〜第6話 風の剣士〜
   最終決戦から2日後、財閥周辺は元の緑溢れる姿へと戻った。ユキナは世界をくまなく検索、
   残りの敵がいないかを探し回っている。過去の強者達もここに移住し、レイヴン達と一緒に
   地上を緑豊かな土地へと戻す事を手伝っている。善のシェガーヴァも悪のシェガーヴァの善と
   なる遺志を受け継ぎ、地上復興などに全力を尽くしている。
   俺は財閥の外で寝っころがり、青空を見つめる。暫く後、俺の旅立ちだ。世界中を流浪し、
   困っている人々を助けて回る。それが俺なりの罪滅ぼし・・・。
レイス妹「考え事ですか?」
   俺は外で瞳を閉じ、耳を済ませながら何も考えずにいた。そこにレイス妹が駆けつけてくる。
   レイス姉と全く同じ姿をして、なおかつ性格も同じ。唯一違う店は、姉よりお淑やかである
   事であろう。
ユキヤ「ああ。」
レイス妹「お隣、よろしいですか。」
   レイス妹は俺の隣に座り、こちらを見つめてくる。俺はゆっくり瞳を開け、青空を見つめた。
レイス妹「姉が悩んでいましたよ。ウインド様と一緒に旅立つかどうかと。」
ユキヤ「だが彼女は俺の妹の面倒を見ると言っていたが。」
レイス妹「その役は私が買って出る事にしました。姉ばかりに重役を任せられませんから。」
ユキヤ「フフッ、まったくもって似ているな。」
   俺は無意識に彼女の手を握りしめた。その温もりは姉レイスと同じである。
ユキヤ「妹達をよろしく頼む。」
レイス妹「任せて下さい。私が命をかけて育てます。ウインド様は他の同じような困っている人々を
     救ってあげて下さい。」
ユキヤ「了解。それと・・・レディシルバー、お前の異名にしな。」
レイス妹「レディシルバー・・・、・・・ありがとうございます。」
   徐に起き上がると、俺とレイス妹はガレージ内へと戻った。中では最終決戦勝利を祝って、
   宴会騒ぎな事をしている。まああれだけの死線を乗り越えたんだ、この位は大目に見よう。

デュウバ「あ〜、ウインド様〜っ!」
   頬を真っ赤に染めながら、デュウバが千鳥足で俺に歩み寄ってくる。相当飲んでいるようで、
   話す言葉が支離滅裂だ。いつぞやのレイス姉と同じ状態になっている。俺の腕にそそくさげに
   腕組みをすると、俺の顔をまじまじと見つめだす。
デュウバ「あ〜いつみても〜いいおとこですぅ〜・・・。」
レイス姉「デュウバ、そのぐらいにしときなって。」
デュウバ「いいじゃ〜ん、きょぉ〜だけはおおめにみて〜。」
   レイス姉妹に引き摺られながら、デュウバは皆の元へ戻されていった。実に面白い連中だ。
デェルダ「ウインド様もいかがですか?」
   今度はデェルダが軽く頬を染めながら、ワイングラスを俺に差し出した。彼女は酒には強い方
   なのかもしれない。俺は黙ってデェルダからグラスを受け取ると、徐にワインを飲みだした。
デェルダ「フフフッ、いつ見てもいい男性ですね。」
ユキヤ「デュウバと同じ事を言うんだな。」
デェルダ「当たり前ですよ。デュウバは私の娘なのですから。」
   笑顔でそう話す。昨日、彼女もレイス妹と同じ事を言ってくれた。妹を含め、レイヴン達の母
   として見守ってくれると。俺は何も言わずデェルダにその重役を任せた。
デェルダ「私達の事、決してお忘れにならないで下さいね・・・。」
   涙を流しながらデェルダは話した。俺は彼女の肩を軽く叩き、了解の合図をした。
ユキヤ「当たり前だ。生涯忘れない、俺の大切な弟子達だからな。」
   俺は自分が話した事に苦笑しながら、デェルダに優しくそう告げた。それを聞いたデェルダは
   優しく微笑んだ。ここにいるレイヴン全て俺の大切な弟子。と言うか俺の意思をしっかり受け
   継ぐ大切な家族だ。彼らなら後の世もしっかりと切り開いていってくれる事だろう。俺はそう
   確信し、またそう信じたい・・・。

   それから数時間後、ガレージ内は誰もいなくなった。俺は皆に態と酒を飲ませ眠らせた。俺の
   旅立ちは誰にも見られたくはない。ただ黙って去って行くだけだ。
ユキヤ「・・・あばよ。」
   俺は宴会前にウインドブレイドを財閥外へと移動させてある。ガレージ内にもあるが、それは
   他のパーツで組み上げたダミー機だ。ガレージ内に別れの言葉を小さく呟き、俺は黙ってその
   場を後にした。
シェガーヴァ「黙って行くのか?」
   外に出た時、シェガーヴァが待っていた。彼はサイボーグ、酒では全く眠くはならない。
ユキヤ「ああ、それの方が俺に合っている。」
シェガーヴァ「フフッ、お前らしい。」
   俺は右手を差し出し、握手を求めた。シェガーヴァも右手を差し出し、ガッチリとした握手を
   交わした。
シェガーヴァ「後の事は任せておきな。お前は他の人々を救え。俺は皆を守りながら、自分のやる
       べき事を行う。」
ユキヤ「ありがとう。」
シェガーヴァ「それと、同席したい者がいるらしい。」
   彼がそう話すと、俺の愛機の足元からレイスが出てきた。どうやら俺の旅立ちを待っていた
   ようだ。しかも愛機が待機してある死角に、彼女のACダークネススターがひっそりと待機
   してある。まったく、毎度ながら彼女には頭が下がる。
レイス「ウインドさん・・・いいえ、ユキヤさん。私も御一緒させて下さい。今度はレイヴン
    ではなく、1人の女として・・・。」
   俺は沈黙する、それは彼女の事だ。俺は彼女の自由を奪いたくない。今後、どれだけの辛い
   現実が彼女に降りかかるだろうか。そんな事を俺はしたくはなかった。
ユキヤ「・・・・・。」
レイス「もしかして私の自由の事を気にしていらっしゃるのですか?」
   そんな俺の心境をレイスはしっかりと読んでいた。そして彼女の決意が断固足るものだと俺は
   直感する。
ユキヤ「・・・負けたよお前には。ただ言っておく事は、辛くても弱音は吐くなよ。」
レイス「もちろんです、一緒に悩み苦しみましょう。私にとっては絶対的な幸せの時でもあります。
    決して弱音は吐きません。今まで私達を陰ながら支えて来てくれた貴方を、今度は私が支え
    続けていきます。」
   頬を染めながら力強く発言するレイス。これならもう何も言うまい。
ユキヤ「分かった。一緒に行こう。」
レイス「はいっ!」
   俺は手を差し出し、レイスは俺の手を握りしめる。これかよろしくなという意味合いが込め
   られた、大切な挨拶であった。
   俺とレイスは愛機に乗り込み、ゆっくりと歩行しだした。シェガーヴァは俺達が見えなくなる
   まで見送り、最後の門出を見守ってくれた。
   本当は平西財閥に残ろうと思っていた。だがシェガーヴァが転生した事により、俺の代わりと
   なってくれた。それにシェガーヴァ自身もそれを強く望んでいる。だから俺は旅立つ決意を
   固めたのだ。それに俺は1人ではない。俺を心配してくれる永遠のパートナー、レイス嬢が
   いる。今後彼女と一緒に戦えば、苦しい現実の苦しみも半分になる。普段の何気ない明るさも
   倍増する。今の瞬間が人生最高の喜び、俺はそう思った・・・。
   全てのレイヴンに捧げる・・・。それは今の世界にない人々を敬い助ける心を持って欲しい。
   それこそが今の世界に必要不可欠なものなのだ・・・。
   俺の永遠の闘争を、ここに記す・・・。
                                        完

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