アルティメットエキサイティングファイターズ 〜集いし鋼鉄の勇者達〜 〜第36話 大いなる安らぎ・中編〜 一匹狼の面々とメカノイドの面々は、現実味ある世界観の本編。戦闘兵器や魔法などの類は 一切存在しない。専ら雑談や競技などを行い、それぞれ息抜きをしていた。 リュウジN「本編でも格闘技をある程度できるとなると、プロレスに通じるものがあるんだな。」 ユキヤN「そうですね。」 世界観は異なるが、この2人はロスレヴのオリジナルと同じである。端から見れば親子に近い だろう。 リュウジN「しかし・・・他の方々が羨ましい。俺達には戦闘兵器や魔法など、そんな非現実的な ものは存在しないしな。」 ユウMI「そうすると私達の存在はどう表現するのです?」 前言撤回せざろう得ない。リュウジNとユキヤNがポーカーを相手にしているのは、ユキヤN 側所属のユウMIとアイSだ。そして彼の本当の妹であるユウNとアイNも同伴している。 アイS「少しは非現実を認めなきゃダメですよ。」 リュウジN「むう・・・。」 アフィ「コイツに何言ってもダメよ。一度決めた事は天地がひっくり返ったって変えないから。」 マツミ「そうですねぇ。」 リュウジNの性格を熟知しているアフィとマツミ。一途過ぎる彼故に、曲がった事が大嫌いと いうのは理解できているようだ。 ウィレナ「ユキちゃんは大人しいよね。」 ウィンN「そうでもないわよ。リュウジNさんみたいに、曲がった事は嫌うタイプだから。」 別のテーブルでチェスを楽しむウィンNとウィレナ姉妹。その相手は先ほど口を挟んだアフィ とマツミである。 この陣営は娯楽しか息抜きが存在しなかった。むしろ時間が経てば経つほど、プロレスと いう環境で戦っていた方がよかったと思う者が増えていた。 アンドレ「そう言えば俺達の役割って何なんだろう・・・。」 アビゲイル「まあ悪陣営所属から、他の面々の邪魔をする存在だろうがなぁ・・・。」 ジェリヴァ「我々も正確な役割は不明ですよ。」 この2つの陣営の悪役達は、己の役割を振り返る。アルエキファイタの世界観では、悪陣営 の一員として活躍している。しかし本編では明確な役割が決まっていなかった。 トーマスO「一時期マスターが仰っていたのは、企業を無差別に買収する役割だとか。」 トーマスF「そのあんた達と攻防を繰り広げるのが、俺達らしいよ。」 デムルス「ふむ、企業対決という事ですな。」 双方の陣営に所属するトーマスは、企業の社長という位置付けのようだ。それも悪役の面々 による妨害工作と対決する存在。その間で揺れ動くのが主人公達のようだ。 セアリム「頭脳戦よりも肉弾戦の方が楽なんだけどね。」 ナツミYU「フフッ、確かにそうですね。」 メカノイドの陣営でトップクラスの実力を持つセアリムとナツミYU。2人とも武術の達人と いう設定を施されており、頭脳よりは身体を動かした方が優れている。 ミスターT「こちらはまるで座談会だな。」 飲み物や食べ物を摘まみながら会話する2陣営。そこにミスターTとエシェラが現れる。 やはり驚くのはエシェラの出で立ちだろう。普段の彼女には見えず、大人びいている。 ウィレナ「何か何時ものエシェラさんじゃないみたい。」 ナツミYU「でも普段よりも各段に力が上がってるわ。やっぱ恋する乙女は無敵という事ね。」 エシェラ「もう・・・ナツミYUさんまで・・・。」 母親や恋人がいる人物は、今のエシェラの心境がよく分かる。それだけに彼女が強いという 意味も十分理解できた。 ミスターT「こんな私に誠心誠意尽くしてくれる。ありがたい限りだよ。」 エシェラ「そんな・・・、マスターはこんなという存在ではありません。私の心を掴んで離さない 素晴らしい存在です。自分を批難する事はしないで下さい。」 力強く発言するエシェラに、一同唖然とする。相手を心から理解しているからこそ言える言葉 であろう。真剣そのものの彼女に、ミスターTは逆に悪そうに詫びだした。 ミスターT「悪かった。お前さんの気持ちを理解していない発言だった、申し訳ない。」 エシェラ「分かって頂ければいいのです。貴方の存在は、貴方だけのために存在しているという事 ではないのですから。」 どこまで純粋に思うのか、彼女の会話を聞いた一同は思わざろう得ない。本編とこの場から 独立した形のエシェラは、間違いなく独自の道を進んでいるといえる。 ナツミYU「いっその事、結婚しちゃいなさいな。仮想空間だけど、記憶には永遠に残るわ。」 エシェラ「な・・・な・な・・何を言いだすのですかっ!」 とんでもない事を語りだしたナツミYU。仮想空間ではあるが、式を挙げろと言うのだ。 これには今までにないほど赤面し慌てふためくエシェラ。その度合いから、相当慌てている のが窺えよう。 ミスターT「私には厳しい役所だな。」 エシェラ「あ〜、マスターも逃げ腰になってるっ!」 遠巻きに見ている事から、今はエシェラ本人にスポットが当てられている事になる。傍観者側 に回っているミスターTを見た彼女は、批難の声を挙げだした。 ミスターT「・・・ここは本当の意味で、素直になれない私の責任なのだろうな。」 意味深げに語りだすミスターT。やはり一同を盛り上げる存在という位置付けを、彼は仮想 空間の息抜きの場でも演じている。つまり自ら壁を作ってしまっているのだ。 ミスターT「非常に嬉しい限りだが、辞退させてくれ。」 恐縮気味に断る彼。それを聞いたエシェラは半分は安心し、そしてもう半分は落胆する。 トーマスO「断るという勇気も必要ですよ。それを怠った場合、悲惨な末路を辿る場合もあります ので。」 ミスターT「そうだね。ここは年齢的には先輩格のトーマスOの意見を尊重するよ。」 創生者と作られし者との間柄だが、それを除けばミスターTの存在は息子当然だ。トーマスO の発言は、長年の経験によるものだから。 ミスターT「しかし、お前さんの誠意には応じなければな。」 そう語るとエシェラに近付き、その額に口づけをするミスターT。以前の模擬シーズンと 同じく、突然の出来事に一同呆気に取られた。 ミスターT「これで勘弁してくれ。」 エシェラ「は・・はい・・・。」 以前はいきなりの行動だったため、パニックに陥ったエシェラ。しかし事前にかなりの騒動が あったため、落ち着いてその応対ができていた。 とはいえ自分が思いを寄せる人物に接吻されたのだから、舞い上がるのは言うまでもない。 ウィンN「いいなぁ・・・、ユキちゃんもこういった事してくれればなぁ・・・。」 ユキヤN「な・・何を言い出すかと思えば・・・。」 アサミ「私もユキヤNさんに告白されたいものです。」 アユミ「叶わぬ恋路だけど、女にとっては嬉しい事だからね。」 それぞれ思いを寄せる人物に対し、ミスターTの積極的な行動を希望する女性陣。これには 思い人の男性陣はしどろもどろになるしかなかった。 ナツミYU「ユキちゃんになら、娘達を安心して任せられるわね。」 ユキヤN「先生までからかわないで下さいよ。」 赤面しながら困り続けるユキヤN。だがミスターTの時とは異なり、彼の場合は素で応じる 部分がある。ここは自然体として接している証拠であろう。 ミスターT「お前さん達を羨ましく思う。私もお前さん達の活躍の場を作らねば、永遠に後悔する事 だろうな。」 一服しながら語るミスターT。その意味合いは非常に重く深い。彼の活躍で一同が表舞台に 登場するのだから。その重役を背中に背負っている彼を窺い、仮想空間であっても決断力の 鈍さを知った。でなければエシェラの希望に応える筈であろうから。 ミスターT「あまり無理無茶するなよ。」 ウィレナ「分かってますよ。」 リュウジN「適度に頑張りますぜ〜。」 その後も普通の息抜きを満喫する2陣営の面々。賑わい続ける彼らを尻目に、ミスターTと エシェラはその場を後にした。 ミスターT「ごめんな、お前さんの誠意に応えられずに。」 エシェラ「あ、気にしないで下さい。私も調子に乗りすぎました。」 改めて大変な事を述べたのだと思うエシェラは恐縮気味に詫びだした。しかし素直に行動が できる彼女を羨ましく思う彼。ある意味逃げいるのは自分自身なのだと、ミスターTは己に 嫌気が指してもいた。 ミスターT「ありのままの姿でいられるのは幸せな事だね。だがそれを許してしまったら、私自身が 私自身じゃなくなる。」 エシェラ「ええ、心得ています。マスターは一同のために存在する。故に度が過ぎる行動の一切を 自粛していらっしゃるのですから。」 ミスターT「流石は創生者を狩る者、だな。」 自分をほぼ把握し切っている彼女に小さく驚くミスターT。それを見たエシェラは自慢気に 微笑んだ。 エシェラ「でも・・・断れれたあの時、少し残念でしたけど。」 ふと本音を漏らすエシェラ。女性として人生で大きな壁に直面する部分を断れたのだ。偽りの 世界であっても、それは辛いものだった。 愚痴を口にした事により、急激に落胆の色が濃くなる。心から思う人故に、断れれたショック はかなり大きい。 ミスターT「・・・今後一切の私情を出さないと約束するなら、お前さんの希望に応える。」 エシェラ「え・・・。」 突然の告白だった。落胆するエシェラの表情は、今までにないほど辛そうなもの。それに 応じれない己自身に、嫌気が指す度合いが最高潮に達したミスターT。 変革というのは、どの場面でも変わらない。その瞬間を大切にするため、思い切った行動に でたのである。 ミスターT「何だかな。本編の枠組を通り越し、プロレスという世界観で高みを目指す。だが現実の 行動を取り入れた時に、既にこうなる事は予測できた。」 エシェラ「む・・無理しなくてもいいのですよ。」 ミスターT「それにお前さんには色々と助けて貰ってもいる。そして迷惑も掛けている。その恩返し をしないで何が創生者だ。誠心誠意に応じてくれている人物を黙認しての統括者など 私は行いたくない。」 自分に言い聞かせるように語るミスターT。今まで思っていた悩みを口にした事で、我慢して いたものが一気に噴き上げてきたのである。 この瞬間エシェラは思った。 その超越した存在で一同を纏め上げるミスターT。無意識に自分達とは異なる存在だと思い 込んでいた。だがそれは違った、自分達と何ら変わらない存在なのだと。 大きな重役を担っていたからこそ、己を殺してまで演じ切っていた。それに苛立ちを感じて いたのだとも知った。 そこまで深く知らなかったエシェラは自分が嫌になる。自分の事だけしか考えていなかった のは、彼ではなく自分自身だった事に気が付いたのだ。 創生者たる彼を独占できる、その部分が心の根底に根付いていた。これは彼女が一番嫌って いた事である。それを無意識にしていた事に、今までにないほど怒りが噴き上がる。 エシェラ「・・・私、自分の事しか考えていなかった・・・。貴方と一緒なら何だってできると。 その絶大な力に憧れ・・・、自分が本当に嫌っていた行動をしていた・・・。」 怒りと悲しみが織り交ざり、大泣きしながら話す。無意識に大切な人を傷付けていた事に、 一番怒りを感じずにはいられなかった。 泣き続ける彼女を優しく抱きしめるミスターT。今の自分にできる、精一杯の慰めだ。 ミスターT「そこまで私のために真剣に悩み苦しんでくれる人物などいないよ。お前さんだからこそ できるもの、心から感謝している。ありがとうエシェラ。」 労いの言葉に火が付き、更に大泣きするエシェラ。今はただ為すがままにさせようと、彼は 静かに抱きしめ続けた。 どれだけ時間が経っただろうか。仮想空間の設定によって、辺りは暗闇に覆われている。 しかし寒暖の設定はないため、環境変化にはルーズとなっていた。 泣き疲れて寝てしまったエシェラを近くのベンチに寝かせる。着用していたコートをソッと 掛けてあげた。そして空いたスペースに座り、徐に煙草を吸うミスターT。 本音を言えた事で心の蓋が外れたのか、この時の煙草の味は非常に美味いものだった。 ミスターM「プロレスの枠組から飛び出せば、取り返しの付かない事になると言った筈だ。」 ミスターT「ええ、理解しています。」 静かにその場に現れたミスターM。彼が兼ねてから助言していた内容を語る。それに小さく 頷くミスターT。 プロレスの枠組を超越すれば、そこは纏まりのない世界観が現れる。収拾が付かなくなり、 最悪は終焉へと進んでしまうのだから。 ミスターM「しかし、一同の期待に応えるのが創生者たる所以。無理無茶はしただろうが、後悔は していないだろう?」 ミスターT「テメェの生き様を残せ、亡くなられた叔父からの遺言とも思えます。あの時はそう感じ 取れましたから。いや、そう取りたい・・・。」 ミスターM「なら君の生き様を貫き通すしかない。誰が何と言おうが、自分の生き方は自分でしか 決められないのだから。」 煙草を吸いながら語るミスターM。己の存在、そして己の行動。それを再確認し合う。言わば 原点回帰そのものだ。 ミスターM「非現実・仮想現実でも構わない、絶対に彼女の期待を裏切る事はするなよ。俺は男と して当然の行動をするまでだと思う。無様な姿は望まない。」 ミスターT「了解です、ありがとうございます師匠。」 そう語ると去っていくミスターM。それもスッと消えていく様は、まるでテレポーテーション をしているかのようである。 必要に応じてその場に現れ、助言を残して去っていく。正しく純粋たる漢と言える存在で あろう。 エシェラ「素晴らしい師匠ですね。」 暫くしてからエシェラが呟く。2人の会話で目を覚ましたようだが、水を差しては悪いと 黙っていたようだ。まだ寝たままではあるが、すっかり落ち着いた様子である。 ミスターT「ああ、そうだね。私にプロレス・格闘技などを教えてくれた存在。大嫌いだった私に、 新たなる道を開拓してくれた。感謝に堪えない事だよ。」 180度変わった彼を想像して、凄まじい変革があったのだと確信するエシェラ。懐かしそう に振り返るミスターTに、そう思わざろう得なかった。 ミスターT「この場だけの話になるが。お前さんの申し出、受けさせて貰うよ。」 エシェラ「・・・ありがとうございます。」 幾分か照れ臭そうにするエシェラだが、心中は今までにないほど歓喜に満ち溢れていた。 望んではいたが叶う筈はないと思っていたもの、それが実現したのだ。例えそれが現実では なくとも、今その瞬間は現れているのだから。 ミスターT「式は省略するよ、動いたら何を言われるか分かったものじゃない。口約束になるが、 勘弁してくれ。」 エシェラ「ええ、構いません・・・。今のままで充分幸せです・・・。」 徐に起きながら語るエシェラ。叶わずと思っていた事が実現し、今までないほど心が躍動して いた。それは意思の疎通ができるミスターTにもしっかりと伝わっている。 エシェラ「・・・でも、・・・1つだけして欲しい事があります。」 そう言うと静かに目を閉じるエシェラ。彼女が願っている事を直ぐに察知し、一切の雑念を 捨てて応じるミスターT。隣にいる彼女をソッと抱き寄せると、静かに唇を重ねた。 とんでもない事になったと反省するミスターTとエシェラ。しかしその瞬間は幸せであり、 紛れもない大切な一時。 本編を・陣営を・そしてエキサイティングプロレスという枠組を超越した行動だったが、 2人は後悔はしなかった。 口づけを終えた彼女は彼に寄り添い、その瞬間という大切な一時を満喫していた。 第37話へと続く。 |
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