フリーダムハート 自由なる勇将ヴィアラシュア  暗黒皇帝ディーラの野望
    〜第2話 ルッド港襲撃2〜
   3人がルッド自警団事務所に向かう途中、左方面から急ぎ走って来る人影がある。アシリアと
   ゼランは別に気にも止めなかったが、カシスだけは気なってしょうがなかった。走って来る
   人物は女性らしく、後ろには柄の悪そうな男達が数人ついてくる。
   女性の方はカシス達の姿を見て安心したのか、3人に近づくとそそくさげに後ろに隠れた。
ゼラン「な・・何なんだこの子は?」
女性「た・助けて下さい・・・。」
   アシリアとゼランが困った顔をしたが、カシスだけは助けるつもりでいた。それは後から来た
   連中がどう見ても嫌な奴等に見えたからだ。
男1「おいあんた達、そのエルフさんを渡してもらおうか。」
男2「そうだ、その方ははある方に呼ばれているんだ。」
   アシリアとゼランも思ったらしい、この女性を絶対助けようと。だが2人が行動に出る前に、
   男達はカシスを見るなり驚きの表情をする。男達は何も言わず、その場を去っていった。
   その場にいるアシリアとゼラン、そして初対面の女性は何がなんだか分からなさそうな表情を
   浮かべる。その後我に返った女性はカシス達に礼を述べだす。
女性「あ・・ありがとうございます・・・。」
ゼラン「なあ、あんたは一体何者なんだ?」
カシス「場所を変えよう、自警団は後回しだ。」
   カシス達は町の中央にある公園に向かい、女性が追われていた理由等を詳しく聞く事にした。
   4人は公園に入ると、入り口付近の木の下に座る。直後アシリアは何かを思い付いたらしく、
   そそくさげに3人の元から離れていった。

アシリア「はい、どうぞ。」
   アシリアは近くの模擬店でコーヒーを買い、カシス達に手渡していく。公園には大勢の町民が
   集まっており、憩いの場であった。
女性「ありがとうございます。」
アシリア「まずは自己紹介ね。私はアシリア、こちらはカシスさんとゼランさん。」
カシス「よろしく。」
ゼラン「よろしくお嬢さん。」
女性「私はメイといいます。」
   メイは耳の尖りが印象強い、エルフ族の少女。ゼランはエルフを初めて見るらしく、興味心身
   で彼女を見つめる。その視線に気づいたのか、メイは何か不安そうだ。
カシス「何故追われていたんだ?」
   カシスはそんな事を気にせず、追われていた事を聞きだす。
メイ「私の友人のイザルスさんがこの町にいると聞き、エルフの里から来たのですが・・・。」
カシス「ここのチンピラどもに目をつけられたと。そこまでしてなぜイザルスに会いたいんだ?」
メイ「・・・私の事を助けてくれた命の恩人なんです。それで・・・お礼が言いたいんです。」
   メイの発言にカシスは別の一念があると気がつく、だがあえて触れなかった。それは初対面の
   アシリアを見ているかのようで、内容がすぐに分かったからだ。
カシス「分かった、イザルスと会うまで俺がお前を守ろう。ボランティアだ。」
   カシスはそう語るとメイを見つめる。それを聞いた2人は驚いた表情を見せた。
ゼラン「へぇ〜・・・、お前にしては珍しい。」
アシリア「そうですね、私達の時は戸惑っていたのに。」
カシス「イザルスと会えばこの事が分かるような気がする。メイの事は彼に任せてもらおう。」
メイ「ありがとうございますっ!」
   メイは嬉しさのあまり、カシスの右手を握りしめる。だがメイは握手を通してカシスが持つ
   何らかの力を感じ取った。それは何とも言い難いものである。でもそれは以前から知っている
   ような、どこか懐かしいものであった。
メイ「・・・・・。」
アシリア「どうしましたかメイさん?」
   カシスの右手を握ったまま黙りこんでいるメイにアシリアが話し掛ける。彼女の呼びかけに
   我に返り、メイは恥ずかしそうに握っている手を離した。
メイ「あ・・ご・ごめんなさい・・・。」
ゼラン「ま、無理もないか。カシスは美形だからな、女性がクラクラっとくるのは当たり前。以前に
    これと同じケースがあったからなぁ〜。」
   ゼランはアシリアを見つめそう話す。アシリアはその言葉に苦笑いをした。
カシス「・・・能天気な奴だ。」
   カシスはゼランの発言を聞き、同じく苦笑する。4人はコーヒーを飲み終えると、再びルッド
   自警団事務所へ向かう。メイにはアシリアが訳を話し、暫くの間一緒に行動する事にした。
ゼラン「それにしても・・・。」
   ゼランはメイを見て不思議な者を見ているような顔をする。それに気づき、メイは恥ずかし
   そうな表情をした。
メイ「あ・あの・・・何でしょう?」
ゼラン「いやなに・・・エルフなんて初めて見るからさ、驚いているんだよ。」
アシリア「私は以前に見た事がありますよ。確か庭園の庭師にエルフの方がいましたから。」
   その発言を聞いたカシスは驚きの表情を浮かべる。それは庭園の庭師と言ったからだ。
   彼女はキラーハウンド以前の記憶がないと言っていた筈だった。庭園の庭師、まるで城の内部
   にいる事があったような話し方。
   カシスは確信が持てた、アシリアがどこかの皇女である可能性が。だが本人とゼラン・メイは
   そんな事お構いなしに話し続けている。カシスは今はまだ触れない事にした。

メイ「ここがそうですか〜。」
   4人はルッド自警団事務所に到着し、早速事務所内へ入って行く。そこは殆ど人がいなく、
   人員不足だという事が頷けた。
アシリア「あの〜こちらで仕事があると聞いて来たのですが。」
   受付にいる男性に話し掛けるアシリア。その男性には見覚えがあった、先程メイを追っていた
   男達の一人だったからだ。
係員「あ・・・あなた達はさっきの・・・。」
ゼラン「これはどういう事なんだ?」
カシス「・・・なるほど、メイを追っていた訳が分かった。彼女を追えと命令したのはイザルスだ、
    それ以外考えられない。」
   カシスの発言を聞いたからか、事務所奥から男性が出てくる。それを見たメイは笑顔になる。
メイ「イザルスさんっ!」
アシリア「この人がイザルス?」
イザルス「申し訳ありませんでした。彼等にメイを見つけたらつれて来るようにと言ったのですが、
     外見が怖そうなので追われていると勘違いされたようで。」
   バツが悪そうに頭を掻くイザルス。確かに受付にいる男性やイザルスと一緒に奥から出てきた
   男達は柄が悪そうだった。これでは捕まえようとして見えてしまうに違いない。
カシス「だが納得いかない点がある、それは彼等が俺を見るなり去っていった事だ。」
イザルス「実は、あなたも見つけたら連れてくるように言っておいたのです。」
   意外な発言にメイを除く3人は驚いた。カシスはその理由を聞きだす。
カシス「ほう、それはまた何故なんだ?」
イザルス「明日の早朝、ルッド港に襲撃するとの予告が入りまして・・・。ここルッドでは自警団は
     皆船等の守備に回っていて人手が足りなかったのです。」
ゼラン「あのさ〜・・・こんな回りくどい事をしなくてもよ、しっかり理由を言ってくれれば手を
    貸したのにさ〜。」
   ゼランが厄介そうに話す。確かに他の人から見れば回りくどいやり方である。そんな事に構わ
   ず、カシスが質問を続ける。
カシス「襲撃と言ったな、相手は誰なんだ?」
イザルス「分かりません。ですがここが港町と考えると、海賊の可能性があります。」
アシリア「山賊や盗賊の可能性もありますよ。」
カシス「アシリア、ここは港町だぜ。周りに山はない、山賊の可能性はゼロ。また町の周辺は大壁で
    囲まれている。盗賊が入り込んだとしても、すぐにイザルス達に見つかるに違いない。一番
    確実な襲撃方法は港からの船による強襲、つまり相手は海賊となるんだよ。それに船なら
    偽装しての侵入が可能だ、しかも多くの人員や物資を導入できる。」
   カシスのキレのある発言に、一同驚きの表情を浮かべる。そして敵に回したくないとつくづく
   思うのであった。
ゼラン「・・・キレ者だな、カシスは・・・。」
イザルス「さすがカシスさん。噂に聞いていましたが、洞察力が人一倍強力ですね。」
カシス「お世辞はいい。とにかくこの仕事、受けさせて貰うぜ。」
イザルス「ありがとうございます。」
   イザルスが頭を下げると他の男達も頭を下げる。どうやら外見は陰険そうではあるが、心は
   優しい者達らしい。
   そこに2人の男性が入室してくる。イザルスは2人を見ると紹介しはじめた。
イザルス「そうそう、紹介します。ここの自警団隊員のメンバーです。」
男性1「グレスといいます。主に港周辺の警備を担当しています。」
   グレス。その高い身長から、3人は驚きの表情をした。軽く2mは超えていると思われる。
   それに顔が獣顔である。これには何も知らされていない者が会えば、必ず驚くであろう。
男性2「アルビスです。町の医療担当をしています。」
   アルビス。肌が黒色に近く、これも2人は驚きの表情を浮かべた。それにメイもアルビスとは
   初対面であったため、相手の異形さに驚きの表情をする。顔立ちはグレスとは違い、メイと
   同じ人間風である。そして一番の特徴はメイと同じ尖った耳であった。
アシリア「グレスさんは背が高いですね・・・。」
メイ「アルビスさんは肌が黒い・・・。」
グレス「私はオーガ族ですから、身長だけはどの種族より高いですよ。」
アルビス「私はダークエルフ族。メイさんはエルフ族と聞いています。私と貴女の祖先は同じ種族
     だったのですよ。」
メイ「ではお兄さんという訳ですね。」
アルビス「ハハハッ、確かにそうですね。」
   メイはグレスとアルビスに普通に接しているが、アシリアとゼランはどこか違和感があった。
   だがカシスは全く平然としている。そうカシスは全ての人種を同じように見ているからだ。
イザルス「改めて、イザルスです。ルッド港の自警団隊長を勤めています。」
カシス「こちらも改めて、カシスという。」
ゼラン「ゼランだ、よろしくな。」
アシリア「アシリアといいます、よろしく。」
   直後カシスはイザルスの身体から不思議な力を感じ取る。人間とは違うその気配にアシリア・
   ゼラン・メイもそれを感じ取りだした。
アシリア「イザルスさんって、何だか不思議な感じがしますね。」
メイ「そういえば・・・。」
ゼラン「あんた人間なのか?」
   3人が不思議そうな表情を浮かべ、イザルスが何者なのかを問う。それを聞いたカシスは、
   彼が代理でその答えを述べだした。
カシス「クリアーヒューマンだな。」
イザルス「・・・博識ですね。合成人の事をご存じとは。」
アシリア「合成人?」
カシス「かつて存在したという古代人が、全ての人種の長所を掛け合わせて創ったとされる種族。
    全ての点でどの種族より勝っており、竜族の次に最強とも言われている。」
   カシス以外の者達は驚きの表情を浮かべる。カシスの博識には驚かされているが、合成人と
   いう種族自体に驚かされていると言っていいだろう。
カシス「だが合成人だろうが何だろうが、イザルスはイザルスだ。周囲でそんな事をネタにからかわ
    れても気にするなよ。」
イザルス「・・・ありがとうございますカシスさん。」
   アシリア・ゼランは合成人が人間をどのように見ているかという観念を知っている。
   彼らは人間の変わりに自分達が人間に成り代わり、繁栄を試みていると思ってるのだ。だが
   それは合成人が優れた種族であるが故に、人間が妬み嫉妬しそのような嘘偽りの汚名を着せた
   のだ。
   しかしカシスはそれを見定め、イザルスは1人の生命体であると言い切った。これを聞いた
   イザルスは感動せざろうえなかったのである。
   彼は直感した。カシスが偉大な人物であるという事に。それはある意味確信である。

   一通り自己紹介を済ますと、グレスとアルビスが現在のルッド周辺事情をイザルスに話す。
   カシス達はそれを聞きながら今後の作戦を考える。
ゼラン「ところでイザルスさんよ、相手のここを襲撃する目的は何なんだ?」
イザルス「それが分からないんですよ。」 
   バツが悪そうに頭を掻きながら、イザルスは本当に分からない表情を浮かべる。カシスは本当
   なんだなと直感、自分の脳裏で相手側の目的を思考する。
メイ「分からないのに襲撃するのは意味が分かりませんよ。」
アシリア「とにかく、悪い奴等からこの港町を守り通さないと。」
   作戦会議となった場にちゃっかり溶け込むアシリア・ゼラン・メイ。だがカシスは何かの
   思い付きがあった様子で、椅子に座ったまま動こうとしない。
   そんな彼を遠見しながら会議は続いた。
                               第2話・3へ続く

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