アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第02話 奴隷のダークエルフ リドネイの視点〜
    〜リドネイの視点〜

    私はリドネイ。ダークエルフの一族で、今は奴隷の身分。いや、今までは、と言うべきか。

    とある事情によって奴隷の身分へと陥り、苦境に立たされた・・・。しかも、身体中に回復
   不可能なレベルの傷を負わされる・・・。更には不治の病も植え付けられた・・・。

    それが何なのかは、私の浅はかな知識では分からない。だが、間違いなく自身の命に関わる
   ものなのは痛感した。それに、これらの負傷を負わせた相手も、明確に覚えている・・・。
   決して、許せるものではない・・・。

    奴隷の身分に至ってからは、各街の奴隷商館を転々とさせられた。幸いなのか、私に植え
   付けられた負傷により、誰も買い手となる存在はいなかった。もし居たとしたら、間違いなく
   慰めモノとして扱われただろうな・・・。

    ラフェイドの街に訪れてからは、ずっと檻の中で過ごしていた。ここでも買い手はおらず、
   ただ絶望が支配し続ける日々を過ごした。時間と共に、身体の負傷も悪化していった。

    どのぐらい経過したかは分からない。私の体力が限界に達しようとした時、その方は突然
   現れた・・・。


    初めて見た時、正に変人だと思った。いや、そう思うしかない。黒い覆面と仮面を着用して
   いたのだから。この変人が、私の主人となる事を直感した。

    変人であれば、その後の対応は容易に想像が付く。私の身体を慰めモノとして、雑に扱うの
   だろう。力のない私には、それを否定も拒否もできない。

    しかし、奴隷商が使った隷属魔法を受けた時、その変人の意識が感じ取れた。痛烈なまでの
   苦痛に苛まれた一念・・・。私の境遇など話にならないレベルである・・・。

    どうしてそこまで、己を叱責し、苦しめ続けるのか。その理由は追い追い知る事になる。


    衣服店に同伴されたのにも、非常に驚かされた。奴隷の私に、何と衣服を見繕ったのだ。
   ただ、下着以外が男物だったのには、別の意味で驚かされたが・・・。この時は素直に、流石
   は変人だと思ってしまったが・・・。

    ただその後、宿屋に案内させられて身構えた。やはり、その手の男であったのかと思った。
   だが、その時の私にはどうする事もできなかった。

    そして・・・驚愕させられる事になる・・・。


    その変人たる彼は、私の傷と病を超絶的な魔力と魔法で治療させてしまったのだ・・・。

    傷の方も、病の方も、最早治る見込みはないと確信していた。それが、たった数分の治療で
   完全に癒えてしまった。流石の私も驚愕し、身体中の包帯を剥ぎ取り見入ってしまう。

    すると、その変人・・・いや、その恩人がソッポを向くではないか。私の方も、今の出で
   立ちに、この上ない恥かしさに襲われた。だが彼は、私の事を女性と見てくれている事に気が
   付いた。

    こんな私を、態々治療してくれたのだ・・・。これがどれだけ嬉しかったか・・・。今も
   当時を思い浮かべると、恥かしさと共に胸が苦しくなる・・・。


    同時に、彼の傍にいた精神体の御仁には驚愕させられた。私は種族特有の力なのか、精霊的
   な存在を見る事ができた。ただ、先の負傷による体力と精神力の低下から、それを窺う事が
   できなかった。

    ところが、魔法治療で完全回復した事により、再びその力が舞い戻ったのだろう。彼の傍ら
   にいた御仁を目の当たりにしたのだ。

    彼女の存在を窺って、度肝も抜かされた。精霊どころの話ではない。この世界を創生した、
   創生者ティルネア様その人だったのだ。

    ダークエルフ族にも伝承される、唯一無二の存在。数多く存在する神・・・いや、御仁は
   この表現を嫌っていらっしゃったので創生者と呼ぶが、数多く存在する創生者の中で最強の
   存在である。

    その御仁が、恩人と共にいらっしゃったのだ。度肝を抜かれたのは言うまでもない・・・。

    だが・・・そんな事を忘れさせる出来事を、私は経験する事になった・・・。


    治療を終え、ティルネア様と共に衣服を纏い、恩人と対面した。私は感謝の思いを思うも、
   何をしてよいのか思い悩んでいた。すると彼は、私の前へと進み出て、何と私の首に施された
   奴隷の首輪を外してしまったのだ・・・。

    それだけはない。彼とティルネア様が私の胸に手を向けると、何と奴隷を隷属させる魔法を
   打ち消してしまったのだ・・・。

    その瞬間、私にあった楔は消え去った・・・。そう、忌々しい楔である・・・。そして、
   二度と得る事はないと諦めていた、自由を得る事ができたのだ・・・。想像を絶する歓喜が
   襲い掛かって来たのは言うまでもない・・・。

    同時に、想像を絶する不安も襲い掛かって来た。これは現実なのか、と。それに、目の前の
   恩人の意図が全く読めないのもあった。


    恐怖の何ものでもない。確かに、負傷と奴隷という楔からは解放されたが、それ以上に心に
   楔を打たれ、支配されたと言うしかない。

    そんな私の考えを、彼は一蹴してしまった。私と対等な立場、盟友と言う不思議な間柄を
   望んだのだ。ティルネア様は戦友以上と仰っていたが、それ程までの崇高なものなのだろう。

    そして痛感した。奴隷商が奴隷の隷属魔法を使った時、彼の一念を察知した。アレが何なの
   かと問い続けていたが、彼自身の境遇によるものだったと。


    後訊きになるが、彼は地球という異世界から召喚された人物だった。ティルネア様の遂行者
   として呼ばれたのだという。そして、彼が就いていた職業が警護者だった。

    向こうの世界では、警護者は護衛を携わる存在らしい。だが、その生き方は筆舌し尽くし
   難いものだった。特に驚愕したのは、私と同じ奴隷に近い存在を救出した時らしい。

    そう、奴隷の隷属魔法を受けた時に感じた一念。それは、私に対しての憂いの思いだった。
   私を奴隷として用いる事を、身が裂ける思いでいたという。

    故に、私を奴隷から解放してくれたのは、彼が必ずそうするのだと誓っていたからだと。
   その流れにより、傷と病の完全回復を行ってくれたとも。


    これ程までの変人・・・いや、恩人は他にはいない・・・。初対面時は、確かに変人だと
   思ってしまった・・・。それは心からお詫びするしかない・・・。

    だが・・・そう、変人だと言わざろう得ない生き方をしていたのだ。それも意固地なまでに
   貫くように、である。

    彼は共に戦う存在を求めてはいたが、私は彼とのこの出逢いが運命であると痛感している。
   一体全体、何処でどう至れば、この様な事になるのか教えて欲しい・・・。


    今も気さくに笑う彼こと、ミスターT殿。覆面と仮面を装着した変人・・・失礼・・・。

    それでも、私の苦痛を取り払ってくれた、心から敬愛する恩人。そして、彼ならば、私が
   悲願としている事を達成してくれると確信が持てた。ティルネア様のご加護を受けている存在
   なのだ、彼であれば如何なる障壁だろうが叩き壊せる。

    ・・・利用しようとは絶対に思いたくない。しかし、彼でなければ達成できないだろう。
   時が来たら、この思いを打ち明けたい・・・。

    そして・・・それが達成できたのなら・・・、彼に身も心も全て委ねたい・・・。私の苦痛
   を取り払ってくれた、心から敬愛する彼のために・・・。

    〜リドネイの視点、終了〜

    第3話へ続く。

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