〜第3話 元社長〜
   月面基地を攻略してから1週間、悪のシェガーヴァの軍勢は全く姿を現していない。地球で
   俺達を殺すのだと話していたが、相当の準備がいるようだ。まったく・・・大した戦略家だ。
ミリナ「やったぁ〜動きましたよ!」
   財閥の大型ガレージ内では、シェガーヴァのACをメンテナンスしているミリナとミウリスの
   姿があった。当の本人は指導側に回っており、彼なりの2人の強化であろう。遠隔操作で
   ヘル・キャットが動いた事にミリナとミウリスは大喜びで叫んでいる。
シェガーヴァ「ふむ、これなら量産体制は整えるな。奴らは大群で攻めて来るだろう。こちらも
       無人機となるACを配備しておいた方がいい。」
ミウリス「そうですね。」
ミリナ「ユウジさんが新たに手掛けたシステムは、やっと完成しましたね。」
シェガーヴァ「ユウジもやる事が沢山あっただろうに、先にいなくなるとはな。」
   表情変えずにコンピューターを操作するシェガーヴァ。だが心中では何かに気付いた様子。
   悪のシェガーヴァを憎んでいる事は事実だが、シェガーヴァにとって兄弟そのもの。彼が考え
   る事は全て彼に繋がっていると言ってもおかしくない。だが善と悪の感情だけは繋がらず、
   それ以外の自分が犯した罪に関しては共通して思う事ができた。
シェガーヴァ「・・・来るな。」
ミリナ「?・・・何がですか。」
シェガーヴァ「いや、独り言だ。」
   シェガーヴァはヘル・キャットの最終チェックに移る。コンピューターを操作する速度は、
   人間以上の素早さだ。
ミリナ「シェガーヴァ様のレイヴン歴は、当然最年長ですよね?」
シェガーヴァ「そうなるな、レイヴンズ・ネストの雛型を作ったのが私のオリジナル。それ以前から
       MT構想などは考えてはいたが、実際に行動に移すまでには至らなかった。」
ミウリス「どなたか古い付き合いの方はいらっしゃったのですか?」
シェガーヴァ「ウインドだ。かれこれ私が生まれてから幼馴染みのように接してきた。相棒とも言う
       べきか。」
ミリナ「ちょ・ちょっと待って下さい、そ・それは一体どういう意味なのですか?!」
シェガーヴァ「彼はクローンだ。かつて大破壊を起こしてしまった時、私は彼を殺してしまった。
       その後すぐにクローンとして転生させ、私の行いを正す為に動いてもらった。」
   ミリナとミウリスは驚愕した表情をし、何も言い出せなかった。そして俺が何故これほどまで
   強いのか、彼の発言によって知るのだった。
ミウリス「大破壊前の方なら・・・強いのは当たり前ですね。」
シェガーヴァ「私も正してもらったしな。」
   驚愕はしているものの、すぐに納得した様子だ。こういった突然の驚くべき現実には、相当
   慣れているようである。

デュウバ「今の所このような内容です。」
ユキヤ「そうか、分かった。」
   俺は財閥から離れた渓谷で、デュウバと連絡を取り合っていた。外部通信だと傍受される恐れ
   があるが、直接会うのは全く問題ない。それに悪のシェガーヴァ自身も黙認している様子で、
   彼なりの何らかの思いがあるのであろう。
ユキヤ「決戦があるまでは連絡を頼む。」
デュウバ「はい。私のような者がお役に立てて光栄です。」
ユキヤ「それはないだろ、お前は十分頑張っている。あんまり内気な考えはやめておきな。」
デュウバ「そうですね。レイスやミリナさん・ミウリスさん、そしてデェルダさんを助けなければ
     なりませんから。」
   以前会った時より顔色が良くなっている。目指すべき目標が見つかった人物は、希望に満ち
   溢れている。彼女は心配ないだろう。
デュウバ「レイスは元気ですか?」
ユキヤ「ああ、元気が良過ぎる位だ。」
デュウバ「フフッ、彼女らしい。」
ユキヤ「それじゃ行くぜ。」
   俺は会話を終え、その場を去ろうとした。だがデュウバに呼び止められ、彼女の方を向く。
ユキヤ「どうした?」
デュウバ「もう一人、クローンとして転生した者がいます。」
ユキヤ「ユウジか。」
   俺の発言にデュウバは驚き、目を白黒させている。こちら側の状況までは分からないだろうと
   思っていたようだ。
デュウバ「ど・・・どうしてそれを・・・。」
ユキヤ「全てが終わったら皆に話す、それまでは待ってくれ。」
デュウバ「分かりました。」
ユキヤ「じゃあな、気を付けろよ。」
デュウバ「ウインド様こそ。」
   今度こそデュウバと別れると、俺は財閥へ戻っていった。デュウバは俺を見送ると、基地へと
   戻っていく。彼女が言うには、近い内に襲撃があるとの事だ。もっともこちらを確実に消滅
   させる事を前提としている。それゆえに時間がかかるのだという事だ。デュウバも密かに他の
   仲間達の洗脳ヘアバンドを外し、事の事実を話していると言っていた。やり手のレイヴンは
   アマギ=デヴァス・リルザー=ガーヴ・ミオルム=エビル・ゼラエル=バルグ、そして悪の
   シェガーヴァ。その他の軍勢は全て人工知能で、ナインボールタイプ・ヴィクセンタイプ・
   ファンタズマタイプ・ナインボール=セラフタイプ・デヴァステイタータイプの5種類の兵器
   がメインだとも言っていた。内なる心には善を抱えているが、その全てが悪に染まっている
   シェガーヴァ。奴がどう出るのかが一番の問題点であろう。なにせ善のシェガーヴァより強い
   のは事実だ。こちらも連携を取らないと苦戦する。
レイス「あ、ウインドさん。どうでしたか?」
   俺は財閥に携帯モジュールを使用し、連絡を入れる。すぐに出た人物はレイスであった。
ユキヤ「近日中だそうだ。」
レイス「デュウバは元気でしたか?」
ユキヤ「ああ。この前会った時より元気そうだ。」
レイス「そうですか・・・。」
ユキヤ「もうじきだ、そうすれば全て元通りに戻る。」
レイス「はい。」
   声が潤んでいる。俺は彼女の心境がよく分かる気持ちだ。どんなに気丈に振舞っていても、
   やはり1人の女性。これが当たり前だなと思う。
ユキヤ「これから戻るぜ。」
   俺は通信を終えると、ウインドブレイドに乗り込む。そして財閥へと戻っていった。

シェガーヴァ「生産ラインはこのようになる。」
ユキナ「分かりました。そのプランでお願いします。」
シェガーヴァ「了解した。」
ユキナ「色々と助言なりして頂いて、ありがとうございます。」
シェガーヴァ「私が出来る限りの事をしているだけだからな。何かあれば言ってくれ。」
   シェガーヴァはゴウと共に人工知能の開発に取り掛かっている。過去の大戦時にアマギが完成
   させた人工知能を、ユウジが独自に考案したシステムで改良。それを今度はシェガーヴァが
   改良し、事実上第3代目となる。今度の人工知能システムは、コアベースに生命の大事さを
   インプットしている。つまり人命尊重を優先する事。殺されそうな仲間がいれば、身を盾に
   して守り通す。これは人間には無理難題に近い事だが、人工知能だから出来る技である。今の
   シェガーヴァの心境がよく解かる。
アマギ「すみませんシェガーヴァさん、色々と手伝って頂いて。」
   シェガーヴァがユキナとの内部通信を終えた直後、大型ガレージにアマギが戻ってきた。先程
   地下都市にパトロールに向かい、任務を終えて帰って来たのだ。
シェガーヴァ「構わんよ。それよりお前の方が激務であろうに。」
アマギ「自分から進んで行っていますからね、弱音なんか言ってられません。」
   1年前のアマギより、今のアマギの方が優しくなった。誰とでも話し、苦手であった女性との
   会話なども普通にこなしている。むしろ俺の方が以前のアマギのような性格である。
シェガーヴァ「あまり無理はするなよ。私と違って生身のお前だ、まだまだやるべき使命があるの
       だからな。」
アマギ「心得ています。」
   リーダーとしての自分・家族の長男としての自分、それが今のアマギを支えている。彼ほど
   その背中に重圧がかかっている者はいない。今の俺より立派だ。

   その数時間後、俺は愛機と共に財閥へと帰還した。理由はパトロールだが、まさかデュウバと
   会っていたとは今は言えないだろう。ガレージへと帰還した俺の元に、レイスが駆けつけて
   きた。
レイス「お帰りなさい。」
ユキヤ「ああ。」
   宇宙から戻ってから、毎回こうやって出迎えてくれる。彼女には頭が下がる思いだ。それに
   最近彼女はより一段と美しくなった。デュウバとの再会で過去の一念が吹っ切れたからか、
   一段と輝いて見える。だがその対象が俺なのは困りようだが・・・。
レイス「あの・・・。」
ユキヤ「何だ?」
   愛機の調整を遠隔操作で行っている所に、徐に話し掛けてくるレイス。俺は作業をしながら
   彼女の声に耳を傾けた。
レイス「今日はこれから何かあるんですか?」
ユキヤ「やる事はいっぱいある。機体のメンテナンス・皆の指導・今後の作戦会議・・・。」
レイス「そうですか・・・。」
   俺は彼女が何をしたいのか、十分分かっている。だが俺にその資格があるのかどうか、一番の
   悩みでもある。自分は既に死んでいる人間、今の世界に生きていてはいけない存在だ。だが
   その考え自体古いもので、否定する事に変わりはない。今の俺には必要な事なのかもな。
ユキヤ「少し出かけるか、腹減ったしな。」
レイス「は・・はいっ!」
   俺とレイスは財閥の車を借り、アイザック・シティまで向かった。ここに今まで食べた食事の
   中で最高と言える飲食店がある。まったく・・・何を考えているんだか・・・。

レイス「こうやって外を歩いたのは、久し振りです。」
ユキヤ「確かに。レイヴンはACと一心同体、その殆どの行動がACと共にある。生身の身体で
    歩くのは希な事。お前に感謝しないとな。」
レイス「あ・ありがと。」
   年齢的には彼女の方が俺より年上、だが実年齢は祖父と孫。まったくもって不思議なものだ。
   まあこうやって過ごすのが彼女にとって嬉しいのであれば、喜んでその役を担おう。これも
   弟子達の指導の一環かも知れない。
ユキヤ「ここがそうだ。」
レイス「へぇ〜古風ですね。」
   俺とレイスはシティの中央に位置する、セントラルホール内の飲食店前に着いた。ここが俺が
   今まで食べた食事の中で最高に美味い場所。迷う事なく飲食店に入る。中は古風で、デジタル
   化された現代でアナログ的な感じがする。年代人だけしかその良さが分からないと言っていい
   だろう。一番奥の席に着席すると、ウェイトレスが注文を聞きに来た。
ウェイトレス「いらっしゃいませ、ご注文は?」
レイス「え・・え〜と・・・。」
ユキヤ「ハンバーグステーキとフレンチサラダをそれぞれ2つ。」
ウェイトレス「かしこまりました。」
   今時珍しい食事だが、ここのは格別だ。ゴウがここのオーナーであった時もあり、その流れを
   今でも受け継いでいる。だが店長やウェイトレスには俺の事は知られていない。
レイス「今ウインドさんが注文されたのがイチオシなんですか?」
ユキヤ「ああ。この店を知っているのはゴウとトム・ガイレスだけだ。高齢の人物しか知らないと
    言っていい。」
レイス「シェガーヴァさんはご存知なのですか?」
ユキヤ「知っている。だが来た事は一回もない。彼も人間だったらこの味が分かるんだがな。」
   その発言を聞き、レイスは何かを思いつく。その後徐に意見を述べだした。
レイス「そう言えば・・・シェガーヴァさんはずっとサイボーグなのですか?」
ユキヤ「彼自身が望んだ事だ。長生きできる点がいいといっているが、それが理由じゃない。彼は
    今も過去の事を気にしている。それは人間であった自分の時に責任があると今も思って
    いる。だから彼は人を捨て、サイボーグとして生きる事を望んだんだ。」
レイス「そうだったのですか・・・。」
ユキヤ「だがおかげで今の世界に転生できたし、皆とも出会えた。彼には感謝している。俺も彼と
    共に深い罪を償っていくつもりだ。」
   直後レイスは悲しそうな表情をする。だかこればかりはどうしようもない。これに彼女まで
   巻き込む必要はないし、そんな考えも全くない。レイスにはレイスの進むべき道がある、その
   自由を奪う資格は俺にはないのだから。
ユキヤ「この最終決戦が終わったら、お前はどうするんだ?」
レイス「私は・・・、皆さんと一緒に戦います。世界を守るため・・・。」
   彼女らしい発言だ。おそらく皆さんとはデュウバやデェルダ達も含まれているのだろう。
ユキヤ「そうか。」
レイス「ウインドさんは?」
ユキヤ「まだ決めていない。」
レイス「では・・・一緒に戦いましょう。」
ユキヤ「それもまだ分からん。だか悪のシェガーヴァとケリが着いた後に決める。」
レイス「分かりました。」
ユキヤ「すまないな。」
レイス「何も謝らなくても・・・。」
ユキヤ「悪いな、不器用で。」
   それを聞いたレイスは小さく微笑む。以前のアマギと違い、俺は異性が苦手ではない。唯一の
   苦手はコミュニケーションであろう。俺の発言を聞いたレイスは、なるほどなと思ったようで
   ある。
ウェイトレス「お待たせしました。」
   暫くしてからウェイトレスがトレイに2人分の食事を乗せて運んで来る。そのいい香りに俺と
   レイスは小さく腹の虫が鳴いた。それぞれをテーブルに置くと、ウェイトレスはカウンターへ
   戻っていった。
ユキヤ「さて、食べるとするか。」
レイス「いただきます。」
   俺とレイスはハンバーグステーキとフレンチサラダを食べ始める。その味は財閥内で食した
   物より断然美味しい。
レイス「美味しいですよ。」
ユキヤ「地下での唯一の楽しみだな。」
   このような食事を皆で食べたらどれだけ楽しいか、俺は心中でそう呟く。この戦いが終わった
   ら、皆を連れて食べにでも来るか。
レイス「あの・・・ウインドさんには憧れの人とかは、いらっしゃらないのですか?」
   別に注文したワインを飲み、軽く酔いが回ってきたレイス。話し方が酔っぱらい口調になり
   つつある。これは厄介な事になったな。
ユキヤ「そういった感情は無縁だ。それに、俺にはそんな資格はない。」
レイス「そ・そんな事はないです。なぜですか、なぜそうやって全てを否定するのですか。」
ユキヤ「では問う。絶対に生きていてはいけない時期に生きている。その者が他者と結ばれ、子孫
    を残したとしよう。その子孫は間違いなく不幸になる。その者と結ばれた者もな。俺は
    表だって行動してはいけない者なんだよ。それに確実に歴史を変えてしまう事になる。
    それこそ償い切れぬ大罪だ。」
レイス「でも・・・でも・・・、貴方が可哀想・・・。」
ユキヤ「俺の事を心配してくれる事は大いに感謝する。だがあまり深く関わるな。お前自身不幸に
    なるぞ。」
レイス「・・・分かりました。今後軽はずみの行動はしません。」
   今まで見た事のない悲しい表情で俺を見つめる。俺は胸が締め付けられる思いだったが、これ
   ばかりは仕方がない。相手を不幸にしないだけまだマシだ。
   その後やけ酒気分でワインを飲むレイス。その勢いは更に増し、追加注文でワインビンを2本
   空けてしまった。
レイス「うぇいとれすさ〜ん・・・もっとわいんくださ〜い・・・。」
ユキヤ「もうその位で止めとけ。」
レイス「これがのますにゃいられん〜。」
   ここまで酔う者も久し振りに見る。俺は先に勘定を済ますと、酔っ払いのレイスをおぶさり
   飲食店を後にした。
レイス「う〜・・・。」
ユキヤ「まったく・・・後先考えずに飲むからだ。」
レイス「でも・・おぶさってくれたし・・・。」
ユキヤ「・・・確かにな。」
   レイスの酔いが覚めるまで、俺は暫く散歩する事にした。外見とは裏腹に、意外と重たくない
   彼女。これなら長時間は持ちそうだ。
ユキヤ「なあレイス、そんなに俺の事が気になるか?」
レイス「あたりまえっす。」
ユキヤ「お前ほどのしつこい女性は初めてだ。」
レイス「わ・わるかったっすね!」
ユキヤ「だが感謝している。一時でもこんな気分にさせてくれたのも、お前が初めてだ。」
レイス「あ・・ありがと・・・。」
   生きていてはいけない者が結ばれる、これは歴史上この上ない大罪。だが時はそれを望んで
   いるのか・・・。ここまで気にしてくれる者がいるのは、そうとしか言いようがない。
レイス「わたしね・・・あなたのことが・・・すきなんよ・・・。」
ユキヤ「行動を見ていれば十分分かる。」
レイス「でも・・・れんあいとか・・たぶーといってるし・・・。」
ユキヤ「十分すぎる程タブーだ。」
レイス「でもこのかんじょうはほんもの、いつわりじゃない・・・。」
ユキヤ「それも知っている。」
レイス「・・・・・。」
   その後沈黙した時が流れる。沈黙か・・・その場はどれぐらい体験した事だろうか・・・。
   自分の歴史の中では沈黙が大多数でもある。数分流れた後、その沈黙を破ったのはレイスの
   一声であった。
レイス「私の事・・・嫌いではありませんよね?」
ユキヤ「当たり前だろ。今関わっている連中全て大好きだ。友として・家族として。」
レイス「・・・それだけでも嬉しいです。私も貴方が好き・・・。」
ユキヤ「・・・ありがとよ。」
   ふと頬を涙が伝う。俺が泣いた事など何年振りか・・・。本当にレイスには感謝の連続だ。
   その後完全に酔いが覚めるまで散歩を続け、俺とレイスは財閥へと戻っていった。辺りは暗闇
   に染まり、星空が美しい。もっとも星空を見られたのは、地下ゲートから地上へと出た時では
   あるが。

   俺達が車での帰路途中、後方から何か近づいてくる気配を感じる。それにかすかな地鳴りの
   ようなものも感じる。俺は車をその場に止め、レイスと共に外へ出る。そこに現れたのは、
   ACであった。
レイス「誰だ貴様は?」
   暗闇に佇むACを見つめ、レイスは相手に聞こえるぐらいの声で叫ぶ。すっかり酔いが覚め、
   普段の彼女に戻っている。問いかけ直後コクピットハッチが開閉する音がし、パイロットが
   降りる気配がした。そして徐にこちらへと歩み寄って来る。ACから降りた直後の人の気配、
   俺はその人物が誰だか分かった。
ユキヤ「元社長の登場か。」
レイス「えっ?」
   自分達に見える距離まで相手が近づく。それを見たレイスは驚きの表情を浮かべる。目の前に
   立っている人物は、約1年前に病死した吉倉勇司であった。
ユウジ「お久し振りです。」
レイス「ユ・ユウジさん?!」
ユキヤ「お久し振りか、確かにな。だがよく俺だと分かったな。」
ユウジ「この何とも言えないプレッシャーは絶対貴方だと思いましたから。」
   ユウジらしい。さすがアマギの義弟だ。その後ユウジは今までの経緯を俺達に話しだした。
   俺はデュウバから聞く前から分かっていたが、転生後どんな行動をしていたのかをもしっかり
   と聞く。そして俺はこちらがどのような環境になったのかを、彼にしっかり伝える。それを
   聞いたユウジは嬉しそうな表情をした。
ユウジ「そうですか、さすがユキナさんですね。」
レイス「ユウジさんの為にも頑張らないとと、口癖にように言っていましたよ。」
ユキヤ「ユウジも戦うんだろ?」
ユウジ「はい。その為に転生しました。ですが財閥の方はユキナさんに全て任せます。私は既に
    死んでいる者ですから。」
   悪のシェガーヴァも粋な事をしてくれるな。ユウジに病気の事を聞いたが、シェガーヴァが
   遺伝子を操作してそれらを消滅させたという。今のユウジは健康そのもの。倒さねばならぬ
   敵だが、悪のシェガーヴァにも頭が下がる思いであった。
ユウジ「決戦までは暫く会えませんが、時が来たら必ず戻ります。まだまだやる事が沢山あります
    から。」
ユキヤ「そうだな。」
ユウジ「それではまた。」
ユキヤ「気を付けろよ。」
ユウジ「ありがとうございます。」
   ユウジはACに乗り込むと反転し、ブースターダッシュでその場から去って行った。彼を
   見送ると、俺達は車へ乗車する。
レイス「ご存知だったんですね、ユウジさんが転生した事。」
ユキヤ「ああ。」
レイス「隠し事はよくないです。」
   レイスがそう話すと、俺は小さく微笑んだ。それを聞いたレイスも微笑む。その後俺達は会話
   しながら財閥へと戻っていった。当然レイスにはユウジの事は黙っていてくれと言ってある。
   これを知ったユキナは大喜びか失神するかも知れない。

   数分後、俺達は財閥へと帰ってきた。ガレージ内へ戻った時、出迎えてくれたのは女性陣。
   しかも俺を気に入っている連中ばかりだ。
アシェシル「レイスさ〜ん・・・今の今までどこ行っていらっしゃったんですかぁ〜?」
ユウカ「お兄ちゃんと何をしてきたの?」
レイス「え・・え〜と・・・。」
   レイスの誤魔化しの技量が問われる。彼女は人に嘘を付く事は全くしない。どこまで事実で
   どこまで偽りと言えるか。だがその困っている彼女を見て、俺は無意識にレイスを擁護する
   発言をした。
ユキヤ「俺が誘ったんだよ。大人の時間ってやつだ。」
女性陣「ええ〜っ!!!」
   冗談とも言えない大声を発し、軽く激怒する女性陣。だが俺の性格上、そういった行動を絶対
   しない事も見抜いている。それは嫉妬とは別物であろう。
アキナ「羨ましいなぁ〜・・・。」
ユリカ「今度ご一緒できたらお願いします。」
エリナ「もちろんあたい達も同じよ。」
レイス「ハハ・・・。」
   女性陣の笑顔が眩しい。実は俺も異性好きだ。だがクローンとして転生した俺だ、歴史を
   変える事はしたくない。本当に虚しいのは俺自身だな。遅れてシェガーヴァがこちらに駆け
   付けてきた。皆との生活で彼もますます人間に近づいている。
シェガーヴァ「お帰り。」
ユキヤ「ただいま。何も変わりはないか?」
シェガーヴァ「大丈夫だ。例のシステムも完成した。後は量産させれば奴等に対抗できる。」
ユキヤ「分かった、ありがとな。」
   俺とシェガーヴァの真剣な会話を聞き、レイスを含む女性陣は憧れの瞳でこちらを見る。その
   視線は何とも言い難いものであった。
リュラ「真剣なお兄ちゃんもカッコいいね。」
テュルム「そりゃそうでしょ、普段でもカッコいいんだから。」
シェガーヴァ「賑やかな事だな。」
   珍しく声を立てて笑うシェガーヴァ。それを見た女性陣は彼への見方が変わったようだ。
エリシェ「シェガーヴァさんもお笑いになるのですね。」
ティム「私、初めて見ました。」
シェガーヴァ「それはないだろう。」
   苦笑いをするシェガーヴァ。再び微笑んだ彼を見て、女性陣はこれが本当のシェガーヴァなの
   だなと思うのであった。
シェガーヴァ「これこそが償いなのだろう。人との会話、成長を見守る。そして人を助ける。これ
       ほど大事な事はない。皆には頭が下がる思いだ。」
レイス「そうですよ。人を助ける事はしても、人とのコミュニケーションを行わないのは自身の変革
    を止めてしまいます。ダメな事だと分かっていても、それがプラスになる事もあるんです。
    私がここまでしつこく構うのは、そういった事なんですよ。」
ユキヤ「・・・間違っていたのは俺の方だな。人との関わり合いを絶つ。人と関わる事で歴史を
    変える事が恐怖でもあったが、今の時代にその感情は捨て去るのが一番のようだ。」
レイス「やっと分かって頂けましたか。」
ユキヤ「お前のおかげだレイス。ありがとう。」
   レイスは俺の礼を聞くと、頬を赤く染めながら構わないといった行動をする。彼女には本当に
   頭が下がる思いであった。
ルディス「シェガーヴァさんもコミュニケーションを取ってみては?」
シェガーヴァ「そうだな。」
ミュナ「これからもよろしくお願いします、シェガーヴァ先輩。」
シェガーヴァ「フフッ、ありがとう。」
   今のシェガーヴァは人間そのものだ。己がサイボーグと化したのは、過去を悔やんでの行動。
   だが彼女達が言った人との会話こそが、罪の償いにもなるのが事実。歴史を変えるという事は
   一切考えず、出来る限り会話をしていこう。それこそが過去の大罪の罪滅ぼしなのだから。
                               第4話へ続く

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る