アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝　〜覆面の風来坊〜 　　　　〜第２部・第７話　巡る盆踊り２〜 ヴァルシェヴラーム「ありがとね、私の影響と言ってくれて。」 ミスターＴ「それはまあ・・・。」 ヴァルシェヴラーム「私の生き様は間違っていなかったという何よりの証だから。」 　　　　同じ言葉をどこかで聞いた事がある。そうか、俺が何度か語っている言葉と同じなのか。 　　　やはりこの恩師あって俺がある、それは間違いない。 ミスターＴ「俺も同じ言葉を使います。周りに感謝される時、俺の生き様は間違っていなかったと 　　　　　　思いますから。」 ヴァルシェヴラーム「フフッ、そっくりね。」 　　　俺の腕にソッと腕を絡めてくるヴァルシェヴラーム。この仕草を見れば、とても俺の母親的 　　　存在とは言えないだろう。 　　　 ミスターＴ「シェヴさんには沢山のお子さんがいます。孤児院を旅立っていった子供達が、今は社会 　　　　　　にでて貢献している。貴方が支えてくれなかったら、俺を含め皆路頭に彷徨っていたで 　　　　　　しょう。」 ヴァルシェヴラーム「そう言ってくれると嬉しい・・・。」 ミスターＴ「俺はシェヴさんに貰った愛情を一生涯周りに注ぎ続けます。それが俺の生き様です。 　　　　　　それにその行動が師恩だとも確信していますよ。」 　　　　徐に泣き出す。感極まっての涙だろう。弟子に労われる師匠は、間違いなく偉大な証拠だ。 　　　彼女を超える師匠と言える人物は、そう滅多にいるものじゃないだろうな。 ヴァルシェヴラーム「ありがとう・・・本当にありがとう・・・。」 ミスターＴ「これは皆には内緒で。」 　　　　そう言うと彼女を静かに抱き寄せ唇を重ねる。この瞬間だけは、偉大な母も１人の女性へと 　　　戻っている。噴水の水飛沫の音だけが響くこの場で、無言の口づけを交わし続けた。 　　　　盆踊り会場へと戻ると、既に最終の流れへとなっている。最後までいる子供達にお菓子を 　　　配るのは今も変わらない。どさくさに紛れてリュリアも貰っているのには呆れるしかないわ。 　　　　昨日と同じようにエリシェの自宅へと戻る。今回は着替えなどを持っていったため、慌てる 　　　必要は全くない。ヴェアデュラの衣類も持参したので、こちらも同様である。 シューム「風呂上りのビールは最高だわぁ〜。」 　　　　ビール片手にバスタオルを巻いただけという出で立ちで現れるシューム。流石にその出で 　　　立ちに顔を背けてしまう。普段以上に色っぽすぎるのだ・・・。 エシェラ「母さんっ、何て格好してるのよっ！」 シューム「いいじゃん、減るもんじゃないし〜。」 リュリア「お兄さんいるのに〜？」 　　　リュリアの一言で我に帰っていくシューム。どうやら完全な息抜きにより、自宅と同じ感覚で 　　　現れたようだ。顔を真っ赤にして脱衣所へと戻っていく彼女。一応は女らしい仕草はして 　　　くれたわ・・・。 エシェラ「ごめんなさい・・・、家では何時もああなのよ・・・。」 ミスターＴ「ま・・まあそれだけ安らいでいるからいいんじゃないか。」 　　　　呆れるを通り越すというか、自然体のこの場に嬉しさも感じてしまう。形作らないで接する 　　　のは大切な事でもある。 リュリア「お兄さん、これあげるよ。」 ミスターＴ「おお、ありがとな。」 　　　　リュリアが手渡してきたのは、盆踊りで手に入れた景品のようだ。金属のプレートを子犬の 　　　形に象った飾り物で、ネックレスなどに似合うだろう。 ミスターＴ「そうか、こうすればいいか・・・。」 　　　以前本店レミセンにて銃弾を喰らった標識プレート。そこに子犬のプレートを取り付けた。 　　　穴が開いた標識のプレート・新たに作って貰った標識のプレート、そして子犬のプレートを 　　　首から下げる形になった。 リュリア「お〜、似合ってるじぇ。」 ミスターＴ「宝物が増えたね。」 リュリア「じゃあ〜、私にも宝物頂戴〜っ！」 　　　　そう言うと俺に抱き付いてきて唇を重ねてくる。幼いパワーには参りまくりだ。それと同時 　　　に四方八方からギラ付いた殺気が放たれる。全く・・・大目に見てくれよ・・・。 　　　　今日は今までになく熱帯夜という事で、面白い寝方を考え出した。リビングと他の部屋に 　　　あるソファーを全てバルコニーへと出す。それを重ねて簡易ベットを作り寝るというのだ。 　　　バルコニーだけの広さから十分なスペースだが、大丈夫なのかね・・・。 ミスターＴ「また何とも・・・。」 エリシェ「この高さなら見られる心配もありません。まああまり五月蝿いのは問題ですが。」 　　　　そう言いながら手摺りから下を見つめるエリシェ。俺も一緒になって見つめるが、その高さ 　　　から気が遠くなり倒れそうになる。それは観覧者の事を思い出したのも原因だった。 シンシア「だ・・大丈夫？！」 ミスターＴ「あ・・ああ・・・。」 　　　この高さは異常だ・・・、何で今まで気付かなかったのだろう・・・。俺の異変に気付いた 　　　周りの面々は、咄嗟に手を差し伸べて支えてくれた。 メルデュラ「マスターは高い所がダメなのですよ。」 ラフィナ「メルデュラさんとデートした時の観覧者の件ですね。」 　　　他の面々も同じように手摺りから下を眺める。その仕草は何ともないような雰囲気であった。 　　　俺は今になって足が震えだし、その場に座り込んでしまう。やはり高所恐怖症なのだろうな。 ウインド「ソファーでお休みになって下さい。」 ダークＨ「足を持ちますよ。」 　　　俺を抱きかかえるウインドとダークＨ。そのままバルコニーに出したソファーへと運ばれる。 　　　腰が抜けるという事を身を以て体験した。実に怖ろしい・・・。 ヴァルシェヴラーム「大丈夫？」 　　　　一際心配そうな表情を浮かべるヴァルシェヴラーム。全く弱みを出さない俺だけに、この 　　　異常さには本当に驚いているようだ。 ヴァルシェヴラーム「無理しすぎよ、まったく・・・。」 ミスターＴ「今度からは十分注意します・・・。」 　　　俺の額を撫でながら、安堵の笑みを浮かべる。俺の何気ない仕草で心配させてしまう。悪い事 　　　をしてしまったわ・・・。 ヴァルシェヴラーム「でも・・・嬉しいな、君に弱点が存在して。」 ラフィナ「そうですね。完全無欠と思っていましたが、私達と何ら変わらないですし。」 ミスターＴ「・・・皆が誘ってくれるのに、怖いから嫌だとは言えないだろう・・・。」 　　　　パーティーとか苦手なものは引くが、それ以外の事はあまり引きたくない。ちょっと矛盾は 　　　するが、まあ時と場合によるだろうか・・・。 メルデュラ「本当に優しいね・・・。」 エシェラ「そんな貴方だから惹かれるのよ。」 ミスターＴ「ハハッ、ありがとう・・・。」 　　　弱点からの原点回帰か、不思議なものだ・・・。まあ彼女達の心の支えに一役買えれば、俺の 　　　欠点も長所となり得るのだろうから・・・。 リデュアス「蚊取り線香の配置完了。」 　　　　時刻は午後１１時を回った。リュリアは既に寝息を立てて眠っている。落ち着いた俺も胸に 　　　ヴェアデュラを抱き、彼女を寝かし付けたばかりである。その彼女をヴァルシェヴラームに 　　　託し、バスケットへと移動させてくれた。 エシュリオス「この高さなら蚊も来ないでしょう。」 エフィーシュ「ですね。」 ヴァルシェヴラーム「油断はできないわよ。室内から来るかも知れないし。」 　　　小さな水溜りからも大量発生する。雨水が溜まった場所からも十分あり得るからな。それだけ 　　　しぶといと言う事だ。 シンシア「でもマスターになら血を吸われてもいいよ。」 エリシェ「その表現頂きです。」 ミスターＴ「俺は吸血鬼か・・・。」 　　　どこからそういったユーモアが出るのか不思議でならない。場を和ませるのは十分な事だが、 　　　俺はどこか遣る瀬無い気分だ・・・。 リデュアス「でも・・・よく寝れましたよ・・・。」 　　　　全員がバルコニーに出した簡易ベッドたるソファーに横になれている。別に窮屈ではなく、 　　　十分すぎるほどのスペースを確保できていた。 エシェラ「リデュアスさんとメルデュラさんは大きいですからね。」 メルデュラ「普通なら邪魔になるのですが・・・。」 ミスターＴ「俺にはお転婆娘にしか見えないが・・・。」 メルデュラ「なにぃ〜っ！」 　　　聞き捨てならないと言った表情で圧し掛かるメルデュラ。それに便乗したシュームが同じく 　　　圧し掛かってくる。美女２人に圧し掛かられ、辛いような嬉しいような気分になる・・・。 ミスターＴ「まったく・・・手加減ってものを知らないのか・・・。」 　　　　圧迫され続けて胸が痛い。まあ悪気があっての行動じゃないし、この場合は多めに見るのが 　　　正解だろう。 シューム「私達だけだったら襲い掛かるのだけどねぇ〜。」 ミスターＴ「大問題だよそれは・・・。」 　　　関わりがある６人はニヤニヤしながら見つめている。それにヴァルシェヴラーム達は苦笑いを 　　　浮かべるしかないようだ。 ウインド「でも・・・これが息抜きというものなのでしょうね。」 ダークＨ「無理矢理にでも付き合ったのは正解でした。」 ミスターＴ「そうだな。」 　　　　普段からお堅い警察官の５人は、僅かながらの一時で大きく変わった。息抜きという大切な 　　　事を知った彼女達は、間違いなく今まで以上に強くなる。まあそこを想像して連れ出した訳 　　　でもあるが・・・。 エリシェ「まだ息抜きは終わってませんよ。明日の盆踊りを参加した後は、三浦海岸まで行きます。 　　　　　滞在は１週間を見積もっていますので。」 ミスターＴ「それはまた・・・。」 　　　　３年前に三浦海岸へ赴いた時は１泊２日だった。今回は７泊８日のようだ。かなり大規模な 　　　息抜きとなりそうだな。 エリシェ「今回はキャンピングカーでの移動もありますが、サイドカー２台も一緒です。」 ミスターＴ「おいおい大丈夫かよ。」 エリシェ「私も普通車と大型二輪を持ってますので。」 エシェラ「私も〜。」 ウインド「白バイにも乗れるよう、大型二輪も持っています。もちろん普通車も。」 ダークＨ「同じく。」 　　　　どうやら俺が不在の３年間の間に、必須と言える免許は取ったようだ。キャンピングカー 　　　なら普通車でも運転できるとの事。また大型二輪は二輪車の限定解除免許だ。ハーレーでも 　　　何でも乗れる。 ミスターＴ「よく取れたな・・・。」 エリシェ「こちらからの配慮です。資金前貸しという事で、先に免許を取って頂きました。」 　　　　流石は三島ジェネカン社長令嬢、スケールが違いすぎる・・・。しかし前貸しという事に 　　　より先に経験を得るというのはプラス要素でもあろう。 シューム「シェヴさんなんか凄いわよぉ〜。殆ど全ての免許持ってるしぃ〜。」 ミスターＴ「マジで？！」 ヴァルシェヴラーム「運転できないのはスペースシャトルだけかな。それ以外の船舶・航空機、陸路 　　　　　　　　　　を走るものは全て乗れるわよ。」 　　　・・・流石としか言いようがないな。抜け目がないと言うか抜かりがないと言うか・・・。 　　　とにかく凄いという事だけは確かだ・・・。 シューム「まあ１つだけ操れないものがあるけどねぇ〜・・・。」 ミスターＴ「・・・俺の心とか言うんじゃないだろうな・・・。」 シューム「あったりぃ〜。」 　　　　予測が当たって嬉しいのか、俺に抱き付き甘えてくる。俺より年上なのに、何とも・・・。 　　　それに何か様子が変だ。何時ものシュームではない・・・。 エシェラ「母さん・・・、何か・・・子供に戻ったみたい。」 ヴァルシェヴラーム「いいんじゃない。普段から自分を殺してまで周りを引っ張ってるのだから。」 　　　流石はヴァルシェヴラーム。シュームの一時の甘えの意味を把握している。普段から気丈な 　　　人物ほど無理をしている。シュームもそうだがヴァルシェヴラームもそうだ。 シューム「ねぇ〜、子供作ろうよぉ〜。」 エシェラ「な・・な・何を言ってるのよっ！」 シューム「一番フリーなのは私だからさぁ、大丈夫よぉ〜。」 　　　　そう言えば風呂上りから缶ビールを５本も飲んでいたっけ。今頃になって酔いが回ってきた 　　　のだろう。語末が伸びているのはそれが原因だ。 シューム「楽しみだなぁ〜・・・、子供大勢と一緒に暮らすのはぁ〜・・・。」 　　　そう語ると静かになる。どうやら眠気がピークになり、酔いによる心の内の告白と共に眠って 　　　しまったようだ。俺の胸の中で眠る彼女、その頭を優しく撫でてあげた。 エシェラ「・・・ごめんなさい。」 　　　　徐に詫びを入れてくるエシェラ。シュームは酔うとどうなるか分からないといった、典型的 　　　な酔っ払いとも言える。 ミスターＴ「大丈夫さ、シュームの心は理解している・・・。」 　　　叶わない願望故に、酒の力を借りての告白のようだ。先の告白の次は、愛を芽吹かせるという 　　　本能の行動。人一倍愛しい人の死を恐れているシュームの事、しっかりとした証が欲しいのは 　　　よく分かる。 ヴァルシェヴラーム「私は構わないと思う。シュームさんの過去がどれだけ辛いのかよく分かるわ。 　　　　　　　　　　それに彼女の惚れ方は尋常じゃないぐらい一途よ。君との愛の結晶を残したい 　　　　　　　　　　というのも痛感できる。」 　　　　用意していた麦茶を飲みながら語る。孤児院で長年多くの子供を見続けてきた彼女の事、 　　　幸せに執着したいという一念は理解しているからだ。 ヴァルシェヴラーム「まあ君が一歩引いているのは、初めての相手はエシェラさんと決めているから 　　　　　　　　　　でしょうね。」 ミスターＴ「図星で・・・。」 ヴァルシェヴラーム「でも何度も交わったのでしょう。なら次のステップの先駆者は彼女にしても 　　　　　　　　　　いいと思うわ。」 　　　もはや大人の意見のやり取りだ。男性からすれば事の次第の責任を持つだけになるが、女性の 　　　場合は子供を産むという最大の試練が待ち受けている。 　　　野郎の俺には到底理解できないものだが、ヴェアデュラの子育てを考えると大きな試練は俺の 　　　方にもあるのだから。 ミスターＴ「俺には罪悪感しか残りません。」 ヴァルシェヴラーム「その罪悪感も彼女を喜ばせるという意味では使命感に代わるわ。貴方も彼女達 　　　　　　　　　　を心から好いているのだから、そろそろ覚悟を決めた方がいいわよ。」 ミスターＴ「・・・家族か・・・。」 　　　　実に重い言葉だ。その思いは責任感というもの。言い換えれば思い人以外にも子供が存在 　　　するという事になる。端から見ればタブーも何も常識を超えた非常識な行為だ。 　　　　胸で眠るシュームの頭を優しく撫でながら、未来を予想してみた。エシェラとは間違いなく 　　　結婚ないし一緒になるだろう。そうすると何れは子供もできるはずだ。 　　　先に育て始めたヴェアデュラもいる事から、彼女の弟か妹が一緒になるだろう。 ミスターＴ「やはり罪悪感しか浮かびません。」 ヴァルシェヴラーム「肝っ玉据わってないわねぇ・・・、まあ君らしいけどさ。」 ミスターＴ「世間体やモラルを気にし過ぎてるのですかね？」 ヴァルシェヴラーム「君が本当に恋路に走っていない証拠かな。もし本当に盲目になるぐらい恋路に 　　　　　　　　　　突っ走るなら、後先考えずに動くでしょうから。」 ミスターＴ「むぅ・・・。」 　　　　やはり俺に問題があるのだろうか。いや、それ以前の問題もあるだろうが・・・。それでも 　　　相手を心から愛しているのなら、真っ先に行動に出るだろうから。 ヴァルシェヴラーム「まあ追い追い考えなさい、今は寝ましょう・・・。」 　　　　何時の間にか俺とヴァルシェヴラームしか起きていない。他はみんな寝てしまっている。 　　　その彼女が全員の身体にタオルケットを掛けてあげている。これだけの熱帯夜でも、油断を 　　　すれば風邪を引いてしまう。細心の注意を払わねば・・・。 　　　　しかし・・・もう１つの選ばねばならぬ時、それが押し迫っているのだろう・・・。 　　　　むう・・・眠れん・・・。隣接に複数の女性陣がいるとあって、緊張して眠れない・・・。 　　　今も胸の中にはシュームが眠っている。俺に抱き付く形で眠っているため、寝返りすらも打て 　　　ない状態だ。 　　　　その彼女をソッと離し徐に立ち上がる。そして手摺りに向かい、下を覗いてみた。一瞬だけ 　　　立ち眩みは起きるが、先程のような酷いものは起きない。何なんだか・・・。 　　　　懐から煙草を取り出し一服する。そして改めて考えさせられる。 　　　　俺にとっての幸せは、彼女達を幸せにする事なのだろう。だがその幸せの方法も、間違えば 　　　不幸のどん底に叩き落しかねない。 　　　　しかし彼女達がそれを望んでいたら、俺は応じるべきなのだろうか・・・。例えタブーだと 　　　分かっていても、応じるべきなのだろうか・・・。 　　　　それでも決断の時は刻一刻と迫りつつある。世間体を気にせずに突き進む事が、俺達が一番 　　　幸せになる手段なのだろうな・・・。 　　　　いい加減腹を括るしかなさそうだ・・・。 　　　　一服を終えて寝床に戻る。それを待っていたかのように、再びシュームが抱きついてくる。 　　　まるで俺が一服したいのを無意識に感じ取り、一時だけ離れるのを許したかのようだ。 ミスターＴ「幸せ、か・・・。」 　　　　俺を抱き枕のように抱えて眠るシューム。その頭を優しく撫でてあげた。何だか俺は彼女や 　　　周りの女性達の父親みたいだな・・・。 　　　　一服のお陰か、先を見据えた考えをしたためか。急激に眠気が襲ってくる。俺も夢の中へと 　　　旅立っていった。 　　　　まだまだ課題は山積みだな・・・。これからが本当の戦いだろう・・・。 　　　　第２部・第８話へと続く。

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