〜第4話 地下水脈の罠〜 ルディスが一緒に行動しはじめて早1週間、俺らはアリーナやミッションに出撃し生活の資金 を稼ぐ。俺を含め4人は金回りが良くなり、それ程苦もなく生活を続けている。 ユキヤ「さっきメカニック長が俺宛に依頼が届いていると言っていた。かなりヤバそうなものだ そうだ。」 俺はメカニック長からミッションの依頼がある事を3人に告げた。3人は興味深そうに俺の 話しを聞いている。 エリシェ「内容は何なのですか?」 ユキヤ「地下水脈奪還らしい。何でもテロリストにシティの地下水を汲み上げているダムを占拠 されたそうだ。早急に解決して欲しいと言っている。」 そう話した途端、3人の眼つきが変わった。どうやらこの事に興味を持ったらしい。 ルディス「面白そうじゃん、私達も行こうよっ!」 ユキヤ「・・・いや、今回お前たちはここで待機していてくれ。これは俺が1人でやる。」 テュルム「そんなズルいですよ、私達も行くわ。」 ユキヤ「・・・頼む・・・。」 俺は厳しい表情で3人を見つめ、そう語る。3人は俺の真剣さに身を引いたようであった。 エリシェ「・・・行きましょうテュルムさん・ルディスさん。」 3人は俺の部屋から出て行く、機嫌を悪くしたみたいだ。だがそれでいい、今回の依頼は かなり面倒なもの。足手纏いになるのが目に見えている。暫くしてから俺はガレージに行き、 メカニック長に出撃準備を頼んだ。 ユキヤ「オヤジ、ACの換装と装備は万全か?」 メカニック長「あ・ああ、大丈夫だ。言われた通りに組み上げてある。」 今回の依頼を受けた直後、俺は愛機を大幅にパーツチェンジさせた。ヘッドとアームは従来と 同じだが、コア・レッグを耐久性重視の重装甲パーツに変更。武装もレーザーライフルを 実弾系マシンガンに、小型ミサイルポッドを大型ロケット発射装置にチェンジする。機雷弾 発射装置とレーザーブレード発生器はそのままだ。 ユキヤ「あいつらはここに来なかったか?」 メカニック長「・・・来ていない。」 ユキヤ「そうか・・・可哀想な事をしたな、3人に会ったら俺が謝っていたと言ってくれ。」 3人が俺の部屋を出てから30分、どこかのアリーナ見学にでも行ったのだろうか。それに してもメカニック長の言動がどこかおかしい、まるで何かを隠しているかのようだ。だが俺は あえて触れず、愛機に乗り込みガレージを後にした。目的地はアンバー・クラウン郊外。 そこに地下水脈があるらしい。 ガレージを出てから何か場の雰囲気がおかしい、いつもの コクピットではないようだ。周りを見回すと通常の重装甲コアユニットより広々としている。 ・・・まさかなと思ったが・・・やはりそうだった。 ユキヤ「・・・・・ったく、しょうがねぇなぁ〜・・・。」 おかしいのも頷ける、俺が座っている左右と後方に人の気配を感じていたからだ。それもその 筈、彼女達が俺のACに乗り込んでいたからである。 エリシェ「ごめんなさい・・・。」 左側からエリシェの声が、右側にはテュルム・後方にルディス。まったく・・・。 ユキヤ「帰れ・・・と言っても無駄だろうな、邪魔をしないのなら構わない。」 ルディス「フフッ、やっぱユキヤは優しいね。」 テュルム「でもやっぱ狭い・・・。」 ユキヤ「仕方ないだろ、本来1人用のコアなのに4人も乗っているのだからな。それでも乗れて いるのが不思議なくらいだ。」 エリシェ「実はね・・・。」 エリシェが語るにはあの後の約30分の間、俺のACの重装甲コアユニット内部をメカニック 長と一緒に従来より広くしたと言うのだ。確かにそうでなければ狭くても4人も搭乗は絶対に 不可能だ、メカニック長も人が良過ぎるな。 ユキヤ「まったく・・・。」 俺はその場の雰囲気や行動からそう呟く事しか出来なかった。4人には頭が下がる。その後 目的地へ向かう途中、俺達は段差がある地形でやはりといった具合に悲鳴をあげる。その度に 3人の体当たりに悩まされた。 エリシェ「ご・ごめんなさい・・・。」 ユキヤ「いちち・・・やっぱ無理があった。だが両手と後ろに花とはこの事かな・・・。」 俺はからかい半分で呟き、3人を見つめる。その途端3人は顔を赤め、更にどついて来た。 ・・・言うんじゃなかったな。 エリシェ「もうっ・・・ユキヤさんったら。」 テュルム「私達を甘く見ないでよね。」 ルディス「そうよユキヤ。」 声が震えている、驚いたのか嬉しいのか。女心は分からんものだな。その後暫く段差が続き、 同じく体当たりに悩まされ続けた。 数時間後、俺達は目的の場所へ到着する。愛機を地下水脈入り口で停止させ、その場で作戦を 練りだした。 ユキヤ「ここがそうだ。」 エリシェ「なんか不気味な所ですね。」 ユキヤ「さて、ここにいる以上何かやってもらうぞ。エリシェはレーダー係を担当、テュルムは 武器切り替え係・ルディスは後方モニター係だ。」 ルディス「任せて!」 テュルム「さ〜て、行きますかね。」 俺は愛機を地下水脈内部へ進めて行った。内部はACが余裕で通れるぐらいの大穴だ。 エリシェ「大きい穴ですね。」 ルディス「この大きさはACが通れるように作ったんだ、・・・とすると・・・。」 ユキヤ「AC戦闘があるかもな。」 ACが通れるような大穴を作る目的は作業の効率を上げるのと同時に、戦闘を可能にする目的 も挙げられる。とするとこの依頼は罠の可能性が充分に考えられる。 テュルム「それにしてもこの武器のチョイス、洞窟戦に効率のいいものばかり。」 ユキヤ「地下水脈って聞いたからな、洞窟戦は避けられない考えた。機雷弾で相手の様子を見て、 マシンガンや大型ロケットでケリをつける。まあ機雷弾と大型ロケット弾は爆風で機体に 損傷を与えるからな、その代わりにレーザーブレード攻撃を使う手もある。だからACを 白兵戦用に組み替えたんだ、耐久戦重視型にな。これなら狭い通路でAC戦になっても 充分対応可能だ。」 そう話しながら3人を見つめると、俺の熱弁による戦術に驚いているようだ。でもちょっと 意味が違ってみえたようである。 テュルム「へぇ〜・・・ユキヤさんって結構やり手なんだね。」 ルディス「私はもっと・・・バカみたいに見えてたんだけど、今回の話で見直したよ。」 ユキヤ「そりゃあどうも、嬉しい限りですよルディスお嬢様。」 今度は俺がルディスを軽くどついた。ルディスは参ったとばかりに謝る。 ルディス「ご・ごめんなさいぃ〜・・・。」 エリシェ「フフフッ、面白いねルディスさんは。」 ルディスの言動を見てエリシェとテュルムは大笑いした。ルディスはこの場にいる面々の中で ムードメーカー的存在だと思う。また彼女も自ら望んでそうしているのかもしれない。 俺達は地下水脈を更に深く進んだ。相手の戦力が分からない以上、コクピット内部には緊張の 空気が漂っている。 ルディス「あれっ・・・。」 ルディスがそう呟く、俺は愛機を停止させルディスに問い質した。 ユキヤ「どうしたんだ?」 ルディス「ねぇねぇ、この足跡って・・・。」 エリシェ「ACですね。」 モニターに映し出された足跡をルディスが発見、それを見てエリシェがそう呟く。 ユキヤ「この足跡からして・・・脚部はLN−501とLNKS−1A46Jかな。軽装と重装の ACとみていいだろう。」 エリシェ「それが敵か、それとも見方か・・・。」 テュルム「戦闘になるのかしら・・・。」 ユキヤ「とにかく先を進もう。」 直後ACが大きく揺れる。この時近くで戦闘が開始された事に直感した。俺は愛機を急いで 最深部へ進ませる。かなり揺れが大きい、どうやら2体のAC以外にもいるようだ。 ルディス「うわぁ〜、広い所に出ましたよ!」 最深部は大空洞になっており、中央の部分で2体のACと6体のACとが交戦している。 テュルム「やっぱり戦ってるよ、2対6か。どっちが見方で敵なんだろう・・・。」 ユキヤ「それは決まっている。」 俺は戦闘が行われている戦火へ愛機を進める。それは2体のACから助けてという念が感じ 取れたからだ。迷う事なく6体のACを敵と直感する。 レイヴン1「また敵?!」 軽装ACから通信が流れる。どうやらこちらを敵の増援と思ったようだ。 ユキヤ「余所見をするな、敵は向こうだ。」 俺は2体のACを庇うように前面へ進み、6体のうち1体に的を絞り大型ロケット弾を発射。 大型ロケット弾を直撃した敵ACは粉々に吹き飛んだ。 ルディス「敵ACは陽炎です。武装はマシンガンとブレード。」 テュルム「武装をマシンガンに切り替えます。」 エリシェ「敵ACは散開、後方に2機移動しました。」 3人は状況にあった対応をしてくれた。敵位置の通知や武装の変更等、まるでヘッドパーツの コンピューターみたいである。 テロリスト1「クソッ、増援がいたとは。」 レイヴン2「増援じゃないわよ!」 ユキヤ「そう、困った奴を助けるお節介者だ。」 2人の方もかなりのやり手だ、陽炎の行動をものともせず動いている。俺達が動くより迅速に 対応していた。1体、また1体撃破していく。 レイヴン1「残り1体、ケリを付けるっ!」 見方側のACが最後の陽炎を撃破。3人はそれを見てホッと溜め息をつく。どうやら相当緊張 していたようだ。直後見方側ACから通信が入ってくる。 レイヴン1「誰だか知らないけど、危ない所をありがとう。」 レイヴン2「もし来てくれていなかったらやられていたよ。」 相手側はコクピットハッチを開きながらそう語った。こちらを見つめる顔を見て俺は苦笑いを する。また女性レイヴンだ、しかも2人。3人が喜びそうだなと心の中でそう呟く。こちらも コクピットハッチを開き、3人が外に出る。それを見た相手側は驚いた顔をした。 レイヴン1「ウソッ、3人も乗っていたの?!」 ユキヤ「4人だ。」 そう語り、俺もコクピットから顔を覗かせる。2人は更に驚いたようだ。まあ1人用のACに 4人も搭乗していれば誰だって驚くのは当たり前か。 ルディス「あなた達はどうしてここに?」 ユキヤ「その前に自己紹介だろう、俺は平西幸也。」 エリシェ「三島エリシェと言います。」 テュルム「諏川テュルムよ。」 ルディス「岩佐ルディスです。」 3人が自己紹介している際、再び不思議に思った。無意識に初対面の人間と打ち解けている、 不思議でしょうがない。 レイヴン1「私は西川ミュナよ。」 レイヴン2「岡崎ティムです、よろしく。」 西川ミュナ・岡崎ティム、2人も以前にどこかで聞いた名前だ。 ルディス「続きですが、どうしてここに?」 ミュナ「依頼を受けたからよ。何でも“風を殺せ”と言う訳の分からない内容。」 ティム「風を殺せだなんて何なのかしら。」 エリシェ「・・・ユキヤさん、これは・・・。」 ユキヤ「おそらく・・・。」 俺が話そうとした時、突如地下水脈全体が大きく揺れ出した。どうやらこれは俺を殺す為の 罠だと直感する。俺は3人にコクピット内部に戻るように話し、2人に通信を入れた。 ユキヤ「2人とも脱出するぞ、これは罠だ!」 ミュナ・ティム「わ・分かりました!」 ミュナとティムもコクピット内部に戻り、ACを動かす。俺達は地下水脈を急いで離脱した。 数分後、俺達は無事地上に出る。そして崩れ去った地下水脈を見つめていた。 ティム「これはどういう事なんですかっ?!」 ミュナ「そうですよ、あなたが私達をハメたんでは?!」 ユキヤ「怒らず俺達と一緒に来てくれ、しっかり訳を話すから。」 怒るミュナとティムを落ち着かせると、俺達はガレージへと引き上げていった。ここに集った 6人、どうやらただの偶然ではないらしい。俺は過去を振り返り、考えられるだけの共通点を 探り出す。3人は既に2人と打ち解けているらしく、AC通信を使いお喋りをしていた。 テュルム「お2人さん、あなた達のガレージって・・・ひょっとして157Dじゃない?」 ティム「よくご存知ですね。」 テュルム「ご存知も何も疾風のミュナ・鉄壁のティムといったらここらでは有名よ。」 ルディス「疾風のミュナと鉄壁のティム?!」 エリシェ「あのアリーナランク20位クラスに名を列ねているランカーですか?!」 ミュナ「ヘヘッ、会う人みんなそう言うわよ。」 彼女達の会話を聞き続けているうち、俺は思い出した。だがここでは話すのを止め、黙って 愛機を動かす。・・・運命か・・・かなり大きいものだな。 再び数時間後、俺達はガレージへと戻った。こちらが帰還してきた事に気付くと、メカニック 長がバツが悪そうに頭を掻きながら出迎える。 メカニック長「ユキヤすまねぇ、3人の事黙っていて。」 ユキヤ「まったくだな、でも3人とも大活躍したよ。ちょっと狭かったけどな。」 ミュナ「こんにちはメカニック長さん。」 ティム「ご無沙汰振りです。」 メカニック長「久し振りだなミュナ・ティム、お前らも一緒だったのか。」 俺はメカニック長に今までの経緯を話す。その後6体のACのメンテナンスを頼むと、俺らは 自室へと向かった。それにしても5人とも俺より年下でレイヴンとは驚いた、年齢的からどう 見ても子供ないし学生。今の世の中が彼女達を普通の生活からレイヴンに転職させたのかも しれないな・・・。 ティム「それでは訳をお聞きしましょうか。」 自室に入るなりティムが凄みの声で問い質してくる。先程の罠が相当頭に来ているらしい。 テュルム「な・なんか怒ってない?」 ミュナ「だって依頼を受けて行ってみれば敵は多いし罠にハマルし・・・。」 ミュナも少し怒り気味だ、まああ現状からすれば無理もないか。 ユキヤ「みんな俺に関係がある、過去にあった出来事でな・・・。」 ルディス「ど・どう言う事なの?」 ユキヤ「・・・5人とも過去に俺と会っている。もっともレイヴンになる前だがな。」 俺は思い出した彼女達との経緯を徐に話し出した。そう・・・徐に・・・。 5年前、俺はエリシェを助けた。その時暴走ACを倒している。同じく5年前、テュルムを 助けた。この時は小規模企業を壊滅させる。3年前、ミュナとティムを助けた。この時の敵は 黒いランカーACを倒す。そして1年前、ルディスを助けた。相手はテロリスト集団、無論 全て壊滅させる。この時の相手らにはある共通点があった。 エリシェ「その共通点とは?」 ユキヤ「・・・レイヴンズ・ネスト所属の企業やAC。つまりお前たちはイレギュラーとして排除 項目に載っていたんだ。だから殺しの対象に選ばれたんだよ。」 ルディス「私達、別に何も悪い事なんてしていませんよ。」 ミュナ「そうよ、物心付いた時はレイヴンだったし。」 ユキヤ「5人とも、企業の社長令嬢だろ?」 テュルム「・・・はい、以前はそうでした。」 テュルムをはじめ、4人とも同じく頷く。その表情は当時の悲惨さを思い出したようである。 ユキヤ「・・・力を持ち過ぎる者は全てを壊す、これに当てはまっていたんだよ。それが何が原因 かは分からんが、地下水脈で俺達を再び消そうとしていた。」 エリシェ「そ・・そうだったのですか・・・。」 ユキヤ「メカニック長やその部下達も排除対象に入っていた。メカニック長は企業にイレギュラー としてマークされていたらしく、殺されかけた時俺が助けたんだよ。それ以来俺の専属 メカニック長として行動している。」 ティム「そ・それじゃ・・・これからどうすればいいのですか?」 不安そうな声で4人を代表してティムがそう話す。4人も不安そうに俺を見つめている。 ユキヤ「個人での行動は極力控えな、3人か・・俺を含めた6人1組で行動しよう。これから先、 何があっても絶対お前達を守ってみせる。だからあまり心配するな。」 俺は出来る限りの笑顔で5人にそう話した。笑顔になっているかどうか不安だが・・・。 エリシェ「・・・ありがとう・・・。」 5人を代表してエリシェが礼を述べる。5人とも笑顔がもどった。 ミュナ「それと・・・あの時助けてくれてありがとう。」 ティム「私も助けられていたとはね、本当にありがとう。」 改めてミュナとティムが礼を述べた。さっき怒っていた2人はどこへ行ったのやら・・・。 俺はこの時こう思わずにはいられなかった、“運命”と。ここに集った6人は何らかの運命に 導かれて現われなのだ。俺を含めた6人、ここには強い絆が結ばれていると直感する。 そして・・・それは宿命でもあった・・・。 第5話へ続く |
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
戻る |