10th 物語の真実 |
10th 閉ざされし記憶〜WhiteSnow&BlueMoonLight〜 「チッ・・・何でこんな疲れるような道選んじまったかなぁ・・・!?」 コックピットの中でナイトは一人、呟いた。 「目がさ、ちょっと前のナイトに似てたからじゃない?」 ピースから通信、どうやら聞いていたらしい。 「どうだかな、忘れたね」 「常に怒りっていうか、憎しみっていうか、悲しい感じ」 「分かりづれぇよ・・・」 8年前、ホワイトランド 生まれてから16年、僅かに記憶に残る父親は最低の人間、いつのまにか家にはいなくて いつのまにかどこかで勝手に死んでいた。 母親に至っては記憶に残っていない。 物心ついたころには路地裏の雪が当たらない所が家になっていて 物心ついたころには盗みに手を出し、それで生計を立てていた そんな生き方を少年はし続けてきた・・・。 17年目の誕生日の日までは。 ホワイトランド、孤児院 「それじゃあ先生、行ってきまーす!」 8年前、ピースはホワイトランドの孤児院で暮らしていた。 幼いころに両親をレイヴンに殺され、それからずっとこの孤児院で暮らしてきていた。 「暗くならないうちに帰ってくるんですよ?最近物騒ですから・・・」 孤児院の主であり、先生と呼ばれた初老の男がピースに向かって叫ぶ。 「分かってるよ先生、買い物だけなんだから、そんなに遅くならないよ」 男にピースは面倒臭そうに返事をして、外に出て行った。 「あーぁ・・・結構遅くなっちゃったなぁ・・・先生に怒られるよ・・・」 既に日は傾き、夕暮れ時になっていた。 「・・・えぇっと・・・確かこっちに近道が・・・」 町の路地裏、街の外れにある孤児院への近道だった、薄暗く、不気味な道だがピースは普段から良く使う見慣れた道・・・の筈だった。 「・・・・あれ?・・・何これ・・・」 路地裏の雪に点々と続く鮮烈な赤い染み、それは目の前の曲がり角を曲がり、奥へと続いていた。 そして、普段見慣れないそれを血だと理解するのには若干の時間を要した。 「・・・・」 奥へと続く血痕をピースはゆっくりとたどっていく、その路地の行き止まりにそれはあった 「!!・・・」 血塗れの人間、それが壁に座り込むように倒れ、雪に埋もれていた。 「だれ・・・だ・・・?」 開かれた少年の目がピースを捉える、鋭く、まるで敵を見るような目だ。 「い、生きてる!?・・・大丈夫・・・ですか?」 差し出された手を払うような動作を見せたが、少年はそのまま気を失ってしまった。 「ど、どうしよう・・・・」 孤児院 「ピース、あれほど遅くならない内にと言ったのに・・・!?・・・そ、その人は・・・?」 「せ、先生・・・!!・・・すいません、この人・・・路地裏に倒れてて」 玄関には血塗れの少年を引きずっているピースの姿があった。 時間はピースが少年を孤児院に連れて行く、二時間ほど前にさかのぼる。 その時、意識が少しずつ遠のいていくのを少年は感じていた。 数時間前まで狂いそうになるほど体中を纏わり付いていた激痛も、今では殆ど感じない、恐らく雪の寒さにより体の神経が麻痺しつつあるのだろう。 そこまで冷静に考えられるほど、少年は平静を保っていた。 つい先程までは近づいて来る死に異常な恐れを抱いていたのに、今まさに死ぬ時になってここまで冷静になれるなんて・・・、少年は少しだけ自嘲気味に笑った。 何故・・・こんな事になったのだろうか・・・? 半日程前、ホワイトランド 「この辺はもう盗り尽くしちまったか・・・」 少年は汚い路地裏を見回しながら独り言を呟いた、手には本日の収入が握られているが、それは僅かなものであった。 「・・・もう少し東に行ってみるか」 ホワイトランド東部、そこはホワイトランドでも最も治安が悪く、そしてそれ故に、回るものも回る場所であった。 「あそこに行けばきっとまだ碌な暮らしが出来る・・・!!」 少年には今より酷い暮らしなど想像できなかった、だが、当然この先の自分の運命などそれよりも想像は出来なかった。 二時間前、ホワイトランド東部 「はぁ・・はぁ・・・」 その悪夢は直に少年を襲った。 足や腕からとめどなく流れる血、それは雪に点々と血痕を残していった。 「くそっ・・・ついてねぇ・・・何で・・・俺がこんな目に!!」 そして、少年の意識は薄れていった、暗い路地裏で・・・。 ホワイトランド、孤児院 「・・・・!!」 目がさめるとそこには、木製の天井が広がっていた、その直後、視界が影により暗くなる。 「い、生きてた・・・先生!!起きましたー!!」 少女の声が聞こえたかと思うと、それはすぐに遠ざかっていき、代わりに男の声が聞こえてきた。 男の声は部屋の前で止まった。 「ピースは先に部屋に戻っていなさい、いいですね?」 その後、先程の少女の返事を確認し、男が部屋に入ってきた。 「・・・・・ここはどこだ?あんたは誰だ?」 少年は上体を起こし、男を睨みつけた。 「一度に質問をしないでください、それに、それを聞きたいのは私も同じです、あなたは誰ですか?」 一呼吸間を置き、先生と呼ばれた男は再び口を開いた。 「まぁ、大体の所は聞かなくても分かりますが・・・大方、スリにでも失敗しましたか?」 男は少年を見下ろしながら言い放った。 それに対し、少年は以前、鋭い目付きで男を睨みながら口を開く。 「・・・孤児院か・・・ご苦労なことだな、それで?俺はいつここを出た方がいい?」 「物分りが良いですね、あなたには悪いですが、あまりあなたのような人はココに居ていただきたくはない、それが現実です。」 男は表情を変えずに、淡々と続けた。 「とはいえ私とて人を見殺しにはしません、とりあえず、傷が治るまでは休んでいって結構ですよ。」 そして男は表情だけの笑顔を取り繕った。 「とりあえずは・・・命拾いした・・ってことか・・・」 ベッドの上で少年は独り言を呟いた。 それとほぼ同時に、部屋のドアが開き誰かが入ってきた。 「あ、あの・・・大丈夫ですか?」 さっきの、ピースと呼ばれていた少女だった。 ピースは心配そうな顔つきでスープを差し出し、言葉を続けた。 「あなたが血塗れで倒れてたときは、ビックリしました、死んでるのかと・・・」 ピースの言葉を遮り、少年は口をはさんだ。 「・・・じゃあ、あんたが助けてくれたのか?」 「え?・・・えっと、一応・・・」 「そうか、そりゃどうもな、感謝するよ」 「いや・・・あたしは、ただびっくりして・・・」 ピースは照れながら、更に続けた 「そういえば、あなたの名前は?」 「・・・名前・・・俺の?」 そう言われ、少年は自分の名前を思い出そうとする、随分昔は何かで呼ばれていた記憶もあるが、最近は自分の名前を呼ぶ人も、呼ばれる必要もなかった。 「とっくの昔に忘れたな、名前なんて・・・」 それを聞いてピースは目を丸くする。 「忘れた?名前を?・・・変なの・・・」 「変、か・・・そうだな・・・」 そう言って、少年は棚の上に置いてあったチェスの駒を一つ取って言った。 「じゃあ・・・ナイト、で」 「・・・そんな適当でいいの?」 「そんなもんでいいんだよ、名前なんて」 ナイトは、駒を見つめながら呟いた。 その夜、ナイトは明かりの無い暗い孤児院を一人歩いていた。 「・・・悪いが、俺にはこんな日当たりの良い場所は合わないらしい・・・」 真っ直ぐと出口を目指して歩く途中、廊下の中の一つの部屋から光が漏れていることにナイトは気付いた。 「こんな遅くに・・・誰が・・・?」 僅かに開いたドアに耳を当てる、中からは二人の男の声が聞こえる、片方はさっき先生と呼ばれていた男だったが、もう片方は見慣れない黒服の怪しい男だった 「・・あいつ・・・どこかで・・・・そうだ!」 ナイトの脳裏にハッキリとした記憶が呼び出される。 過去に裏商売、それも奴隷なんかを扱っている団体の男、何故そんな男が孤児院にいるのか・・・? 「チッ、そんなもの・・・分かりきってるじゃねぇか・・・」 しかし、ナイトにそれを止める気は起きなかった、つい先日まで自分も同じ世界に生きていた、そして、そこにこれから戻ろうとしているのだから。 だが、運命はそれを許さなかった。 「・・・何・・やってるんですか?」 「!!お前は・・・」 薄暗い廊下の奥からピースが現れた、不思議そうな顔をしている。 そして、その直後、部屋のドアが開き、中から二人の男が現れた。 「先生・・・その人は・・・?」 「危ねぇッ!!」 ピースが黒服の男を見上げた時、既に男の手には拳銃が握られ、それはピースの眉間を目掛けて弾を弾き出していた。 間一髪のところでナイトがピースを突き飛ばし、弾は床の木を削った。 「・・・聞いていましたね?・・・これだから手癖の悪い子供は嫌いだ・・・、殺せ。」 先生と呼ばれていた男の合図で、再び黒服の男が拳銃の狙いを定める。 「何、やってるんですか!?先生!?」 「馬鹿が!早く逃げるんだよ!!」 ナイトがピースの手を引き、出口のドアに向かって走り出す。 それと同時に拳銃が立て続けに3発の弾を撃ちだす、一発目は床に、二発目は壁に、そして三発目がナイトの右脚に直撃する。 「ぐぁ・・・・ッ!!!」 弾が当たった場所から、血が噴き出す、しかしナイトは止まらずに走り続けた、右足で地面を蹴るたびに激痛が走り血が噴き出る。 そして、そのままナイトとピースは雪の中へ消えていった。 「・・・必ず殺せ、いいですね?」 「生かして置いたところで大して変わらんだろう・・・」 黒服の男が低い声で返事をする、それに対して初老の男は無言で睨み返す。 それを見ると、男は「チッ」と悪態をつきそのまま無言で後を追った。 ホワイトランド東部 「ハッ・・・ハッ・・・・ハァ・・・・」 「だ、大丈夫・・・?・・・足」 ナイトとピースはそのころ、雪の当たらない路地裏にいた、ナイトは息を切らしながら止血をし、ピースはそれを心配そうに眺めている。 (・・・くそッ、何でこんなお荷物を・・・!!) 止血作業をしながらナイトは内心で悪態をついた、それを感じ取ったのかピースが言い辛そうに喋りだした。 「ご、ごめんなさい・・・でも・・・」 「動くな」 「!!」 暗がりから黒服の男が銃を構えながら現れる、ナイトがピースの手を引いて逃げようとする、が、その瞬間に銃声が響き、近くのパイプが鈍い音を立て、穴を開けた。 「動くな、と言っている・・・なに、痛いのは一瞬にしておいてやる」 銃口がナイトの眉間に狙いを定め、男の指が引き金に掛かる。 「だ、駄目ぇぇ!!」 「ピース!!?」 ピースの渾身のタックルが男の腹に命中する、同時に男の銃が弾丸を撃ちだし、轟音を立てる。 「グハッ・・・!?」 予想外の事態に男は大きく仰け反り、倒れそうになるが、何とか体勢を立て直し、再び銃を構えた。 「・・・っの、ガキがッ・・・!!」 「この、させるかぁっ!!」 男が銃を構えるのと同時に、ナイトが飛び込み男の右頬に強烈なフックを喰らわせる。 男は僅かに雪の積もった壁際に倒れこみ、一度だけ空を掴む様な動きを見せ、そのまま気を失ってしまった。 「ピース、大丈夫か!?」 「だ、大丈夫・・・結構、頑丈なんだあたし。」 そう言って、ピースは頭をさすりながら苦笑いをしでみせた。 「これからどうする気だ、お前は」 「え?・・・あたし?・・・あたしは、暫くナイトにくっ付いて行こっかな、孤児院にも戻れないし」 「・・・さっきみたいな目に合っても知らねぇぞ・・・?」 「大丈夫だって、何とかなるよ!」 これから5年後、二人はタロットofナンバーに入隊する、そして、それから3年後、アビスと出会い戦いに巻き込まれるのだった・・・。 |
〜投稿者 アビスさん〜 |
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