アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜 〜番外編 ヒッチハイク2〜 メアディル「あの・・・お時間ありますか?」 積荷をクライアントに納品し、一時の休息となった。数日後には次の依頼が舞い込んで来る 事だろう。 運転前の一服をしていると、恐る恐る語ってくるメアディル。その表情には何時もの明るさは 全くなかった。 ミスターT「ああ、数日間は暇だからね。」 メアディル「その・・・貴方とデートしたいです・・・。」 ミスターT「そ・・それは構わないが。」 いきなりの告白に驚いたが、その心中の思いを察して了承した。出会いがあれば別れもある。 それが刻一刻と近付いているのだから。 彼女の案内でサンフランシスコは海岸通りにいる。アメリカの地名や名所は分からないが、 アメリカ育ちのメアディルに任せれば大丈夫だろう。 駐車場にグローブライナーを停めて、砂浜を当てもなく歩いた。何らかの娯楽施設に赴くの だろうと踏んでいたが、ただ単に俺とゆっくり過ごしたいだけなのだろう。 過去にシンシアと深夜、三浦海岸を散歩したのが昨日のように脳裏に蘇ってきた。あれから 16年経過したのか・・・。 メアディル「学校の出席日数の問題で、明日から地元に戻らないといけません。」 ミスターT「そうだな。風来坊もいいが、しっかり基礎は作った方がいい。」 俺は学業よりも世間とのコミュニケーションや、生きるための技術力習得に奔走し続けた。 今となっては懐かしい思い出だが、学校だけは卒業した方がいいという事は痛感できる。 しかし人それぞれの生き方があるのだから、何でもかんでも押し付けはよくないわな。 メアディル「その・・・数週間、本当にありがとうございました・・・。」 ミスターT「お前の長い生き様の、1つの経験となれれば幸いだよ。」 不意に抱き付いてくるメアディル。普段は気丈で力強いのだが、今は涙を流していた。何だ かんだで女の子なのだと痛感してしまう。 日本だとハグこと抱きしめは白い目で見られるのだが、アメリカでは一般的に行われている コミュニケーションの1つである。こういった何げない抱きしめは至る所で普通に見られる。 メアディルもアメリカで過ごした時間が多いためか、こういったスキンシップは大切にして いるようだ。 最大限の真心を込めて抱きしめ返した。背中を軽く叩き、頭を優しく撫で続ける。それに より一層泣きだす彼女だった。 どのぐらいそうしていただろうか。落ち着いたメアディルが顔を上げてくる。何を望んで いるかは、今となっては直ぐに分かった。 俺は静かに唇を重ねた。ただ唇を重ねるだけの口づけだが、そこに込められた思いは痛烈に 心に響いているだろう。 甘い一時を終えた俺達は、一路メアディルの自宅へと向かった。ちなみに彼女の自宅の所在 を聞いて驚いた。あのカジノで有名なラスベガスに住居を構えているのだという。 まあロシア以外にアメリカも最大の大企業なのだから、そのぐらいは当たり前なのだろう。 仮にエリシェもアメリカ住まいなら、こういった派手目な都市に住んでいたに違いない。 数時間でラスベガスへと到着する。辺り一面ネオンで煌いており、目がチカチカするという レビューは事実だった。 しかし・・・俺がラスベガスへ訪れるとは・・・。一生訪れる事はないだろうと思っていた 輝きの都だからな・・・。 目の前の現状に目を白黒させた。メアディルの住まいはエリシェの自宅であるマンション 以上の巨大さを誇っている。目の前にはレッドカーペットが引かれており、数多くの警備員が 辺りの様子を窺っていた。 そこにメアディルと俺が帰宅すると、彼女の姿を見た関係者達は一斉に頭を下げてきた。 三浦海岸でのエリシェに対する対応より凄まじいものである。 執事「お帰りなさいませ、メアディル様。」 メアディル「ただいま。皆さん元気そうで何よりです。」 執事「直ぐにお食事をご用意致します。その間にお身体を流されて下さい。」 メアディル「分かりました。それとこちらのマスターもご一緒させて下さい。私の命の恩人であり、 大切な師匠ですから。」 執事「了解致しました。貴方様もどうぞこちらへ。」 ミスターT「すみません、お言葉に甘えさせて頂きます。」 メアディルの言葉に驚いた。俺の事を命の恩人と語り、大切な師匠だと豪語したのだ。僅か 数週間の出来事は、彼女にとって大きな印象として残ったのだろう。 俺は執事さんにグローブライナーを任せ、メアディルと共にマンションへと入っていった。 というかマンションというよりホテルに近い。ホテルそのものを自宅とするスケールさは、 自由の国たるアメリカの象徴的なものと言えた。 ホテルに入るや否や、大勢のメイドさんが頭を下げてくる。その荘厳たるさは、江戸時代の 大奥のようであった。まあ実際に見た事はないが、大体同じものだろう。 ミスターT「本当にお嬢様だったんだな。」 メアディル「フフッ、何度も疑われます。こんな身形なので、普通の方と思われますので。」 ミスターT「エリシェの財閥より凄まじいわ・・・。」 とにかく凄いとしか言い様がなかった。三浦海岸のホテルも凄まじかったが、ラスベガスの ホテルは群を抜いていた。日本とアメリカとの国力の差を見せ付けられたようである。 メアディル「あ、ミスターTさん。例の品物は今日届くでしょうか?」 ミスターT「多分大丈夫だろう。お前の成長した姿は部外者の俺でも嬉しく思えるわ。」 メアディル「ありがと・・・。」 初めて出会った時より、格段に明るくなった彼女。自然と微笑む姿は周りのメイドさん達を 驚かせている。多分普段から物静かな少女だったのだろうな。 それと大陸を回っている時、ショッピングモールに立ち寄った。何でも従業員全員に今まで のお礼を込めてキーホルダーをプレゼントしたいと言い出したのだ。その数約30000個。 約30000個となると全て用意するのに時間は掛かるが、そこはシェヴィーナ財団の力を 惜しみなく使った。そのためこのプレゼントが従業員全員にバレていると思われるが、まあ そこは気にしないでおこう。 確かにこの数週間で劇的に成長したメアディル。幼さがあったが、今は完全に大人の女性の 色が濃く出てる。 俺と彼女の年齢差から、親子の間柄のような感覚でいた。そのため成長する姿が直ぐに感じ 取れたのだろう。 彼女は大物になるわ。この予測は間違いなく的中する。 ミスターT「・・・混浴か・・・。」 メアディル「お気に召しませんか?」 とにかく自然体のメアディル。入浴に関して俺と混浴する事に全く違和感を感じていない。 俺の方が恥ずかしくなってしまうわ・・・。 ミスターT「お前はいいのか?」 メアディル「心と身体のスキンシップは当たり前です。も・・もちろんあちらはNGですけど。」 ミスターT「分かった。」 幾分か頬を染めているが、目は据わっている。つまり俺が否定しても押し通す事は目に見えて いた。ここは素直に従った方がいい。 しかしまあ・・・広々とした大浴場だわ・・・。三浦海岸のホテルの大浴場より凄まじい。 規模が異なるという事を改めて思い知らされる。 俺は簡単に身体を洗い、そのまま湯舟に浸かる。メアディルの方はかなり念入りに身体を 洗っていた。確かにヒッチハイクをしてから入浴する機会はなかっただろう。 俺の方は1週間に1度ホテルに宿泊し、必ず身体のケアをしている。これはマツミの計らい である。初めの頃は構わないと言っていたが、今はすっかりお世話になりっ放しだ。 ミスターT「う〜む・・・本当に11歳かね・・・。」 メアディル「あ・・あまり見ないで下さい・・・。」 身体を洗っているメアディルを見つめながらボヤくと、赤面しながら恥らってくる。しかし 嫌がる素振りではなく、それが自然体だという事がよく分かった。これもコミュニケーション の1つなのだろう。 メアディル「お風呂に入られる時も、覆面を着けられるのには驚きました。」 ミスターT「お嬢さん、俺にも色々とあるのですよ。」 メアディル「フフッ、貴方らしい。」 すっかり俺の事を信頼し切っている彼女。その仕草は6人の妻達と何ら変わらないものだ。 これはもしかして・・・。いや、今は深く考えないでおこう。 身体を洗い終えると、シャワーで身体を流しだす。その仕草は本当に大人の女性そのもの。 とても11歳とは見えないわ・・・。 身体を流し終えると、そのまま入浴してくる。ソッと俺の傍に寄り添ってきた。変な考えを 起こさなければいいが・・・。 メアディル「・・・今まではこういった普通の生活すらも億劫でした。当たり前のように出てくる 豪華な食事の日々、何不自由ない贅沢な生活・・・。」 ミスターT「それらから逃げるのに、ヒッチハイクの風来坊を始めた訳か。」 徐に語る言葉は、彼女の本音が混ざっていた。今の環境が嫌で、自由の旅路に走ったのだ。 俺の時とは全く異なる旅立ちの一念である。 メアディル「でも今は違います、心から周りに感謝できる。キーホルダーの件も普通では思い付き ませんでした。相手を敬い労い激励する。その理に飢えていたのかも知れません。」 ミスターT「変革は己が変わりたいと思った瞬間から始まる。お前は逃げたい一心で風来坊に至った のだろうが、結果的にそれが今に至るのだから。」 メアディル「それに・・・貴方とお会いできました・・・。」 再び泣き出したメアディル。それだけ俺の存在が大きなものになっているのだ。僅か数週間の 出来事は、彼女にとって一生涯の思い出となるだろう。 別れの悲しみに震える彼女を優しく抱きしめた。するとそのまま俺に強く抱き付いてくる。 その抱擁から感じ取れる一念は、純粋で曇りがないものに感じれた。 メアディル「・・・別れたくない・・・一緒に居たいよ・・・。」 ミスターT「ありがとう・・・。」 更に大泣きしだす彼女。その声を聞いた表のメイドさん達が飛び込んでくるが、彼女達に 目配せをすると静かに引き上げていった。メアディルの心情を誰よりも察知しているからこそ できるものだろう。 ミスターT「出会いがあれば別れもある、それが人生というもの。それに今生の別れじゃない。何れ 再開すると確信している。今は辛いだろうが、己の生き様を刻むための基礎を堅固な ものにして欲しい。」 メアディル「・・・分かった・・・。・・・ヒッチハイクは止めて、学校に行きます・・・。」 ミスターT「ありがとう、いい子だよ。」 俺の述べたい事を明確に把握した彼女。基礎を堅固なものと語っただけで、勉学を学んでくれ と取ったのだから。 メアディルは子供にして子供にあらず。約2年間の風来坊の旅路は、彼女を凄まじいまでに 強く成長させていたようだ。 泣き止むと静かに唇を重ねてくる。それにこちらも優しく応じてあげた。今度は念入りな 口づけをしてくるだけに、心の一念がどれだけ大きいものか窺えた。 大浴場でのスキンシップを終え、ホテル側が用意してくれた衣服に身を包む。以前三浦海岸 で着用したみたいなタキシードである。 メアディルの方は赤いドレスを着用している。化粧もしている事から、より一層大人びいて 見えた。 今はメアディルの自室にいるのだが、ここもエリシェの自宅以上の広さである。何から何 まで本当にスケールが違うわ。 執事「メアディル様。先程運送業の方がいらしまして、大きなお荷物をお預かりしましたが。」 メアディル「ああ、届きましたか。こちらに運んで下さい。それと各運営のチーフを全員招集して 下さい。」 執事「かしこまりました。」 不思議そうな表情をしながら、言われた通りに動き出す執事さん。他のスタッフが巨大な ダンボール箱をカートに乗せて持ってくる。またホテルに待機している各方面の運営スタッフ のチーフが全員召集された。 一気に賑わいだすメアディルの自室。何が行われるかは知らされていないため、誰もが不安 そうな表情を浮かべていた。 メアディル「皆さんに日頃の感謝を込めてプレゼントです。」 ダンボール箱を開けると、そこには大量のキーホルダーが入っていた。全て同じものだが、 そこに込められた思い遣りを直ぐに感じ取りだす従業員達。 メアディル「今まで我が侭を言い続けて、本当にごめんなさい。皆さんがどれだけ陰の戦いに徹して いらしたか、頭の悪い私では分かりません。でも1つだけ分かるのは、私の我が侭に 愛想を尽かずに付いて来て下された事。心から感謝しています。」 深々と頭を下げるメアディル。それに従業員達は驚愕していた。大凡彼女の今までの性格から して、このようなサプライズはなかっただろう。 メアディル「今後はヒッチハイクを止めて、勉学に励みます。皆さんを支えられるように、日々の 戦いを全力投球していきます。本当にありがとう・・・。」 メアディルの労いに涙を流しだす従業員達。約2年間の旅路により、ここまで成長した彼女を 嬉しく思っているのだろう。彼女には立派な家族がいるが、この従業員達も立派な家族だ。 執事「・・・私・・・生まれて初めて感激しております・・・。幼少の頃からお嬢様の身の回りの お世話をして参りましたが・・・、このような労いをして頂けるとは・・・。」 メアディル「人は1人では生きてはいけません。それをこの風来坊の旅路で思い知らされました。 それに・・・こちらにいるマスターには、本当にお世話になりっ放しです・・・。」 貰い泣きをしだしたメアディルが俺を見つめてくる。その彼女の傍らに進み跪き、右手を 優しく掴んで口づけをしてあげた。 ミスターT「それはないよ。メアディルが常に思っていた事が開花しただけだから。自分の生き様は 何なのか、それを見つける旅路だった。回帰した先は人を敬い労う精神。それは財団の 運営方針に繋がっていると思う。エリシェ達の生き様も同じだから。」 メアディル「はい・・・。」 ミスターT「お前の成長に一役買えた事を、俺は一生涯の宝とするよ。ありがとう、メアディル。」 最後の言葉で俺に抱き付き、再び大泣きしだす彼女。その彼女を優しく抱きしめてあげた。 僅かながらの付き合いだが、本当に成長したと痛感できた。 各運営スタッフ全員を代表して、チーフにキーホルダーを手渡していくメアディル。そんな 彼女を後ろから見つめていたが、これで11歳とは思えないほど大人びいたわ。 僅か数週間の旅路は、彼女を格段に強くさせていった。自分の生き様を見つめ直す風来坊の 旅は完遂したと言えるだろう。 その後はフルコースとも言える夜食を堪能する。色々な面で吹っ切れたメアディルは今まで にないほど輝いていた。 これから色々な事があるだろう。その荒波に揉まれながらも、力強く生きていくと確信して いる。 翌日。数々の人々に見送られて出発した。メアディルが大きく成長した事に周りは感激して いる。その立役者が俺なのだと何度も言われた。 正直な所は背中を押しただけに過ぎない。メアディル自身は既に答えを知っていて、それを 俺の元に巡り逢って確認しただけだ。 これも俺なりの生き様の1つだろうな。6人の妻達とのコミュニケーションも大切だが、 他の人達にも同じような労いを続けていかなければならない。 まだまだ頑張らねばな・・・。 その後、30歳のメアディルと再開するのは19年後の話・・・。 ヒッチハイク・終 |
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