。その怯え方は普段の彼とは見違えるほどである。 ウインド「・・・あんな事を言ったばっかりに・・・、・・・彼女を苦しめてしまった・・・。この 守るべき・・・守ってやるべき手で殺してしまった・・・。」 レイスは何も言わずに、胸に彼の頭を抱き寄せる。レイスは思った。過去の出来事を夢見て 魘されたのだと。 どんなに気丈に過ごしていても、彼も1人の人間である。クローン体ではあるが、心の弱さを 持つ赤い熱い血が流れる人間そのものだと。隣に寄り添っているデュウバもそう思った。 レイス「大丈夫ですよ、私達がいます。安心して下さい。」 デュウバ「恐れる事はありませんよ。」 自室に着いたウインド・レイス・デュウバの3人。 その後彼女達は胸の内の叶わぬ願いを、徐に彼に告げた。それは自分達を慰めて欲しいという ものであった。それは端から見れば完全な二股そのもので、また3人の関係上不倫に近い。 だが進んで希望したのはレイスであった。またデュウバもダメ覚悟に希望した所、レイス 自身がそれを承諾した。 レイス自身もデュウバと過ごしていくうちに、その内の思いが痛いほど分かりだす。自分と 同じく彼を心から愛していると。 ウインドと2人の関係上、父親と娘・祖父と孫である。本来なら絶対に行ってはいけない 行為だった。しかしウインドは2人の心の底からの願いに応じ、禁断である行動に出たので ある。 だがそれはウインド自身の過去と触れ合う事となり、悲惨な結末となったオリジナルレイス とレイシェムの悪夢を呼び覚ます事となった。 200年以上生き続けて来た彼の全ての悪夢が、2人と一つになる事によって一気に押し寄せ てしまったのだ。 今だ震える彼に寄り添い2人の娘達はただ黙っていた。この場合はどうする事もできない。 また普段人一倍強い彼のその尋常でない怯え方に、2人も恐怖に一杯でただ黙って寄り添う事 しかできなかったのである。 どれだけ沈黙が続いただろうか。 そのままの形で寝ているウインドを確認すると、レイスとデュウバは深いため息をつく。彼の 発作とも言える長い怯える間、2人は為す術のないまま同じく震えていた。 この時2人は彼と共に、彼の悪夢と真っ向から対立したのだ。200年分の悪夢とも言う べき戦いに、ほんの一瞬の間であったが2人は全身全霊で戦ったような気分であった。 そしてこの悪夢と対立する事によって、2人は初めて彼と一つになれた確信ができた。 愛している者の悩みをも一緒になって背負い戦う。ウインドが自分達に、そして他の人々に 行っている行動。これがどれだけ大変か、心の底から理解したのである。 ウインド「すまないな・・・、迷惑かけちまって。」 黙って彼に寄り添う2人にウインドは声を掛ける。そのまま2人も眠ってしまい、約3時間 以上経過していたのである。 レイス「・・・私ね、生まれて初めて人と共に戦うという事を学んだよ。普段あなたと一緒に戦う 事で、とても満足だった・・・。でもさっきの一瞬の方が、それより数倍一緒に戦った気が した・・・。」 デュウバ「そうよ・・・。何もできなかったけど、寄り添う事で一つになれる気がした。苦しんで いるあなたを助けられる感じがしたよ・・・。」 ウインド「・・・命の恩人だね、2人には感謝しないと。」 レイス「ううん。絶対に叶わないだろうと思ってた・・・。あなたと一つになる事ができて、とても 嬉しかった・・・。」 デュウバ「私も。初めて会った時は憧れだけだった・・・。けど・・・長い間一緒に過ごしていたら ・・・、あなたの事が好きになっちゃって・・・。レイスには悪いと思っていたけど、 このような形になってよかったよ・・・。」 ウインドは2人を抱き寄せる。そしてただ黙って感謝の意を表した。そして2人が完全に迷い から吹っ切れた事に確信が持てた。 その後も2人は何度となく彼を求めた。今まで求めたかった思いを、全て彼にぶつけた。 また彼の方もそれに応じ、2人を優しく包み込んだ。いや、彼自身も望んでいたのかも知れ ない。 自分はクローン体、レイス・デュウバもクローン体である事。また過去に大罪を犯した自分 がそのような行為を行ってはいけないと、彼は心の中で固く閉ざしてしまっていたのだ。 だが2人が自分の悪夢と共に戦ってくれた。いずれ戦わなければならない・決別しなければ ならなかった悪夢と。それを共に戦ってくれた2人に対して、ウインドは感謝も込めた。 しかし完全に過去と決別できたという訳ではない。 人間誰しも持っている、辛く悲しく痛い悪夢の数々。それらはいつ出てもおかしくはない。 要はそれが出たとしても、毅然たる態度で乗り越えられるか。ここが人間性を求められた生き 方なのだ。それを少なからず、ウインドという人間は実行しているに過ぎないのである。 3人は思った。ただ一緒に戦ったり一緒に過ごすだけでお互いが理解できると思っていた。 だが心と身体とが一つになる事で、心の底からお互いを理解できるようになれたのだ。 2人にとっては激戦である悪夢との戦いにも負ける事なく戦い切れた。それはこの世で一番 大切な人と一つになれた事で、負けまいとする勇気が湧いたのだ。 そしてレディシルバーのレイス=ビィルナ、華の剣士のデュウバ=ドゥヴァリーファガ。 2人がウインドに仕える従者から、彼に匹敵する真の戦士へと目覚めた瞬間でもあった。 第2話へ続く |
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