〜第3話 破壊の魔女〜 平西財閥所有の輸送機でラプチャーへと到着するウインド。事前にセントラルオブアース からの依頼もあり、堂々とラプチャーへと進入する事になる。 まだ建造中のラプチャー故に一般人や一般レイヴンは立ち入りはおろか、近くを通る事すら 許されていない。だがこの依頼から考察すれば、早期対処をと踏み切った結果であろう。 また平西財閥直接に撃破依頼がきたのは、政府もロストナンバーレイヴンズの陰の活躍を 少なからず認めているという事になる。 アマギが言っていた言葉、「今は無理でも必ず報われる時が来る」。これは徐々にではある が到来しつつあった。 シェガーヴァ「情報だとラプチャー最上部、宇宙輸送船のドッキングベイに潜伏しているそうだ。」 ウインド「了解。」 ウインドは愛機ウインドブレイドを進ませる。 ラプチャーは構造上、成層圏を超えなければ軌道エレベーターとして機能しない。地球の地表 から大気圏を超えるまでの長さは尋常ではなく、かつてスペースシャトルを用いなければ宇宙 空間に出る事は不可能であった。 今はラプチャー内部にある軌道エレベーターにより、僅か30分以内には成層圏へと進出が 可能である。 スペースシャトルによっての小規模な輸送ではなく、エレベーターによる大規模な輸送が実現 できたのだ。 後の火星社会誕生までこの軌道エレベーターがフル活用されるのは言うまでもない。 エレベーター内部で待機するウインド。最上部まで移動する間、脳裏に今までの出来事が 走馬灯のように浮かび上がっては消えていく。 あれだけ気丈だった娘が破壊神へと堕ちていった。そこに至るまでの間に阻止する事は十分 可能であったとも痛感している。しかし今思っても既に遅いのだ。 カール・リック・ミキはレイスの手により殺害された。さぞどれだけ無念であっただろう。 またレイスも心中ではどれだけ苦しんでいた事だろう。苦しんだ挙句の結果がこの現実で あり、そしてそれは永遠に消える事がない苦しみとなる。 レイス(一緒に悩み苦しみましょう。私にとっては絶対的な幸せの時でもあります) レイス(決して弱音は吐きません。今度は私が支え続けていきます) 徐に頬に涙が伝う。ウインドは泣いた、己の無力さに。そして判断力の鈍さに。 しかしこれも同時に沸き起こった。過去がどんなであれ、悪は必ず滅する。それがかつて 共に過ごしたパートナーであっても、だ。 心の上置きでは悩み苦しむが、心の深層にはウィンが願っていた「風になりたい」という 不動の一念が輝き続けている。 最上部到着の合図がコクピットに響き、彼は頬の涙を拭うと今までの感情を押し殺す。 そしてエレベーターが止まり前面のハッチが開きだした。 エレベーターを降りた先に彼女がいた。既にこちらの様子は分かっていたようで、黙って 到着を待っていたようである。 レイス「・・・来たか。」 ウインド「俺が来た理由は痛いほど理解しているだろう。」 レイス「・・・ああ。貴様を殺し、レイヴン全てを消す。・・・争いの起源となるものは全て私が 消滅させる。」 本当にレイスが語る言葉なのか、ウインドと外線通信で伺っているシェガーヴァは思った。 その口調はゼラエル達と何ら変わらない。正しく破壊神そのものだ。 ウインド「・・・本当に後悔していないんだな?」 レイス「・・・そのような言葉など私には必要ない。求めるのは更なる破壊の極み。」 ウインド「・・・了解。この瞬間を以て、貴様とは決別する。貴様もゼラエルのような愚者と何ら 変わらない。イレギュラー要素は今後の争いの火種、奴等同様消滅させてやる。」 レイス「・・・行くぞっ!!!」 レイスの一喝で対決の火蓋は切って落とされた。 レイス駆るダークネススターは物凄い勢いで動き出し、左肩のグレネードランチャーを迷い なくウインドに向けて発射する。放たれたグレネード弾はウインドブレイドに接近するものの 直前回避により直撃しない。 対するウインド駆るウインドブレイドも動き出す。こちらは直前回避後の行動で、相手の 行動停止の瞬間を見切っての右腕のレーザーライフル射撃だ。 正確に放たれたレーザー弾はダークネススターの右腕肘に直撃、衝撃で右腕のスナイパー ライフルを離してしまう。また直撃で肘ジョイント部分が大破し、右腕の機能が完全に停止。 僅か1回の行動でダークネススターは4つあるうちの1つの武器が使えなくなった。 リックとの戦闘時は相手が殺さずの念を抱いていたため、また腕が未熟だったため一方的に 攻撃ができた。 しかし今目の前にいるレイヴンは自分の真の師匠。その腕は大人と赤子のような差だ。 また破壊神へと堕ちていった彼女にとって、今までのような直感と洞察力とが溢れる行動が 繰り出せなかった。それはゼラエル達にも当てはまっている。 純粋に戦闘だけを行えばウインドやシェガーヴァに匹敵する実力がだせる事も知らずに。 一瞬バランスを崩すも、直ぐさま体勢を立て直すレイス。展開中のグレネードランチャーを 再度射撃しつつ、今度は空中へとジャンプしだした。 ウインドも既に動いており、放たれたグレネード弾は誰もいない場所に着弾する。と同時に レイスが飛び出した場所に進み出る。それは彼女にとって死角であり、丁度背後に当たる。 直下に進みでたウインドを捕らえようと目まぐるしく移動をするレイス。しかし右腕の破損 によるバランスの低下で思うように動けずにいた。 相手の状況を直ぐさま察知し、そこに有無を言わず攻め立てる。どんな状況だろうが手を 抜かないのがウインドの戦闘スタイル。それは弱点を徹底的に攻めるにも当てはまっている。 相手の弱点を攻める事など戦術では基本中の基本、卑怯でも何ものでもない。 どれだけ動いたのだろう。どれだけ斬撃を繰り出したのだろう。ウインドは心中で相手の 堕ちゆく様を黙って見つめていた。 レイスも全力で相手を迎撃するもののレベルが違いすぎた。虚を突かれ意識せずとも相手に 隙を見せてしまう。機体の外部武装は彼の斬撃により失っており、唯一左腕内蔵ののレーザー ブレードのみが攻撃手段となっていた。 レイス「・・・まだだ・・・まだ終わっていないっ!」 自分を叱咤する発言が辺りに響く。外部音声と内部音声をそのまま接続している彼女の機体。 内部の本人の怒りや憎しみは全てウインド・シェガーヴァに届いていた。 ウインド「・・・そうだな、まだ終わっていない。決断通り、貴様を消す。それで全てが終わる。」 一切の私情を表に出さず、純粋に悪を滅する。ウインドの発言は今だかつてないぐらい殺気に 満ちており、堕ちいったレイスですら恐怖を感じずにはいられない。 レイス(このままでは自分は殺される。いや・・・むしろそれを望んでいる。そう・・・最愛の人に 止めてもらえれば・・・。) ふと脳裏に言葉が過ぎる。ウインドと戦う事により、僅かながらではあるが善の心を戻し つつあった。しかし時既に遅し、今更元に戻ったところでカール・リック・ミキは生き返りは しない。 レイスは決意を新たにし、左腕のレーザーブレードを繰り出す。そしてウインド目掛けて 突撃を開始した。 対するウインドはそのまま動かず不動を貫く。レイスの心境に変化があったのをいち早く 察知し、そして何を望んでいるかも理解した。 ダークネススターがレーザーブレードを一閃させようとウインドブレイドに近づく。だが 斬撃を繰り出した直後、目の前からウインドブレイドが消え去った。 ウインドブレイドがダークネススターの後方に進み出た。その後ダークネススターはコアと レッグとのジョイント部分が分断。同じくブレードの刃によりジェネレーターを正確に斬り 付けてもいたため、ジェネレーターの爆発により機体は木っ端微塵に飛散した。 ゼラエルと同様にカウンター斬撃で屠られたレイス。だがそれを望んでいた彼女にとって、 この瞬間は苦ではなかったようである。 飛散したダークネススターの残骸を一瞥し、ウインドは愛機をエレベーターへと進ませる。 そしてレイスの墓場となった場所から去って行った。 この時点からウインドはレイスを屠った事を、毎晩悪夢として見続ける事になった。 第4話へ続く |
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