アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第15話 執念と信念2〜
    その後は釈放という形になった。というかベロガヅィーブが一方的に決め付けた行動で、
   実際には何の関係もないのだが。

    この一件で警察庁内部でも俺の事が知れ渡る。ゼラエルよりも厄介なベロガヅィーブが一瞬
   にして大人しくなったという事。これが特に印象深かったのだろう。

    今日から内部では俺の事はこう囁かれる。敵に回したら完膚無きまでに心を折られる存在、
   最凶の恐怖の暴君と・・・。何だかなぁ・・・。


    俺は外に出て一服し、深く溜め息を付く。よくぞまあ耐えられたものだと感心している。
   あれだけ貶されれば激怒し、ラフィナの時のようになっただろうに。少しは成長した証拠か。



エシェラ「あ、おかえりなさい。」
    本店レミセンに帰ると、エシェラが出迎えてくれた。他にはラフィナ・エリシェ・シンシア
   がいる。時刻は午前1時だというのに、態々待っていてくれたのだろう。
ミスターT「明日学校だろうに。」
エシェラ「大丈夫ですよ、1日ぐらい何とかなります。」
   う〜む、迷惑を掛けてしまったわ。その心中の不安がどれほどだったのか、俺には到底想像が
   付かない。

ラフィナ「心配していたんですよ。全く見ない人物に連れて行かれたのを見て、急いでトーマスC
     さんに連絡をしました。」
エリシェ「そうしたらここに覆面暴漢が乱入してきたのです。」
    う〜ん、ここに直接押し入ってきたのか。・・・となると、女子学生に倒されたというのは
   彼女達の誰かか。何ともまぁ・・・。
ミスターT「怪我はしなかったか?」
シンシア「ええ、大丈夫です。無傷ですよ。それにラフィナさんが返り討ちにしていましたから。」
   迎撃者はラフィナだったか。確かに彼女はカンフーと合気道を繰り出せる実力者。これが功を
   奏した形になった訳か。というか覆面暴漢も哀れだな・・・。

ラフィナ「後から駆け付けてくれたエリシェさんなんか、更に酷かったでしたよ。貴方の名を語って
     悪事をした事にエラい激怒して、殴るわ蹴るわブン投げるわで大変でした。まるで鬼神
     でも乗り移ったかのようにボコボコに。」
エリシェ「ラフィナ様、それは言わない約束でしょう。」
    怖い・・・怖すぎる・・・。4人の中で一番大人しいエリシェが、実は手が付けられない
   ほどの爆弾娘だったという事だ。フェンシングと剣道という格闘技には合わない技術だが、
   それをも上手く利用できたのだろう。よくぞまあ・・・何とも・・・。


エシェラ「それより、その頬のアザ・・・。」
ミスターT「ああ、相手に殴られた。まあ数日後には治るだろう。」
    俺の頬のアザに手を触れるエシェラ。表情が何時になく悲しそうで、そして見る見るうちに
   怒りが顕になっていく。このアザを付けた相手への激しい怒りだろう。
ミスターT「その首謀者はゼラエルと同じ野郎だった。あわよくば警察機構トップに踊り出ようと
      念入りに画策していたらしい。」
シンシア「でも所詮愚者の戯言です。馬鹿馬鹿しいにも程がありますよ。」
ミスターT「いや・・・それはいいんだ。一番腹が立ったのは、みんなの行動を貶してきやがった。
      一同の必死に進む生き様・躯屡聖堕の献身的行動・エリシェの財閥の事も。それぞれが
      一生懸命突き進んでいるというのに、あの野郎は貶したんだ・・・。」
   今になって怒りが噴き出して来た・・・。一同を貶された事に対してそれらが折り重なり、
   凄まじいまでの負の感情へと膨れ上がっていく。
   格闘術に精通している4人は、その負の感情を感じ取っている。顔が恐怖に慄く表情となって
   いた。

エシェラ「大丈夫です。誰が何と言おうが、私達の信念と執念は曲げません。」
ラフィナ「貴方が私を助けてくれたように、今度は私が助けます。」
エリシェ「ミスターT様は前だけを向いて下さい。その貴方を背後から支えますから。」
シンシア「大丈夫だから安心して。」
    興奮する俺を宥める4人。彼女達の癒しの言葉が俺の負の感情を押し留める。いや、決して
   馬鹿みたいに怒ったのではない。ただどうしても自分が抑え切れなかっただけだ。

    ・・・俺もまだまだガキだな・・・。



    その後会話もそこそこに、エシェラ・ラフィナ・エリシェの3人は家に帰した。明日は普段
   の日なので学業があるからだ。

    夜遅いとあり、俺とシンシアも一緒に付いていく。まあ既に覆面暴漢は捕縛され、危険は
   去ったと言えるが。それでも油断はできない。ここは慎重に動いた方がいいだろう。


    シンシアだけは社会人であり学業はない。それに本店レミセンの片付けという仕事がまだ
   残っている。

    3人を自宅へ送った後、一緒に本店レミセンへと戻った。ちなみに店は既に店仕舞いにして
   いる。



    2人で分担し、厨房やテーブルなどの掃除を終える。何時もは時間的に1人での作業となる
   のだが、今日は一緒の後片付けであった。

シンシア「少しゆっくりしますか?」
ミスターT「ああ。」
    カウンターに座り、徐に一服する。最近シンシアも煙草を吸うようになり、一緒になって
   一服していた。


    沈黙が室内に漂う。先程の一件が嘘のような雰囲気だ。それにそれなりに神経を使っていた
   ようで、徐々に脱力感に襲われてもいた。

    その中で脳裏に過ぎるベロガヅィーブの言葉、それに心が重苦しくなる。改めて考えると、
   奴の言葉も一理あるかも知れない・・・。


ミスターT「・・・なあ・・シンシア、俺はみんなを利用しているのかね・・・。」
    自然と口が開き、シンシアに心の内を語った。奴から言われた事は、今の俺にも十分当て
   はまる・・・。
シンシア「何を言うのですか、そんな事は絶対に有り得ません。皆さんは貴方を心の底から慕って
     いらっしゃいます。それに貴方の事は貴方自身が一番理解しているじゃないですか。」
ミスターT「でも・・その場を望んでしまって、惰性に流されている事もある。その場合は逆説的に
      利用していると言えるんじゃないか。」
   これが今の俺の苦悩である。シンシアから気にするなと言われたが、端から見れば利用して
   いるようにも思える。今まで考えもしなかったが、改めて振り返ると十分頷けてしまう・・・。

シンシア「常々日々に強き給え、でしたか。過去の賢人の名言で、アマギHさんに語り彼も仰って
     いました。貴方が心から語った魂心(こんしん)の語句。自分自身の信じる道を突き進む
     だけですよ。誰が何と言おうが、貴方の生き様は貴方自身でしか築き上げられないのです
     から。」
ミスターT「・・・そうだよな。俺自身がどうあるべきか、それでいいんだよな。」
    ベロガヅィーブに言われた、心の内の不安な部分。それに苛まれている俺に、シンシアは
   原点回帰をさせてくれた。過去に俺が彼女達に語っていた激励。それを返してくれたのだ。

    原点に戻れば恐れるものなど何もない。自分自身の信じる道を進めばいいだけなのだから。


ミスターT「ごめんな、不安にさせて。」
シンシア「ううん、いいのです。誰だって止まって悩む時はあります。あの時もそうだった。私が
     進む事に悩んでいた時、貴方が優しく背中を押してくれた。だから今があるのですから。
     その恩返しをできた事に感謝しています。」
    強いな、本当に強い。シンシアもそうだが、真女性には本当に敵わない。見事としか言い
   ようがないわ・・・。

    野郎は苦難に直面した瞬間、シドロモドロになりやすい。対する女性はそれらを跳ね除ける
   力を持っている。野郎など女性の足元にも及ばない、それを身を以て思い知った瞬間だった。

    それに・・・心の底から感謝したい・・・。ありがとう・・・、シンシア・・・。



    雑談を終えた後、ようやく本店レミセンを閉めた。時刻は午前2時を回っている。ちょっと
   遅すぎたな。

    再度戸締りを確認し、シンシアと共にエリシェのマンションへと向かった。彼女を自宅まで
   送って、俺も早く戻ろう。


シンシア「あの・・・この後一緒にどうですか?」
ミスターT「ああ、コーヒーぐらいなら付き合うよ。」
    マンション前に到着した時、徐に語り出すシンシア。確かに今は何かを飲まなければ落ち
   着けない。本当なら酒を飲みたいのだが、俺自身酒が苦手なため無理である。
シンシア「いえ・・その・・・添い寝してあげます・・・。」
   突然の告白に驚いた。俺を慰めるという意味合いだろう。最初は一杯やろうという意味かと
   思ったが、後の言葉で急に焦った。シンシアらしい言い回しだが、どうもなぁ・・・。

ミスターT「そ・・そういうのは・・・一番大切な時に取っとけって・・・。」
シンシア「その大切な時は紛れもなく今です。だからお話したのですよ。」
    今まで見た事がないほどの真顔で俺を見つめてくる。真剣な表情は俺の事を思ってくれて
   語ったのだろう。これには応じねば失礼である。
ミスターT「な・・ならうちに来な。お前さんが誘ったとあれば、3人が何を言うか分からない。
      俺から誘ったと言えば、多少なりとも流せるだろうから。」
   あ〜あ、言っちまった・・・。というかシンシアはこれを狙っていたのか・・・。俄に彼女の
   顔がニヤけている。見事に術中にハマったと言える・・・。

    今更断る事もできず、シンシアを連れて自宅へと戻る。彼女の事だ、絶対期待しているな。
   どう言い逃れしようか・・・。



    結局言い逃れできなかった。帰宅すると軽く飲み物を飲み合う。先程の俺の言葉は実行して
   くれているようだ。

    本店レミセンで飲み合うのとは別の感覚である。こういった飲み会もいいものだな・・・。


ミスターT「予備の布団を隣の部屋に引いた。お前さんはそっちで寝てくれ。」
シンシア「ダメです、添い寝すると言ったでしょう?」
    その後2部屋あるうちの1つに予備の布団を引き、そこにシンシアを寝かそうと思った。
   しかし何時も寝る側の部屋に強引に割り込んでくる。家に誘ったり彼女を擁護する発言をしな
   ければよかったな・・・。


    俺はパジャマに着替え、そそくさげに布団へと潜る。彼女には予備のパジャマを渡した。
   男物だが大は小を兼ねるし十分着れるものだ。

    ダブダブのパジャマを着たシンシアの出で立ち、まるでリュリアがそこにいるかのようで
   ある。これはこれで可愛いものだ・・・。


    その彼女も追い掛けるようにして布団に入ってきた。ホテルで一泊した時と同じく、彼女に
   背中を向けるしかない。

シンシア「こっち向いて下さいよ〜。」
ミスターT「や・・やめてくれ・・・。」
    明らかに挑発している。しかも俺の背中に手を置き、完全に催促しているのだ。嬉しい事
   には変わりないが、むぅ〜・・・何とも・・・。

シンシア「・・・でも嬉しい。あの時断られるかと思ってた。それに私の事を気遣ってくれた。」
ミスターT「ま・・まあな・・・。」
シンシア「嘘でも嬉しかった。私の事を意識してくれてるのが分かったから。」
    意識する、か。となると俺自身はどうなのだろう。周りから色々と面倒を見てくれている。
   その恩返しに誠意ある対応を続けてきた。彼女の場合もそうじゃないのかね・・・。


    俺は彼女の方へ振り向く。それに驚いたシンシアを胸に寄せた。彼女が思い切って行動を
   してくれている。それに応えねば俺自身じゃない。
ミスターT「今だけでいい、こうして君を抱いていたい・・・。」
シンシア「は・・はい・・・、貴方のお好きなようにして下さい・・・。」
   そう語ると身を委ねてくる。正直これ以上は流石に無理だが、彼女を優しく抱きしめる事は
   したい。シンシアの頭を優しく撫でて、そのまま静かに目を閉じた。


    落ち着く・・・、本当に落ち着く・・・。心が安らぐというのはこの事である。そうか、
   シンシアはこれも狙っていたのだろう。

    あのホテルの一晩も、不安に震える彼女に同じ事をしてあげた。その彼女が同じ行動を以て
   返してくれている。

    それにシンシアを胸に抱く心地よさに、先程の嫌な事が失せていった。見事としか言い様が
   ない。本当に感謝し切れないな・・・。



    俺自身の信念と執念を再確認できた1日だった。そう考えるとベロガヅィーブもマイナス
   とは言い切れない。大きな切っ掛けを作ってくれた事には変わりないから。


    結局の所、俺自身は周りに助けて貰ってばっかだな・・・。

    でも、心から感謝している。本当にありがとう・・・。

    第1部・第16話へと続く。

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