〜第3話 運命の大破壊〜
    ウィムの葬儀が身内だけで行われた。リュウジがそう願いでたのである。
   リュウジとユキヤが見守る中、ウィムの亡骸を地中へと埋葬する。本当の彼女との永遠の別れ
   であった。

ユキヤ「・・・・・。」
    病室のベッドから表を見つめるユキヤ。昨日までそこでウィムがしていた行動である。
   その彼女はもうこの世に存在しなかった。

    ウィムは色々な事を教えてくれた。
   内気であったユキヤにもっと心をしっかり保つようにと。また信念と定める事は不動の心構え
   として貫き通すのだと。特に長所がある訳でもない自分を暖かく見守ってくれ最愛の人。
ユキヤ(・・・ウィム。君が願っていた風になりたいという決意、生涯忘れないよ・・・)
   心中で呟く。それは完全な不動の心構えとなっていた。

    愛娘の死後、リュウジは変わった。
   研究に没頭する日々が続き、一心不乱にあの正六角形のモニュメントを作成し続けている。
   今まで明るかった彼が火が消えた如く冷め切っている。まるで抜き身の真剣の如く、関わる人
   は斬って捨てられそうであった。
   ユキヤもウィムの件から彼に近づけなくなり、殆ど一人で雑務をこなしている。

    ウィムの死後、世界は更に悪化の一途を辿っていた。
   人種差別による国内紛争や無差別テロ事件などでの大量の人の死。家族同士の殺害という最悪
   極まりない出来事までもが毎日のように起こっていた。
    食堂でテレビニュースを見つめるユキヤ。昼食を取りつつも、モニターから目が離せない。
ユキヤ(この悲惨極まりない現状、ウィムが見ていたらどう反応するのであろうか)
   心中では彼女の悲しむ姿が手に取るように分かった。とても悲しく辛い表情でニュースを凝視
   し続けた。
ウィム(風になりたい・・・)
    ウィムが生前話していた風になりたいという事。
   ユキヤはこの意味が今、ハッキリと理解できていた。この悲惨な現状をまるで察知していたか
   のような口調であったと痛感している。

    ユキヤは思った、ウィムの意志を継ぎたいと。
   自分が風となり汚れた世界を浄化する。そしてウィムが望む汚れなき世界に少しでも近づけ
   れば、彼女も浮かばれるであろうと。
    だが一介の人間に何が出来るか。何も取り柄がない自分、強大な力すら持っていない自分。
   それ相応の力があれば彼女の願い通り動く事ができるが、今の現状を見れば夢物語だ。
   非現実な今を実力でねじ曲げたいと、ユキヤは強く思っていた。

    ウインドが非現実な事を実力で実行する。その発端はここにあった・・・。

    更に半年が過ぎたある日。
   リュウジに呼ばれ、ユキヤは彼の研究室へと向かった。彼に呼ばれるのは数ヶ月振りの事。
   彼とも久し振りにあう事になる。
ユキヤ「どうしました?」
    誰もいない深夜の社内、彼の研究室に入室する。そしてユキヤは非現実なものを目の当たり
   にした。
    それはリュウジ自身の複製とも言えるサイボーグ体があった。その隣にはあの正六角形の
   実物が置いてある。
   ユキヤは何事かと彼に問いつめた。
ユキヤ「何なんですこれは?」
リュウジ「研究が完成した。汚れある世界に粛正を行うため、感情を持たない駒が必要だ。引かれた
     レールの如く地球再生を行う人工知能。ようやく完成したよ。」
   今まで見るリュウジの姿ではなかった。それはまるで悪魔の如く、表情は鬼のようである。
ユキヤ「こんなの作って何をするんだよ!」
リュウジ「今の世界に粛正をする。汚れたものを一掃し、新しい秩序を築き上げる。」
ユキヤ「馬鹿げてるよあんた。こんな事してウィムが喜ぶと思ってるのか。あんたがしてきた研究は
    こんな下らない事なのかよっ!!!」
   ユキヤは怒りが爆発した。自分に対する怒りや環境に対する怒り。それらを全てリュウジに
   ぶつけたのである。
リュウジ「下らないであろう。そう、実に下らない発想であろう。しかしやらねばならぬ時がある。
     誰かがやらねばならぬ事がある。それを私が遂行する。」
ユキヤ「やらさせない。こんなもの壊して無かった事にしてやるよ!」
   身近の椅子を両手で持ち、その正六角形のモニュメントに叩き付けようとする。

    しかし室内に銃声が響き渡る。

    リュウジはポケットに所持していた拳銃でユキヤを撃ったのである。
   銃弾は正確に心臓を狙ったが、椅子に当たり多少誤差が生じる。しかし致命傷には変わりは
   なかった。
ユキヤ「・・・馬鹿・野郎・・・・。」
    力が抜け椅子が床に落ちる。ユキヤはそのまま床へと倒れ込んだ。
   なおもはいずりながら彼の元へ行こうとするが、途中で力尽きる。全身から徐々に力が抜けて
   いくのを目の当たりにした。
ユキヤ「・・・か・ぜに・・なるま・・・で・・死ねる・かよ・・・・・。」
   ユキヤは息を引き取った。父になるはずであった人物に命を奪われたのである。
    リュウジは目の前の現状に正気を取り戻し、彼を揺さ振るが反応は既になかった。
   妻に娘、そして息子になるはずだった青年。愛しい者が目の前からいなくなってしまった。
   過ちに気付いた時点ではもうどうしようもなかったのである。

    その後リュウジはユキヤの死体をサイボーグ体に担がせ、正六角形のモニュメントを移動
   台座に乗せその場を去った。
   そして人工知能開発研究施設からも姿をくらました・・・。

    突然の人工知能開発リーダーと助手の失踪。
   人工知能開発研究施設は突然の出来事により、上層部から撤退要請を告げられた。役に立た
   なくなったものは直ぐに切り捨てるのが大企業のやり方である。
    そして上層部は圧力によりこれらのプロジェクトをなかったものと証拠隠滅を図った。
   全ては無に帰されたわけである。

    それから150年後の同じ日。

    地球は高度成長期を絶頂に迎え、人々は裕福な生活をしていた。
   しかしそれは表向きの姿であり、実際は数々の大問題を抱えていたのが現状であった。

   先進国ではスラム化と環境汚染が加速度的に進んでいた。
   発展途上国では開発援助という名目の詐取が横行し続けている。
   何時まで経っても解決しない経済格差と人口増加、自然破壊に伴う異常気象と食糧不足。
   人々は己の私利私欲に駆られ、自分勝手に己の愚策を貫き通す。

    150年経過した今でも、一行に解決しない問題点。人々の不安は最大まで膨れ上がる。
   それらは国家による政治への不信感という形になって現れた。
   各地で勃発した暴動が全地球規模へと発展し、最悪の世界大戦へと発展したのである。

    核を用いた戦闘も平気で行われ、大量の人々が命を奪われた。
   だがこれでも内乱及び大戦は終焉を迎えなかった。

    かつて地球に衝突が予想された大規模な惑星。それに対する対策が考えられ実行された。
   衛星軌道上に巨大レーザー砲を建造、それを以て惑星を破壊するという計画だった。
    しかし惑星は地球への衝突を予測されていたものの、実際には衝突せず大きく軌道を反れて
   宇宙の彼方へと過ぎ去っていった。
   巨大レーザー砲建造は無駄に終わってしまったのである。

    これに目を付けたのが国家である。
   核兵器を上回る破壊力を有する事は、相手にとって強大な威圧をするに至る。それは私利私欲
   に駆られた愚策であった。
   後に完成した巨大レーザー砲、それは正義と称しジャスティスと名付けられた。

    何時までも内乱及び大戦が終わらない現状を打開するべく、国家は最終結論を出す。
   そうである、衛星軌道上にある巨大レーザー砲ジャスティスを使用すると決めたのであった。
    実行を試みる国家と阻止する国家。再び今以上の紛争が勃発する。戦争は終わりを向かえる
   どころか、更に悪化の一途を辿っていた。

    業を煮やした一部の国家が独断でジャスティスに接触。
   そしてその正義と称される破壊の目が地球へと放たれた。
    地球の表面から一瞬にして罪もない人々・内乱を続ける過激派・各地に位置する国家などが
   消滅した。
   そう・・・一瞬である・・・。

    地球上のありとあらゆるもの全てを灰燼と化したのである・・・・・。

    後にこの大戦は「大破壊」と、忌々しき記録として永遠に残されたのであった。

    世界大戦はジャスティスの発射と共に終焉を迎えた。決定的な勝者のないまま、なし崩しに
   戦争は終結。
   残された人類は生活の場を地下へと移さざるを得なくなったのである。
                               第4話へ続く

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