アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第3部・第13話 ナツミEとミツキE1〜
    人としての一生は本当に短い。その中で如何して生き抜くかが勝負なのだろう。

    目の前の墓前に眠る双子の姉妹もまた、俺達に生き続けろと語り掛けるために生まれてきた
   のだろうな。そして今世で巡ってきたのだと・・・。


ミツキ「これでいいですか?」
ミスターT「ありがとう。」
    ミツキがチューリップ2本を墓前に供えてくれた。時期外れの植物だが、ビニールハウス
   栽培で育てたのを遠方より入手してくれている。
ナツミA「私の時のように軽症だったら・・・。」
ミスターT「大丈夫さ、お前達が理を受け継いでくれている。それが何よりの幸福だよ。」
   3人して墓前に手を併せて冥福を祈った。双子がまた来世に巡ってくるように・・・。そして
   その時は如何なる手段を用いようとも助けてみせると・・・。

    そもそも今の経緯がどういったものなのかを語らねばならない。あの宝くじ事変の後の些細
   な四月嘘(エイプリルフール)がこのような流れになるとは・・・。





    丁度4月1日。そこで家族内で何やら企画していたようで、この日起床した時からそれは
   起こった。

ミスターT「おはようさん。」
    起床してから本店レミセンの店舗に向かうと、既にシュームとメルデュラが切り盛りして
   いる。しかし俺が話し掛けても気にも留めずに作業に没頭している。

ミスターT「・・・何かあったか?」
    こちらが問い掛けをしても全く応対してこない。こうなると逆に調子が悪いのかと思って
   しまう。しかし表情からしても病気の類ではなく、この無視が人為的なものだと直感した。

    その後他の妻達や娘達が本店レミセンに現れるが、その都度無視され続ける。どういった
   理由か理解できず、こうなると段々と心に不信を抱いてしまうわな・・・。
ミスターT「・・・ずっとこの調子か・・・、俺が何をしたってんだ・・・。」
   俺自身そう我慢強い方ではない。昨日あれだけ活発に話し掛けられていたのに、こうも無視を
   徹底されると腹が立ってくるしかない。
ミスターT「・・・まあいいわ、暫く出てくるわ。」
   自分の居場所すらないと思えたので、ここはその場から退散した。色々な理由を考えているの
   だが、該当すれば今まで甘やかし過ぎた事なのだろう。しかし彼女達には責任はない。あると
   すれば俺自身の優柔不断な一念だ。この機会に色々と考えた方がよさそうだな・・・。


    行く当てもないため、とりあえずエリシェのマンションにあるサイドカーを持ち出した。
   幸いにもキーはあるので乗れる。逆を言えば今が自由に動けるチャンスなのかも知れない。

    しかし目的がない状態だと、どう動いたらいいのか分からないわな。そう言えば行く当てが
   ない場合は何度かヴァルシェヴラームの所へ赴いていたか。久し振りなので顔を出してみる
   かな。



ヴァルシェヴラーム「へぇ・・・そんな事がねぇ・・・。」
ミスターT「俺に何か責任ありますかね・・・。」
    今は例の宝くじによる資金で孤児院を改装している。耐震補強の部分もあるが、ここも結構
   建てられてから時間が経っているからな。ちなみに今日は珍しくナツミAとミツキがおり、
   子供達の遊び相手になっている。
ヴァルシェヴラーム「まあねぇ、あるとすれば一杯あるでしょうに。今の現状からもしかり、ね。
          でも私が推測するに、今日の日付じゃないかしら。」
ミスターT「4月1日ですか・・・。・・・そうか、そう言う事か・・・。」
   やっと状況を理解した。今日が4月1日なため、どうやら無視という嘘を付いているようだ。
   しかし無視が嘘とどう結び付くのか分からないが・・・。
ヴァルシェヴラーム「君も罪な男よねぇ。周りから徹底して無視という嘘を付かれるほど愛されて
          いるんだから。」
ミスターT「そういうもんですか・・・。俺は何かしたのかと引っ切り無しに考えてたのに・・・。
      あれほど虚しい瞬間はありませんよ。」
ヴァルシェヴラーム「まあ明日になってみれば分かるわよ。大目に見てあげなさいな。」
   至って平然と語るヴァルシェヴラームには呆れるが、それだけ見据えた目線なのだろう。現に
   もし彼女が同じ立場だったら・・・もっと凄い事をしでかすに違いない・・・。


副院長「院長、お2人が戻られました。」
ヴァルシェヴラーム「分かりました。」
    副院長さんが現れ、ヴァルシェヴラームに語り掛ける。誰かが帰ってきたようだ。しかし
   彼女の表情が暗くなった事に、脳裏に不安が過ぎってならない。
ミスターT「誰か帰ってきたのか?」
ヴァルシェヴラーム「ええ・・・。」
   足取り重く院長室を出る彼女。その彼女の後を追ったが、部屋を出た直後にそれは分かった。
   部屋の外には今にも倒れそうな表情の少女が2人いる。顔立ちからして双子だと分かるが、
   この生気のなさは尋常じゃない。ナツミAやミツキとは雲泥の差と言える。
ヴァルシェヴラーム「大丈夫だった?」
少女1「うん・・・。」
少女2「迷惑掛けてごめんなさい・・・。」
   そう言うと副院長さんに連れられてその場を去っていく2人。この生気のなさはナツミAが
   病床にあった時以上である。一体何があったんだろうか・・・。

ミスターT「シェヴ、今の2人は?」
ヴァルシェヴラーム「丁度1ヶ月前に引き取った孤児なのよ。でも生まれ付きなのか病弱な身体で、
          あの年齢で2人とも白血病を患っているのよ。」
    愕然とした。メアティナとメアティヌよりも幼い2人が白血病である事に。しかもあの表情
   からしたら病状はかなり進行している。
ミスターT「・・・名前は何で?」
ヴァルシェヴラーム「ナツミEちゃんとミツキEちゃんの双子の姉妹よ。」
   ヴァルシェヴラームから名前を聞いた直後、凄まじい程に胸が締め付けられる。ナツミEに
   ミツキE、今を生きる女傑のナツミAとミツキと同じ名前だった。それに今初めて会ったとは
   言えないほど親近感を感じる。まるで遥か昔に巡り会っていたかのように。

ヴァルシェヴラーム「そうだ、お願い聞いてくれるかな。」
ミスターT「2人の面倒ですよね、俺にできる事があれば何でも。」
    無意識だった。ヴァルシェヴラームの願い事を直感し、そして間隔空けずに承諾したのだ。
   これには自分自身が驚いている。まるで運命に導かれるかのように巡った縁とも言える。
ヴァルシェヴラーム「ありがとう。」
ミスターT「・・・不思議です、まるでこう・・巡るかのように過去があるような・・・。」
ヴァルシェヴラーム「私も感じたわ。君が訪れるかも知れないと思っていたら、直後に訪問して来た
          のには驚いたし。」
ミスターT「ナツミEにミツキEか・・・。」
   ナツミAやミツキ、そして娘達の健康な姿に胸が締め付けられる。そして俺達の生き様を再度
   確認させられた。俺達の進むべき道は正しいのかと・・・。


    俺達の最終目標は世界から孤児を無くすという大願と誓願を立てて進んでいる。しかし現状
   を見れば支えられない命もあるのだ。それは宿命や宿業なのだろうが、もっと純粋な一念と
   しては見殺しに他ならないだろう。

    確かに自分達だけの手では支えられる限度はある。しかし・・・あの双子を見ると・・・。
   俺は今まで何をして生きてきたのか、改めて思い知らされた・・・。



ミスターT「こんにちは、ミスターTと言います。」
ナツミE「江戸島夏美です。」
ミツキE「江戸島満月です。」
    ナツミEとミツキEの部屋を訪れた。入るとナツミAが過ごしていた本社と同じ環境が顕に
   なった。生命維持装置と見える機械が多く置かれており、それが双子の症状を痛烈に物語って
   いる。
ミスターT「シェヴに話し相手になって欲しいと言われてね。よかったら一緒にいていいかな?」
ナツミE「うん、ありがと。」
ミツキE「よろしくです。」
   精一杯の笑顔で見つめてくるが、やはり表情に生気が全くない。そして長年の直感からして、
   2人の命があと僅かだという事も理解できた。何だってこんな幼子がこんな目に・・・。


    その後はできる限りの事をしてあげた。埋め合わせという部分になってしまうが、自分に
   できる事を徹底して貫き通した。

    自分でも不思議なぐらいである。数十分前に初めて会った2人なのに、遥か昔から出会って
   いたかのような感覚だ。

    今の医学を以てしても白血病などの完全完治は厳しい。生命力の次元になってしまうが、
   最終的には2人の内在する命そのものが左右するだろう。

    俺にできる事は支え抜く事。今何ができるか、そんな考えばかりが脳裏を過ぎり続ける。
   これは俺が生きてきた中での集大成と言えるだろう。



ナツミA「表情が幾分か落ち着いていますね。」
ミツキ「マスターの生き様が2人を突き動かしていますよ。」
    表に出て草花を見て回るナツミEとミツキE。その2人を近くで見守り続けた。傍らには
   ナツミAとミツキがいる。同じ名前なのに境遇が全く異なっている部分に苦しさを感じずには
   いられない。
ミスターT「ナツミAが病床の頃を思い出すわ・・・。」
ナツミA「そうですね。それでも私より2人の方が現状は厳しいです。」
ミツキ「医師が言うには持って1ヶ月だそうです・・・。」
   ミツキの発言に目の前が真っ白になった・・・。余名は1ヶ月・・・、何でこんな・・・。
   まだ10歳にも至っていない少女なのに・・・。

ミスターT「・・・2人は孤児だよな、一体どういった経緯があったんだ?」
ナツミA「シェヴさんが仰っていた通り、1ヶ月前に保護したそうです。経緯はご両親が交通事故で
     お亡くなりになり、親族の方もいらっしゃらないとの事で。」
ミツキ「その頃から体調が優れず倒れたりを繰り返していたそうで、精密検査で白血病と分かった
    みたいなのです。あまりにも酷すぎますよ・・・。」
    ミツキが恒例の語末に「わぅ」を付けないで語っている所を見ると、それだけ今の現状が
   大き過ぎて言えないのだろう。現に俺の方も相手が少女であっても口説き文句すら出て来な
   かった。

ミスターT「・・・俺らにできる事は、励まし続けるしかないのか・・・。」
ミツキ「笑わせて免疫力を上げるという事もいいでしょう。ですが私達が笑わせようとしても、中々
    笑ってくれません。」
ミスターT「ムードメーカーでは天下無双のミツキすらダメなのか。」
ナツミA「・・・正直な所、笑う気力がないようにも。」
    ・・・己の健康な身体を恨む。何故あの2人がこの様な姿にならなければいけないんだ。
   2人よりも俺の方が症状に相応しかろうに・・・。代われるなら代わってあげたい・・・。
ミツキ「ありがとう。今マスターが思ってくれた、代わりたいという一念。それがどれだけ2人の
    励みになるか分かりません。」
ナツミA「そうですよね。私達も代わってあげたいと何度思った事か・・・。」
   俺の一念を読み取ったミツキとナツミA。どうやらそれだけ力強い一念が身体から発せられた
   のだろう。時として思いは何よりも勝る大切な武器となるからな。


ミスターT「チューリップが好きなのか?」
    ナツミEとミツキEが座り込み、花壇に目を遣っている。目の前の花壇には色取り取りの
   チューリップが咲き乱れていた。
ナツミE「うん。」
ミツキE「チューリップ畑、見てみたいなぁ。」
ミスターT「確か・・・葛西臨海公園という場所で、今度チューリップフェアをやるみたいだが。
      一緒に行ってみるかい?」
ミツキE「うわぁ〜、行ってみたいっ!」
ナツミE「みんなでピクニックだね!」
   嬉しそうにはしゃぐナツミEとミツキE。しかし表情は血の気がなく、それは病気の進行度を
   意味していた。一緒に行ければいいが・・・。

ヴァルシェヴラーム「そろそろ部屋に戻りなさい。あまり風に当たり続けるとよくないわよ。」
ナツミE「は〜い。」
ミツキE「小父ちゃんまたね〜。」
    そこにヴァルシェヴラームが迎えに来る。身体が完全ではないため、長時間表にいるのは
   危険なのだろう。俺に目配せをしつつ、2人の小さな肩に手を沿えながら自室の方へと戻って
   いった。


ミスターT「・・・これを無力と言わずして何と言うんだ・・・。」
ミツキ「大丈夫です。マスターの一念は2人に届いています。未来への目標を持たせれば、生きる
    活力になりますから。」
ナツミA「勝負は一瞬、思い立ったら吉日。ミツキを通して私に教えて頂いた名言じゃないですか。
     あの2人にも同じように分け隔てない愛情を注いで下さっている。感謝に堪えません。」
    院内に入っていった3人を見つめ、俺は己の無力さを噛み締めた。これほど無力だと思った
   事はない。その俺をナツミAとミツキが慰めてくれた。確かにその瞬間の戦いは重要だろう。
   時間が押し迫っているナツミEとミツキEには、その瞬間を大切にしないといけない。
ミスターT「リュアとリュオ・・・いや、全員呼ぶか。俺達総出で2人を支えたい。俺の風来坊の
      理を彼女達に伝えられれば・・・。」
ナツミA「必ず伝わりますよ。天下の覆面の風来坊の生き様ですよ、これ以外に何が伝わるというの
     ですか。」
ミツキ「何も恐れる必要などありません。あの2人が一番それを理解していますよ。だからその瞬間
    を爆発的に生き抜いている。私からも皆さんにお願いしたいです。」
ミスターT「分かった。全身全霊を以て応じるよ。」
   切っ掛けが四月嘘から発展したものだが、今はそれどころではない。ナツミEとミツキEには
   時間がないのだ。今できる事を最大限尽くし抜く。それが一番重要である。

    ナツミAとミツキに落ち着かせて貰い、ゆっくり一服しながら今後の流れを思い巡った。



ミツキ「な〜にやってんだわぅ、みんなに無視されてマスター凄く悄気てたわぅよっ!」
ナツミA「以前言いましたよね。些細な事から相手が大きく傷つくのだと。昨日の流れからしては
     黙認しますが、節度を知りなさいっ!」
    怖すぎる・・・。身内全員に向かってミツキとナツミAが激怒していた。それを顔を青褪め
   ながら正座して聞き入る家族達。まさかここまで怒るとは俺も予想しなかった・・・。
   今は本店レミセンの4階にいる。1階の喫茶店は別のマスターが来てくれて応対していた。
ミスターT「ま・・まあ、そのぐらいで勘弁してあげてくれ。」
ミツキ「甘い・・甘いわぅ、それだから舐められるんだわぅ!」
ナツミA「マスターは優しすぎます。奥様や娘様を心から思われるのなら、時として激怒して心の内
     を伝える事こそ夫の役目ですよ。皆さんが昨日の切っ掛けを作ってくれたのは事実では
     ありますが、今後はもっと夫として父としての自覚を持って下さい。」
ミスターT「わ・・分かった・・・。でも俺の流れでいくから、そこは勘弁してくれよ。」
ミツキ「分かればいいわぅ。」
   灼熱のような炎波のミツキに、極寒のような氷嵐のナツミA。両極端の属性を持つ2人が爆発
   的に激怒した事で、身内は完全に悄気て落ち込んでいる。しかし2人が何を言いたかったと
   いう部分は把握してくれているようだ。

シューム「マスター、ごめんなさい・・・。」
ミスターT「大丈夫、気にするな。それよりも今はお前達全員の力が欲しい。時間が幾らあっても
      足りないくらいだ。」
シューム「分かったわ。私達にできる事なら何でも言って下さい。」
ミツキ「なら先ずは、笑顔わぅね。」
    顔を強張らせながらも自分達の決意を示す身内達。先程語った現状と俺の心情を察知して
   くれている。彼女達がいればあの2人を心から支える事は可能だろう。
   すると早速動くはミツキだ。述べる事だけ述べた後は普通の姿に戻る。ムードメーカーを地で
   行く女傑なだけに、身内の表情が直ぐに笑顔になった。これには流石としか言い様がない。
ナツミA「そうそう、笑顔が一番です。」
ミスターT「ギャップがありすぎるなぁ・・・。」
ミツキ「仕方がないわぅよ、述べる事はしっかり述べておかないとダメわぅ。それにみんなは心から
    マスターを愛している、だから悪ふざけしただけわぅよ。わたはマスターの心の内を名代
    として言っただけわぅ。」
シューム「ミツキちゃんとナツミAちゃんには敵わないわぁ・・・。」
   才女というのはこの事を示すのだろう。ナツミAとミツキの生き様に感服しているシューム。
   また他の身内も全員そう思っているようだ。

メルデュラ「覆面の風来坊の理はナツミAさんとミツキさんに、ですからね。」
ミスターT「まあそれもあるがね。おそらくはこの時のために・・・。」
    メルデュラの発言に応対しようとしたが、ナツミEとミツキEを思うと無意識に涙が溢れて
   きだす。それに周りは驚いていた。
ミスターT「すまない・・・。」
リュア「大丈夫です、その涙は必ず伝わりますから。」
リュオ「シュームお祖母ちゃんが言ってたよ、思いは時として時間と空間を超越すると。父ちゃんの
    その思いは必ず伝わってるから。」
メアティナ「親父、俺達は俺達の生き様を貫くだけだよ。」
メアティヌ「それが今を生きる俺達にできる最大限の生き様だから。」
ミスターT「そうだな・・・。」
   リュアとリュオの言葉もそうだが、メアティナとメアティヌの男言葉により一層励まされた。
   やはり同性に近い属性の人物からの激励ほど効くものはないわ。流石だわ・・・。



エシェラ「外出はできるのですか?」
ミスターT「あの状況だとできないと思う。」
    早速作戦会議をしだす。時間が限られているため、自分達にできる事から始めようとした。
   またそれぞれ役職があるため、分担しての行動となる。
シンシア「移動できたとしても、大型の車がいるわね。」
エリム「そこは私達にお任せを。」
エリア「何時でもお望みの車両をご用意しますよ。」
エリシェ「この時のための三島ジェネカンの力です。思う存分使って下さい。」
   ようやく力の本当の使い道ができると胸を張るエリム・エリア・エリシェの親子。彼女達が
   運営する三島ジェネラルカンパニーの真髄とは、困っている人を最大限支え抜く事にある。
   それが今なのだから。

ミスターT「ありがとう、エリム・エリア・エリシェ。恩に着るよ。」
エリシェ「何を仰いますか、全ては貴方がいたから今に至るのですよ。そして貴方は先程私達の力を
     欲しいと仰っていた。だからこそ全身全霊を以て応じているのです。」
ディルヴェズLK「兄が困っている時も、何振り構わず手を差し伸べたじゃないですか。あの時が
         あったから今がある。そして貴方が困っているなら、お互い手を取り合って進む
         のが夫婦ではありませんか。」
ミスターT「・・・俺は無力ではなかったな・・・。これだけの頼もしい身内がいるんだ、これを
      無力と言ってはお前達に失礼だわ・・・。」
    涙が止まらない。妻達や娘達の生き様は、俺がお節介ながらも貫いてきた生き様そのものが
   大きな影響を受けている。今の現状もそれが如実に現れていると言えた。
メアティナ「思い立ったら吉日だ、明日から学校以外は全部孤児院で過ごすぜ。」
メアティヌ「お2人を守れるのは俺達しかいないからな。」
ミスターT「頼もしいには頼もしいが・・・。」
   一際やる気を出しているメアティナとメアティヌ。その言動は正しく男そのもである。だが
   そこに込められた一念は俺の名代として突き動いているとも言えるだろう。これには素直に
   感謝したい。


シューム「メルデュラちゃん、マスターと一緒に孤児院で動いてちょうだいな。本店や他の店舗は
     全て私が受け持つわ。」
メルデュラ「え・・で・ですが・・・。」
シューム「妹達はみんなそれぞれの役職があるじゃない。唯一フリーなのはメルデュラちゃんか私
     ぐらいなもの。その中で体力と腕力があるのは貴方しかいないわ。マスターの最大限の
     補佐をしてあげて。」
メルデュラ「分かりました。お姉様がそう仰るなら、全身全霊を以て戦わせて頂きます。」
    知識の部分ではシュームに敵う身内はいない。しかし体力と腕力の部分だとメルデュラが
   身内では最強であろう。リヴュアスやメアディルすらも凌駕している。それにシュームが現地
   に赴いてしまうと、本店レミセンは司令塔を失う事になる。彼女の判断は的確だった。

シューム「コンピューター関連はウエストちゃんやサイバーちゃんに委せましょう。2人の部屋も
     かなりのサーバーベースがあると言うし。それに頭脳は一極端にしない方がいいわ。」
メルデュラ「了解です。後でお2人にお願いしておきますね。」
シューム「リュアちゃんとリュオちゃんにも向かって欲しいけど、躯屡聖堕チームとの連携もある
     から地元で動いてちょうだいな。補佐にシュリムとシュリナを付けるから。」
リュア&リュオ「ラジャ〜!」
    凄まじいまでにリーダーシップを発揮しだすシューム。彼女の考えは今現在の流れを汲み
   つつ、戦力を低下させないように配慮していた。これには脱帽してしまう。

エリシェ「シュリム様・シュリナ様、財閥運営の補佐はお気になさらずに。エリムとエリアがいて
     くれれば最低限の事はできますから。」
ラフィナ「代わりにラフィカとラフィヌをエリムさんとエリアさんの補佐に回しますね。」
エリシェ「ありがとうございます、ラフィナ様。」
    財閥の運営もエリシェ・ラフィナのタッグと、エリム・エリアとラフィカ・ラフィヌの双子
   タッグがあれば恐れるものはないだろう。本来ならばエリムとエリアだけでも十分動けるの
   だが、ラフィカとラフィヌを付けるという部分はチーム行動を取らせようという一念を強く
   感じた。


ミスターT「・・・三浦海岸のホテル、シュームとの一戦。あの時は青褪めたが、その集大成が今
      正に発揮されるか・・・。娘達がこれほどまでに心強いと思った事は本当にないわ。
      ありがとう・・・。」
    再び涙が溢れてくる。シュームが熱望した子供達と大家族の結末が、今のこの時に役立つと
   いうのだから。あの時の行動に罪悪感を感じていたが、今はそれすらも全て必要な通過点で
   あったと言わざろう得ない。
シューム「何を仰るのですか。先程も言いましたが、全ては貴方がいたから成し得た事ですよ。当時
     私だけだったら人生に挫折していたのは言うまでもありません。シュリムとシュリナも
     生まれてはいませんでした。それに今の家族構成も・・・。」
エリシェ「マスター、過去を思うのはいい事ではあります。しかし今は未来を見つめる事を最優先と
     しましょう。ナツミE様とミツキE様を支え抜く、それが今の私達の使命ですから。」
ミスターT「そうだな・・・分かった。」
   涙を拭っていると俺の肩を軽く叩くメアディル。表情は何時になく優しさが込められている。
   リュリアの年代に近い彼女が、今はまるで年上の女性に見えた。その彼女の手に自分の手を
   優しく沿えた。

    とにもかくにも行動あるのみだ。今の自分達にできる事を最大限行うまでである。今は時間
   が惜しい、残された時間はあと僅かなのだから。


    リュアとリュオの根回しにより、この事は躯屡聖堕チームにも流れていった。特にアマギH
   とユリコYが事の大きさを知ってからか、躯屡聖堕チーム全体を挙げてのサポートをしたいと
   申し出てきたぐらいだ。

    ナツミEとミツキEが赴きたいと言っていた、葛西臨海公園のチューリップフェア。これを
   更に大規模なものにすると、運営チームに掛け合いだしたのだ。

    そして極め付けがウインドとダークHだろう。何と警察庁を挙げての補佐をするとまで言い
   出してきたのだ。これには驚いたが、そこには俺のお節介焼きが強く根付いていた。


    今の流れは全て過去の俺が行った事に対しての返しである。何振り構わず激励し、労い敬い
   続けた結果なのだ。これにはとにかく泣けて仕方がなかった。

    全ては覆面の風来坊たるナツミAとミツキ、そしてウエスト・サイバー・ナッツ・エンルイ
   の4人に巡り会うための流れだった。そして今はナツミEとミツキEに巡り会うための流れ
   にも至っている。

    全ての集大成はここにあった。それを感じずにはいられなかった。俺の生き様が無駄では
   なかった何よりの証拠である。

    結末は決まっていようが、そこに至るまでの流れは最大限支え抜く。それを彼らの生き様を
   通して、再度決意した瞬間だった・・・。



ミツキE「うわぁ〜、チューリップだぁ!」
ナツミE「こんなに一杯いいの?」
    ヴァルシェヴラーム孤児院のナツミEとミツキEの部屋、ここにチューリップの大きな花束
   を持って赴いたメアティナとメアティヌ。あの作戦会議から1週間後の事だ。
メアティナ「気にするなよ。君達に喜んで貰うために持ってきたんだから。」
メアティヌ「とにかく一杯食べて元気になりなよ。」
ナツミE&ミツキE「ありがとうっ!」
   メアティナとメアティヌの労いに笑顔一杯で礼を述べるナツミEとミツキE。しかし1週間前
   よりも顔色が悪くなっており、病状が更に進行しているのが痛感できた。それにメアティナと
   メアティヌは動揺しているようだが、男言葉を強めて押し殺しているのが分かった。
メルデュラ「花瓶が必要ね、シェヴさんに用意して貰ってくるわ。」
ミスターT「すまない。」
   部屋を出て行くメルデュラ。その際俺の肩を軽く叩いてきた。彼女も動揺しているのが、この
   言動で痛感できる。

メアティナ「大きくなったら何になりたいんだ?」
ナツミE「わたしはお医者さんになりたいなぁ〜。」
ミツキE「わたしも〜。病気なんかなくしてみんなで元気に遊びたいねぇ〜。」
メアティナ「偉いな、立派だよ。」
    未来を見つめて語るナツミEとミツキE。医者になりたいという願望は、それは即ち自分達
   の状況を理解している事に他ならない。この幼子ながらもしっかりと見定めているのだ。
ミスターT「早く元気にならないとな。」
ナツミE「大丈夫〜。小父ちゃんが言ってたよね・・何だっけ・・・。」
ミツキE「そうそう・・・つねづねひびにつよきたまえ・・・だよね。」
ナツミE「頑張らないとダメだなぁ〜。」
ミスターT「偉いわ・・・。悪い、一服してくるよ・・・。」
   ダメだ・・・。ナツミEとミツキEの言動を見るだけで涙が溢れてくる。間隔空けずに一服と
   と見せ掛けて部屋を出た。と同時に声を押し殺して泣いた・・・。


    時間は限られている。今何をできるのかが勝負。それらは理解しているつもりだ。しかし、
   俺はこれほどまでに弱い奴だったのか・・・。

    いや・・・これほどまでに切羽詰った現実を突き付けられれば、誰でもシドロモドロになる
   のは間違いない。俺も1人の人間だという事が痛感できた・・・。



メルデュラ「大丈夫です、その涙は必ず伝わります。」
    俺は部屋の外の壁に寄り掛かり、今も泣き続けた。そこにメルデュラが大きな花瓶を持って
   戻ってくる。一旦花瓶を床に置き、俺の手を両手で握り締めてくる。
メルデュラ「涙は弱くなり感情的になってしまうと言いますが、私はそうは思いません。泣く時に
      泣ける幸せは大切です。しかし今はどうか・・・押し留めて下さい。」
   今度は彼女の方が泣き出した。俺の感情の起伏に当てられたのだろう。滅多な事では泣かない
   メルデュラなのだから。
メルデュラ「貴方は強い、だからこその涙でしょう・・・。しかし更に強くあるには、時としてその
      涙を我慢するのも大切です。メアティナちゃんとメアティヌちゃんを見て下さい。2人
      は不安を一切表に出さずに頑張っています。本店レミセンに帰った時、人目を避けて
      泣いているのです・・・。」
ミスターT「悪かった・・・。メアティナとメアティヌに悪いわな・・・。」
メルデュラ「でもありがとうございます・・・。先程の涙は伝わるという事は、それらも踏まえての
      ものなのです。部屋の中では普通に接しているメアティナちゃんとメアティヌちゃん。
      その2人が泣きたいのを貴方が名代として泣いている。だから2人がナツミEちゃんと
      ミツキEちゃんを支えられている。娘であっても最大限背中を支えている・・・。」
ミスターT「そうだよな・・・。」
   声を押し殺して泣き続けるメルデュラを、ソッと優しく抱きしめた。すると彼女は俺に強く
   抱きついてくる。その力強さで悲しみを発散させているようだ。


メルデュラ「ありがとうございました、落ち着きましたよ。」
    小時間ほど抱きしめた後、落ち着きを取り戻したメルデュラ。俺の方はまだ涙が溢れそうに
   なるが、彼女の方は普通の姿に戻っている。本当に女性は強い・・・。
メルデュラ「とにかく私達にできる事をするまでです。」
ミスターT「ああ・・・。」
メルデュラ「勝負は一瞬、思い立ったら吉日ですよ。」
   最大限の笑顔で見つめてくるメルデュラ。その彼女に小さく頭を下げた。労い労われての夫婦
   というものだ。それを改めて痛感した。


    そしてシュームにも感謝せざろう得ない。もし彼女がメルデュラの代わりでいたら、悲しみ
   を抑え切れずにシドロモドロになっていただろう。ああ見えても極限状態の時は弱みが強く
   出るのだから。顕著なのがシュリムとシュリナが生まれるに至ったあの一戦前の出来事だ。

    そこで自分の代わりに、いざと言う時に強い事で知られているメルデュラを抜擢したのだ。
   極限状態の時の彼女の強さは半端ではなく、立ち直りも非常に早い。その力は妻達の中で一番
   とも言えた。だからこそ、この場に送り込んだのだ。

    全てを見定めて動いていたシューム。1週間前の決断は、本当に英断としか言い様がない。
   本当に素晴らしい女傑である。



    メルデュラの支えもあり、俺は泣く事を極力控えた。メアティナやメアティヌが我慢して
   いるのだ、彼女達の手前では弱い部分を見せては絶対にダメだ。

    その代わりなのか、あれから妻達が毎日代わる代わる寝たいと言ってきている。夜の営み
   までには発展しないが、そこに込められた思いは俺の悲しみを吸い取ってくれているようだ。

    またリュア・リュオやエリム・エリアも一緒に寝たいと言ってきた。4人も妻達と同じ一念
   だろう。彼女達の添い寝は本当に心から安らいだ。



メルテュア「できましたよ。」
メルテュナ「お口に合うかどうか分かりませんが。」
    連続で孤児院への通院を気にしてか、今日は休めと周りに諭された。代わってウエスト達が
   俺の代わりに赴いてくれている。今は本店レミセンのカウンターでメルテュアとメルテュナの
   手料理をご馳走になっていた。
ミスターT「おおっ、いいね。美味しいよ。」
メルテュア「ありがとうございます。」
メルテュナ「でもまだまだです。母さんや叔母様方、そして各レミセンのマスターさん達には敵いま
      せんよ。」
メルテュア「もっと修行をして強くならないと。」
   この畏まる姿はメルデュラにソックリである。しかし負けず嫌いな部分は俺に似ているので
   あろう。俺にだけ胸の内の対抗心を見せてきている。更にメルデュラ譲りのいざという時の
   肝っ玉の強さは、母親の彼女を遥かに凌ぐ強さを持っていた。

ミスターT「・・・生まれた直後のお前達を抱きたかったわ。」
メルテュア「まだ仰っているのですか。その後のスキンシップで十分満足しましたよ。」
メルテュナ「そうですよ。幼少の頃の思い出は、母と外出する際の語り掛け。見知らぬ覆面の男性
      からのものでしたが、あの時から父だと感じていたと思います。」
ミスターT「そう言ってくれると心が安らぐよ。」
    過去を振り返りつつ双子の手料理を平らげる。食後の一服をしながら当時を思い馳せた。
   その無念とも言える一念を気にするなと語るメルテュアとメルテュナ。

メルテュア「母さんが父さんを心から好いているのが痛感できます。」
メルテュナ「初夜の時を伺ったのですが、その時の労いは人生の中で一番だと仰ってました。」
ミスターT「丁度お前達ぐらいの年代の時か・・・、早いものだわ・・・。」
    メルテュナが語る初夜というのは、シュームに急かされて夜の営みに発展したあの時だ。
   当時は1つになりたいという事よりは、心を癒して欲しいという部分が強く感じられた。その
   切っ掛けなどを経て、目の前のメルテュアとメルテュナが生まれるに至ったのだから。
メルテュア「母さんが言ってました。父さんが海外遠征をしていた時、私達が母さんのお腹の中に
      いた頃。毎日のように私達に語り掛けていたそうです。」
メルテュナ「今日はどの辺りを動かれているのか、私達を支えるために戦っているとも。その時の
      状況は思い浮かびませんが、お聞きした時は感無量になりましたよ。」
   2人の言葉を聞いて涙が溢れ出した。70歳を超えた辺りから涙腺が弱くなって本当に参る。
   また今のナツミEとミツキEとの一時で、俺の涙腺は崩壊寸前である。そこに目の前の双子の
   生まれる前の語らいでノックアウトを喰らってしまった。
メルテュア「ここならいくら泣いても大丈夫ですよ。思いっ切り泣いて下さい。現地では役割の手前
      から涙を流す事もできませんでしょうから。」
メルテュナ「心は常に共にあり、父さんと私達は一心同体です。負けずに突き進んで下さい。」
ミスターT「・・・俺は本当に幸せ者だわ・・・。」
   メルテュア・メルテュナ姉妹の前で誓った、絶対に膝は折らないと。それはまた娘達全員、
   妻達全員も同じである。しいては関わった人達全員もそうだ。負けてはならない。

    本当に娘達には気苦労を掛けさせてしまっている。しかし嫌な顔一つせず接してくれる。
   本当に感謝に堪えない・・・。

    後半へと続く。

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