アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜番外編 巡る縁1〜
    ナツミYUに頼まれて、生き様を語ってから数日後。あのスピーチが心に響いたのか、他の
   女子学生の勢いが凄まじいとウィレナは語る。

    人は些細な切っ掛けで飛翔する可能性を秘めている。その切っ掛けになれた事に誇りに思う
   しかない。俺の存在は無駄ではなかったという事実なのだから。


    それからはウィレナからもアプローチを受け出した。ダークとディルヴェズLKも彼女の
   心中を察知してか、負けじと対抗してくる。

    う〜む・・・嬉しいやら何とやら・・・。


    まあでも今の彼女達は輝いている。それを見れば些細な思い悩みなど吹き飛ぶほどである。
   ここは彼女達の思いに心から応えてあげるのが俺の生き様だろうな・・・。



    今日は本店レミセンの担当を任された。他の女性陣はそれぞれの仕事が忙しく、ここの担当
   をできないでいる。特に駅前のレミセンに団体のお客さんが来たという事で、シュームも応援
   に向かっているのだ。

    ここ本店は殆ど常連さんしか訪れない事でも有名である。トーマスCがマスターの時も、
   殆ど古参のお客さんしか来なかったとも言っている。

    他のレミセンは初めてのお客さんでも入れるようだ。いくら建物を変えたからといって、
   本店の流れは昔も今も変わらない。


    丁度シューム達が駅前レミセンに応援に行った頃、本店に来客があった。学生服を来た女性
   である。その出で立ちを見た瞬間、過去のラフィナを彷彿とさせた。

    何かを思っているのだろう、俯きながらカウンターに座る。この思い悩み度はかなり強い。
   その姿を見ると、やはりラフィナを思い浮かべてしまう。



ミスターT「いらっしゃい、何にするかい?」
女子学生「・・・あ・・は・・はい・・・、その・・・。」
    店内に入ってきたのが無意識だったのか、俺の発言にエラい驚いている。言い辛そうな姿に
   手を遣って構わないと合図を出した。
   その後も思い悩んだように俯いている。これはひょっとするとラフィナと同じなのかも知れ
   ない。


ミスターT「はい、元気が出るサンドイッチセット。」
    全レミセンで共通するサービスがある。それは老若男女問わず、困っていると判断できたら
   サンドイッチセットを奢ってあげるのだ。特に学生さんが思い悩んでいる時が一番多い。
   以前俺が何気ない事で差し出したこれが、常連さんや一般のお客さんから大好評であった。
   それを一般化させようと画策したのが、シュームやメルデュラである。
女子学生「え・・・た・・頼んでませんよ・・・。」
ミスターT「俺の奢りだから、気にせず食べちゃいなよ。」
   困惑した表情の女子学生だが、自然と手がサンドイッチを掴んでいる。再びこちらを窺うが、
   俺は小さく首を縦に振った。すると彼女も小さく頭を下げて、サンドイッチを頬張りだした。


    この女子学生も心に抱く思いが尋常じゃないほど強い。故に今も思い悩むのだろうから。
   それにこの学生服は先日女子高でスピーチした時に見たのと同じだ。となると彼女も女子高
   出身なのかも知れない。

    もしかしたら俺を頼って来たのかも知れない。そうであれば心から応じてあげるのが、俺の
   風来坊としての役目でもあろう。


ミスターT「ちょっといいかな?」
女子学生「え・・わ・・私ですか?」
    あっと言う間にサンドイッチを平らげた彼女。合間を見て語り掛ける。それにアタフタして
   驚く彼女。その姿に過去のラフィナと姿がダブる。
ミスターT「先日、ナツミYUの配慮で俺のスピーチを聞いたのかい?」
女子学生「・・・はい。」
ミスターT「となると・・・何か悩みがあって来たという事か。」
   俺の推理に大きく驚いている。レミセンメンバーでは定着している直感と洞察力の強さは、
   初対面の人物に対しては凄まじい威力を発揮していた。

女子学生「その・・・勇気を貰いたいのです・・・。」
    暫く黙り込むと、ゆっくり口を開く彼女。その発言は心が据わった発言とも言える。つまり
   言葉とは裏腹に、彼女は既に勇気を持っている事になるだろう。
ミスターT「・・・告白、か。それで勇気が欲しいと。」
女子学生「はい・・・。」
   俺の先を読んだ推理に小さく驚くが、先程よりは驚かない。この女の子も肝っ玉の据わりは
   尋常じゃないぐらい強い事が十分窺えた。
ミスターT「・・・そうだ、まだ名乗ってなかったね。」
女子学生「ご存知ですよ、ミスターT様。私はトモミ=シェイレイックといいます。」
   トモミと言うのか。う〜む・・・、雰囲気からしてラフィナとウィレナに実に似ているわ。
   というか彼女のセカンドネーム、もしかして・・・。

ミスターT「トモミさ、もしかして・・・ターリュとミュックの親戚か何かか?」
トモミ「よ・・よくご存知ですね・・・。ターリュさんとミュックさんとは従姉妹同士になります。
    お2人は幼少の頃はアメリカを主体に、自分は日本国内を主体に生活していましたので。」
    なるほどね。ターリュとミュックの大雑把でフレンドリーな言動は、アメリカ仕込みのもの
   だったようだ。対するトモミのお淑やかさは日本人に近いと言える。ラフィナやウィレナも
   お淑やかさを持っており、さながら大和撫子とも言えるだろうか。
ミスターT「あのじゃじゃ馬娘達の従姉妹・・・。とてもじゃないが、そうは思えないわ・・・。」
トモミ「フフッ、よく言われます。」
   皮肉を込めて語ったのだが、それをすんなり受け入れるトモミ。それだけターリュとミュック
   とのギャップが有り過ぎるのだ。双子は火で、トモミは水とも言える。


    簡単な雑談により肩の力が抜け出したのか、トモミは気さくに語り出している。この部分は
   ターリュとミュックと同じく、外国人の血が成せる業物なのだろうな。

    そんな中、入店してくる人物達がいた。先程噂をしていたラフィナとウィレナの2人だ。
   出で立ちがスーツ姿のため、何らかの行事に参加していたのだろう。

ミスターT「お帰り。」
ラフィナ「ただいまです。」
    スーツ姿のラフィナ。しかし言動はトモミと変わらない若干幼さが残っている。これでいて
   大和撫子の流れがあるのだから、好みのタイプに当たる野郎達には特効薬だろうな・・・。
ウィレナ「あれ、トモミさんじゃん。」
トモミ「こんにちは、ウィレナ先輩・ラフィナ先輩。」
ラフィナ「・・・何だか、何処かで見たような・・・。デジャヴですかね・・・。」
   ラフィナが今の現状を過去にあったものだと語りだす。それはそうだろう。何せ彼女の過去と
   同じ事が、今のトモミに舞い下りているのだから。
ミスターT「トモミは告白事で悩んでいるんだそうだ。」
ラフィナ「・・・デジャヴ、当たりましたね。」
ウィレナ「それでマスターの所に相談、か。先日の生き様を語るが効いたのね。」
   素早くトモミの左右に座るラフィナとウィレナ。そして詳しい話を聞き出した。やはり同性
   だから相談に乗れるのだろう。この場合、俺は口を出さない方がよさそうだ。



    本店レミセンからお客さんが全員はけた。今も語り合う3人を考え、貸し切り状態にする。
   カウンターで語りに語るラフィナ・ウィレナ・トモミ。俺は店内の掃除や食器類の洗浄などに
   明け暮れた。

    同性同士の悩み事の打ち明けほど効果があるものはない。特にラフィナはトモミの心情を
   一番理解しているだろう。今も彼女の脳裏には、例の告白の事が残っているのだろうから。


    何時の間にか深夜12時を超えている。しかし今も3人の会話は途切れる事はなかった。
   今度は貸し切りではなく閉店の札を掲げ、俺は再び店内の掃除に明け暮れた。

    同じ共通する悩みがあったラフィナと、教師の卵であっても本場物の教師の心構えを既に
   持っているウィレナ。この2人のアドバイスはトモミにとって一番心に響くものだろうな。



ラフィナ「マスター、起きて下さい。」
ミスターT「・・・う・うわっ・・・寝ちまったのか・・・。」
    3人が掛けていたカウンターの真後ろに座り、物思いに耽っていた。すると睡魔に襲われ、
   寝てしまっていたようである。ラフィナが起こしてくれたようで、慌てて飛び起きた。
ミスターT「・・・げ・・・午前3時半かよ・・・。」
ラフィナ「ごめんなさい・・・、話が長引きすぎました・・・。」
   寝惚け眼で辺りを見渡すが、既にトモミとウィレナの姿はない。ラフィナだけが傍らにいた。
   どうやら先に帰宅したようである。


    とりあえず本店レミセンを店仕舞いにして、俺とラフィナは3階へと戻った。シューム達は
   今の現状を把握して、他のレミセンの控え室で寝ているとの事である。

    しかし、午前3時半か・・・。それだけトモミの心の悩みは大きいものと言えたのだろう。
   それに全力投球で相談に乗っていたラフィナとウィレナには脱帽である。



    軽い軽食を取り合う俺とラフィナ。その後身嗜みを整え、そのまま就寝という形になった。
   今日は彼女と一緒に寝る事になりそうだ。

ミスターT「明日眠いなぁ・・・。」
ラフィナ「ごめんなさい・・・。」
    パジャマに着替えながら明日の事を呟く。すると過剰反応して謝りだすラフィナ。それだけ
   相談に乗っていた事が全力投球だったと十分窺える。
ミスターT「ああ、大丈夫よ。ただ愚痴っただけだから。ラフィナを責めている訳じゃないから。」
ラフィナ「ありがとうです。」
   着替え終えるのを確認すると、そそくさげに抱き付いて来る彼女。トモミの相談に応じていた
   事により、過去の苦節が過ぎっているのだろう。そんな彼女を優しく抱きしめてあげた。

ミスターT「大丈夫さ。お前もメルデュラと同じく、苦節を糧として生きる事を貫いているんだ。
      何も思い悩む事なんかない。」
ラフィナ「はい・・・。」
ミスターT「ラフィナに感謝しないとね。過去の恋路に関して色々と経験したから、俺もトモミの
      相談に応じれるのだから。」
ラフィナ「そう言って頂けると嬉しいです・・・。」
    落ち着かせようとしても、ラフィナの苦節へ対しての痛みは凄まじいものだろう。しかし
   それがあったからこそ、今こうしていられるのだ。考え方によってはプラス要素になる。


    静かにラフィナを抱きかかえると、そのままベッドに寝かせる。その彼女を抱きしめつつ、
   頭と背中を優しく撫でてあげた。
ミスターT「これは皆には内緒ね。」
ラフィナ「羨ましがられますね・・・。」
   笑顔で俺を見つめると、そのまま瞳を閉じる。その彼女を胸に抱きながら、俺も瞳を閉じた。
   こういったスキンシップで少しでも彼女の重みを取り除ければと・・・。



    翌日からトモミが毎日来店するようになった。恐らくラフィナとウィレナにここに来れば
   落ち付けると言われたのだろう。

    あのターリュとミュックの従姉妹なのだから、心の据わりは尋常じゃないほど強い筈だ。
   後は背中を押してあげれば前へと進めるだろう。

ミスターT「へぇ、お前も教師を目指しているのか。」
トモミ「はい。ウィレナ先輩は勉学方面を進まれていますが、私は体育方面に進もうかと。」
ミスターT「そう言えばウィレナが言ってたわ。水泳だっけ、あれで群を抜いて凄まじいのがお前と
      聞いている。」
トモミ「1週間後に地区大会がありますので。そこに向けても頑張っています。」
    ウィレナが言うには、トモミは全国レベルの腕を持つスイマーだとも。シンシアみたいに
   小柄だが、その体躯から発せられる闘気はかなり高い。
ミスターT「その地区大会の後に告白か。確かに色々な意味で負けられないわな。」
トモミ「ラフィナ先輩の件もご存じですが、とにかく動いてみない限り分かりませんから。」
ミスターT「テメェの生き様を刻め、だな。」
   再び俺の奢りでサンドイッチセットを手渡した。それに嬉しそうに頭を下げて食べだす彼女。
   どうやらこのサービスが気に入ったようである。もちろん初会のみ無料であったが、今は彼女
   の方から料金を貰ってはいる。本当は無料にしたいが、材料費の問題もあるからなぁ・・・。

ミスターT「俺は泳げないからなぁ・・・。」
トモミ「えっ・・・そうなのですか?」
ミスターT「浮かべなくはないが、前に色々とあってね・・・。」
    雑談話として、過去の苦節を語り出した。それは孤児院時代に水泳を楽しんでいた時、溺れ
   掛けた事があった。確か浮き輪を大量に身体に通したんだっけか、それにより頭が重いため
   水の中に逆さまになったのだ。あの時の恐怖は今でも忘れられない・・・。
トモミ「う・・浮き輪は普通1つですよ・・・。」
ミスターT「そうだよなぁ・・・。」
   笑いを堪えているトモミ。確かに普通考えればありえない事である。それを押し通した当時の
   俺は、相当のやんちゃ坊主だった事が窺える。

トモミ「今度一緒にどうですか?」
ミスターT「カナヅチの俺に沈めと言うのか・・・。」
トモミ「大丈夫ですよ。ここにプロフェッショナルがいますから。」
    一緒に水泳をどうだと勧めてくる彼女。トモミ自身1歳になる前から水泳を行っていたよう
   であり、水に対しての恐怖心は全くないという。まるで人魚である。
ミスターT「・・・分かったよ。それにな・・・お前はあのターリュとミュックの従姉妹だぞ。仮に
      断ったとしても無理矢理連れて行くだろうに・・・。」
トモミ「フフッ、分かっちゃいましたか。」
   舌を出しながらはにかむトモミ。ごり押しが性分であり生き様であるターリュとミュック。
   その血筋を持っているのだから、トモミにノーの言葉は通じない。

    そんな事でトモミ監修の下、数十年振りの水泳を楽しむ事となった。というか俺には高所
   と同じく怖いのだが・・・。



    今は学園の室内プールへと赴いている。俺の覆面の事を考慮してか、一般のプールでは問題
   があると踏んだためだ。

    またトモミだけいい思いはさせたくないのか、ラフィナ・ウィレナも同伴している。更には
   ナツミYUまでも一緒である。まあナツミYUの場合はプールの確保と監督もあるのだが。

ラフィナ「この水着を着るのは久し振りです。」
ミスターT「3人で海に行った時だな。」
    エシェラと初めて知り合った夏、ラフィナ・エリシェと一緒に三浦海岸まで海水浴を楽しみ
   に赴いた。その時に着用していた赤色のビキニを身に纏っているラフィナだ。流石にこれには
   ウィレナとトモミは顔を赤くしている。2人は学園で使う一般の水着なのだから。
ナツミYU「着痩せするってこの事よねぇ。」
ミスターT「ナツミYUもナイスバディじゃないですか。」
ナツミYU「ま・・真顔で言うかな・・・。」
   ナツミYUもウィレナ・トモミと同じく学園で使う水着を着用している。ラフィナと俺だけが
   普段着用する水着を着用していた。前もって自由だと言っていれば、多分3人も露出度が高い
   水着を選んでいただろうな・・・。
   自身の体躯を誉められ頬を赤くするナツミYU。事実豊満なボディの彼女なのだから、仕方が
   ないわな。

    ちなみに口説き文句を言っている俺だが、目の前に迫るプールに恐怖で一杯だった。幼少の
   あの溺れ掛けた時が何度も脳裏を過ぎってくる。

    俺の水に対する恐怖心が前面に出ている事に、普段の俺を知る4人の美女は驚いている。
   俺の弱点を茶化す以前に、本当に怖がっているという姿を目の当たりにしたからだろう。

トモミ「無理なさらなくてもよかったのに・・・。」
ミスターT「お前の顔に泥を塗る訳にはいかんだろうに。」
    言葉は平然と語れるが、足が震えてしまって仕方がない。それでもトモミの勧めを無下に
   する事だけはしたくない。この一念が後押ししてか、俺は恐る恐るプール内へと入っていく。
ミスターT「こ・・・こえぇ・・・。」
トモミ「大丈夫です、私が付いていますから。」
   既にプール内で待機しているトモミに支えられ、ようやくプール内に浸かった。かなり深いと
   思っていたのだが、俺の身丈が198cmもあるため顔はおろか肩より下・胸上部まで余裕で
   露出していた。

ミスターT「こ・・こんなに浅かったっけ・・・。」
ウィレナ「マスターの背が高すぎるんですよ。」
ナツミYU「全てのプールの平均水深は1.5mらしいわ。君は2m近い体躯なのだから、むしろ
      浅すぎるぐらいかもね。」
    他の女性陣もプール内に浸る。その中でナツミYUとラフィナは180cmを超える身長な
   だけに、肩が余裕で露出してしまっている。
ラフィナ「リュリアさんだと沈んでしまいますね。」
ミスターT「あ〜・・確かに、でも泳ぎが得意そうだからなぁ・・・。」
   それぞれ貸し切りの室内プールを満喫しだす。トモミはプロ級の腕を持つが、ナツミYUと
   ウィレナも泳ぎが得意とあって縦横無尽に泳ぎ回る。またラフィナも泳ぎが得意であり、同じ
   ように泳ぎ回っていた。

ミスターT「よくもまあ浮かぶよな・・・。」
トモミ「マスターもこうやって浮かべますよ。」
    見本とばかりに水面に仰向けで浮かぶトモミ。何もしていないのに浮かぶ様は、まるで水と
   一体化しているような雰囲気だ。その姿はさながら人魚のようである。
ミスターT「・・・マーメイドみたいだわ・・・。」
トモミ「え・・そ・・そんな・・・。」
ミスターT「純粋に水が好きなんだね。でなければ今のような姿はできないよ。」
   自身を人魚と例えられて大赤面する彼女。しかしその後の補足した言葉に、自然と我に返って
   いく。確かに1歳前から修行を続けているのだから、一体化を図る事は可能だろう。

    俺も恐る恐るトモミと同じ事をしようとしたが、脳裏に刻まれた恐怖心は俺をカナヅチへと
   引き戻す。即座に溺れそうになった俺を慌てて支えてくれるトモミだった。
ミスターT「だ〜・・・こえぇ・・・。」
トモミ「相当トラウマなのですね・・・。」
ミスターT「飛行機と同じだ・・・、あんな鉄の塊が浮かぶ自体異常だわ・・・。ましてや人が水に
      浮かぶ事自体ありえん・・・。」
トモミ「う〜ん・・・。」
   嫌がる素振りは見せてないものの、水に対する恐怖心は前面に出続けている。それに呆れ返り
   続けるトモミだった。彼女の経験からして、俺の極端な怖がり方自体異常であろう。
ミスターT「でも・・・お前みたいに思う存分泳げたら最高だろうな・・・。」
トモミ「それを実現するための訓練じゃないですか。」
ミスターT「え・・これ訓練だったのか?」
トモミ「で・・でなければ・・・お誘いしませんよ・・・。」
   自分には意中の人物がいるのだと顔を赤くしているのだが、それとは別の感情が彼女の中に
   芽生えだしているみたいだ。それは何となく分かってしまう。ラフィナとウィレナと同じで
   あろう。

トモミ「大会まで練習がてらに付き合って頂きますから、覚悟して下さい。」
ミスターT「えぇ〜・・・マジかよ・・・。」
    俺の子供のような批難の声に笑い出す彼女。普段からの俺の言動とは掛け離れているためで
   あろう。まあその俺を見て笑う新鮮な彼女も輝いているのだが。

    そんな俺達を遠巻きに羨ましそうに見つめているラフィナ・ウィレナ・ナツミYU。特に
   ラフィナとウィレナからは何らかのヤジがあるかと恐れていたが、それが全くない事に驚いて
   いる。これはもしかすると・・・。



    それから大会当日までの間、毎日学業が終わった学園のプールでの個人レッスンが続いた。
   ちなみに必ずラフィナとウィレナが同伴している。俺に変な気を起こさせないためだろうか。

    それ以前に水への恐怖心は今だにあるため、それどころの話ではないのが実情ではあるが。
   とにかく怖すぎるわ・・・。


    大会前日に至っては、身内全員が参加のレッスンとなった。その中でトモミをも驚嘆させる
   泳ぎを披露しているリュリアには驚愕したが。何でも泳ぎは大の得意だというのだ。

    また貸し切りのプールであるためか、トモミ以外は全員自前の水着を着用している。その
   ナイスバディに普通ならクラクラするだろうが、今の俺にはその余裕すらなかった。

シューム「本当に怖いのね・・・。」
メルデュラ「高所恐怖症以上の怖がり方ですよ・・・。」
    豊満な肉体に色気ムンムンの水着を身に纏ったシュームとメルデュラ。その姿は野郎を一撃
   の下に悩殺するだろう。俺にも十分当てはまっている。それを期待して着用したのだろうが、
   当の本人はそれどころではない。
リュリア「いぇ〜いっ!」
   そんな俺の気など知る由もないように、凄まじい泳ぎを披露しているリュリア。これにトモミ
   は驚愕し続けている。
トモミ「リュリアさんは・・・本当にマーメイドですか・・・。」
シューム「勉学はダメでも、スポーツは凄まじいからねぇ。体育祭の徒競走でも1位を取り続けて
     いるぐらいだから。」
ミスターT「天性の才能だよな、俺にも分けて欲しいものだわ。」
   俺はトモミに支えられ、浮く事からの練習をしている。俺より半分以下の体躯だが、水の浮力
   によって簡単に支えられていた。
トモミ「数日前よりは断然いいですよ。」
ミスターT「誉められてもあまり嬉しくないわ・・・。」
   本来ならトモミみたいな女の子をエスコートするのが俺の役目だろう。しかし今は全く真逆に
   なっている。俺の身体を難なく操っているだけあり、彼女の実力が十分窺えた。

トモミ「あの・・・明日の地区大会に来て頂けますか?」
ミスターT「ああ、それは構わないが。泳がされるのは簡便な。」
    顔を赤くしながら尋ねてくる。明日の本番たる地区大会に来て欲しいと申し出てきた。その
   事に関しては直ぐに了承したが、後で泳がされるのではと心配である。
トモミ「その後の・・・告白の時も待って頂ければ・・・。」
ミスターT「ん〜・・・まあお前が望むなら応じるよ。」
トモミ「ありがとう・・・。」
   これはもしかしたら・・・。いや、今は深く考えないでおこう。無粋な考えは要らぬ不安を
   与えてしまいかねない。

    その後もトモミ指導の下、極のカナヅチである俺の強化訓練は行われ続けた。周りの女性陣
   の生き生きしい泳ぎには羨ましさを感じずにはいられない。

    だが・・・高所や蝉もそうだが、怖いものは怖いのだから・・・。

    後半へと続く。

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