第1話 修行と依頼と
     レイヴンの回想録 〜酒との合間に〜
 登場人物 ウインド デュウバ=ドゥガ デュウバ=シュヴ ヴァルガス=モリノアル
      ボンバーヘッド フォルシュ=デオ=モリス シュヴューグ メイト=バルガルス
      ヴォストン エルデルス ミック=レイアフ
 登場AC ウインドブレイド アドゥークファオレイン アシュレイムヴィーア マッドファイア
      グランドウルフ メルディファス トルーマン アルバドル ウィルバスター
      ヴューバル マクレイノス

    〜第1話 修行と依頼と〜
    デヴィル=オグオル達との決戦、その後のグライドルクとの死闘。
   それら全てが決着し、レイヴン達は束の間の休息を取っていた。

    平西財閥の大食堂、その一角のカウンターにて酒を飲み交わす3人のレイヴン。
   ウインドを筆頭にデュウバ=ドゥガとデュウバ=シュヴの2名。酔わない程度に酒を飲み続け
   るも、頬はしっかりと紅くなっている。
デュウバ姉「長かったわね・・・。」
デュウバ妹「そうね・・・。」
ウインド「子供達のお守りも十分死闘だったがな・・・。」
    苦笑する姉妹。オグオルとの決戦やグライドルクとの死闘よりも、子供達をお守りする方が
   十分死闘になっていた。それは彼等を面倒見た者は誰でもそう思っているだろう。

ウインド「ああ・・・あの事覚えてるか?」
デュウバ姉「というと?」
デュウバ妹「最終決戦ですか。」
    ウインドの問いにデュウバ姉妹は最終決戦を振り返る。確かにあの最終決戦は凄まじい激戦
   であった。それは過去に経験した決戦より、遥かに過酷で厳しいものだ。
   しかし彼が指し示した事は別のものであったようである。
ウインド「ちゃうちゃう、4日前のアリーナでの出来事とその後の2日間だ。」
デュウバ妹「ああ、あれですか。」
デュウバ姉「あれってさ・・・、半年ぐらい過ぎてたような気がするけどね。」
デュウバ妹「3日間の戦いでしたしね。」
    3人はワインを飲みつつも、4日前のアリーナでの出来事からその後を振り返る。
   長かったようで短かった4日間。酒の摘みと題して、3人は当時の事を語り出していった。

    ・・・4日前・・・
    ネオ・アイザック近郊のアリーナバトル場。
   ウインド・デュウバ姉妹は決戦の息抜きと、3人でアリーナを訪れていた。もちろんAC持参
   で暇が有れば3人バトルロイヤルをしようと決めていたのである。
デュウバ姉「相変わらず賑やかねぇ。」
デュウバ妹「私達目立ちませんか?」
ウインド「普通に接してろよ。堂々としてれば気づかれない。それに普段の気迫や殺気などは抜きで
     いれば、一般レイヴンと見分けが付かないさ。」
    オグオルとの決戦・グライドルクとの死闘以来、久し振りにアリーナへと足を運んだ3人。
   永遠とも思える戦いを続けてきた3人にとって、戦いからは離れて息抜きをしたいと思って
   いた。

    しかしこれも定めなのか、又はレイヴンという職業柄なのか。息抜きをするためにアリーナ
   へと足を運んでしまう。つまりは3人とも戦いからは決して離れられなかったのだ。
    永遠の闘士として歩み出したのは己自身が決めた事である。それは大破壊以前から決意した
   ウインドや、その後決意したデュウバ姉妹も同じである。
    しかしクローンファイターズである彼等も人間である。息抜きや愚痴などは出るのが当たり
   前であろう。出ない方がおかしい。
   世紀を超えて戦い続けていても、彼等は立派な人間であるのだ。

デュウバ姉「で、これからどうするの?」
    腰まで長く伸びている髪の毛をバンダナで短く結び上げ、デュウバ姉は2人にそう告げた。
   当然アリーナへ足を運びACをも持参した自分達にとって、やるべき事はただ一つである。
   息抜きと題した修行の戦いだ。
デュウバ妹「そりゃぁ姉さん、決まってますよ。」
    両手のグローブをしっかりと手に付け、胸元まで開いているレザージャケットのファスナー
   を首元まで上げた。
ウインド「やるか。」
    伊達に見える度なしの黒縁眼鏡を外し、胸ポケットへとしまう。そしてお互いを見つめ合う
   3人のレイヴン。
   小さく頷き合うと、ウインドはアリーナ受付へと向かって行った。

    アリーナの戦闘形式は企業から推薦されたレイヴン同士が対決する。それが大深度戦争前後
   は当たり前であった。
   レイヴンズ・ネストなしでのレイヴンという存在は在り得ず、ソロ活動をする者もいたが苦労
   は絶えなかった。
    時代は変わりネストの形態がナーヴズ・コンコードへと移行した今でも、企業から推薦され
   アリーナへと参戦しているレイヴンもいる。
   しかし流れは大きく変わり、今ではソロ活動をするレイヴンが大半である。
    企業の飼い犬と激しく貶されていたレイヴンにとって、そのレッテルは昔の遺物である。
   今はレイヴンなしで企業は成り立たないと言って良い。それほどまでレイヴンが大きな存在へ
   となった証拠であろう。
    ユウトがトーマス達とタッグバトルを繰り広げた際も、昔とは大きく変わった証である。
   そして今は相手の対戦を待たずとも、空いているアリーナ場があれば試合が出来るまでに拡大
   していった。
    シングルバトル・タッグバトル・トリプルバトル・バトルロイヤルなどなど。まるでかつて
   栄えていた娯楽、プロレスリングの世界と同じであろう。

    ネオ・アイザック近郊のアリーナバトル場から少し離れた障害物がない平原。ここに3体の
   ACがそれぞれの間合いを保持したまま相手の動きを見計らっている。
   今し方試合が開始され、ウインド・ドゥガ・シュヴの3名は愛機と共に戦場へと赴いた。
    アリーナ場では決められた試合を観戦する客が大勢いる。始まる間は古くから娯楽施設の
   代表と言えるカジノ等を利用している者もいる。
    もちろん子供の観戦客もいる事から、子供向けの娯楽施設があるのも確か。自分のファンの
   レイヴンなどの試合を待ち焦がれる者が大勢いた。
    そんな中、空いている場所で戦闘したいと申し出たウインド一行。いきなり試合が開始され
   だし、突然の出来事に娯楽施設にいる人々は試合を見だした。

    戦闘が開始されてから僅か数分、3人とも動かなくなった事から相手のレベルが窺えた。
   どの繰り出される攻撃も一撃必殺を帯び、勝負が一瞬で着くと理解しているからだ。
デュウバ妹「う〜ん、この緊張感いいねぇ・・・。」
デュウバ姉「やはり戦いからは逃れられない性分なのかな。」
ウインド「今日は死闘じゃない、息抜きだ。その点を忘れないでくれよ。」
デュウバ姉妹「了解。」
ウインドの視点」・「ドゥガの視点」・「シュヴの視点

    どちらともなく動き出すデュウバ姉妹。アドゥークファオレインとアシュレイムヴィーアは
   ブースターダッシュを行い動き出した。

    ドゥガは右腕の速射型ライフルを、シュヴは左肩のグレネードランチャーをそれぞれ放つ。
   放った相手は当然ウインドだ。
   2人が動き出す前にウインドはブースターダッシュで愛機を左右に動かす。相手の戦術は大体
   肩のキャノンか腕武器を先に使うと踏んでいた。
    小刻みに左右に切り返すウインドブレイドにライフル弾とグレネード弾が接近するものの、
   どれも直前回避により命中はしない。相手の後方に着弾し、爆発を巻き起こす。

    再度攻撃を開始するドゥガとシュヴだが、ウインドも黙っているだけではなかった。右腕の 
   レーザーライフルをそれぞれの機体に射撃。
   放たれたレーザー弾は相手に迫るものの、余裕を持って回避される。しかし直前回避ではなく
   ドゥガは左側前進で、シュヴは空中へとである。
    この隙にウインドは再度レーザーライフルを放つ。と同時に左肩の中型ミサイルランチャー
   を2人にロックを開始。
    先行したレーザー弾は2機のACのコアユニットに着弾するものの、その一撃では装甲は
   破壊されなかった。
   しかし第一装甲が損傷したのは事実で、軽量ACを使っている2人にとっては驚異である。

    レーザーライフルにより追撃が来ると確信したシュヴは、一端地上へと着地する。そして
   再度左肩のグレネードランチャーをウインドブレイドに向けた。
   ドゥガは右肩のウインドブレイド同搭載の中型ミサイルランチャーを展開し出す。
    しかし既にロックオンを済ませた4発の中型ミサイルランチャーが、2機のACに2発ずつ
   発射される。
   レーザー弾が来ると判断していたシュヴは不意打ちを食らい、急遽放たれたミサイルを回避
   しようとする。

    その瞬間を見逃さずウインドはグレネードランチャーの砲身目掛けてレーザーライフルを
   射撃した。
    放たれたレーザー弾は直線上に位置するランチャーの砲身の中に吸い込まれるように入って
   いく。そして装填されたグレネード弾に直撃、大爆発を巻き起こした。
    アシュレイムヴィーア搭載のグレネードランチャーと、左肩に装備されたミサイル迎撃装置
   の片方が木っ端微塵に吹き飛んだ。辛うじて左腕破壊は難を逃れたが、ほぼ大破していると
   言ってよい。
    丁度少し前ドゥガに放たれたミサイル2発は、同じく放とうとしているミサイルランチャー
   に直撃し爆発して飛散した。

    だがドゥガもシュヴも体勢を崩しつつも反撃の手を休めない。
   双方とも無傷の右腕ライフルをウインドに放つ。
    射出された弾丸はフットワーク良いウインドブレイドの右肩レーダーに運良く直撃し、衝撃
   でジョイント部分からもげ落ちる。
    しかし自分達が受けたような決定打になるダメージではない。頭部パーツにレーダーが搭載
   されているウインドブレイドにとって、レーダーの破壊は全くの軽傷だ。

    ライフルの攻撃が有効ではないと判断した姉妹は、肉弾戦へと移行する。
   ドゥガは左腕のレーザーブレードを、シュヴは無傷の右腕ライフルをウインドブレイドに向け
   突撃する。
    対するウインドもブースターダッシュにより間合いを縮めつつ、右腕のレーザーライフルと
   左腕のレーザーブレードを突撃してくる2機に突き付けた。

    目の前まで迫ってきたブレードと銃口を前に、姉妹は機体を制止させる。
   ドゥガはブレードの刃をウインドブレイドのコクピットへ、シュヴもライフルの銃口を同じく
   コクピットへと向けた。
    ウインドもレーザーライフルをアシュレイムヴィーアのコクピットへ向け、ブレードを
   アドゥークファオレインのコクピットへと近づけている。
   どちらも攻撃を加えれば確実にコクピットへと被害が及ぶだろう。正しく一触即発の状態だ。
ウインドの視点」・「ドゥガの視点」・「シュヴの視点

    試合の一部始終を釘付けになっていたアリーナの人々、凄まじい戦闘に何も言えずにいた。
   殆ど一瞬の出来事であったからだ。
ウインド「・・・腕を上げたな2人とも。」
デュウバ姉「貴方こそ恐ろしいぐらい切れまくりでしたね。」
デュウバ妹「心臓ばっくばっくだわ。でもこのスリルが止められないわね。」
    3人とも武器を下ろす。レーザーブレードは射出を止め、ライフルはその銃口を下ろした。

    直後アリーナで試合を見ていた人々は大歓声を発した。なかなか見れるものではない試合を
   目の当たりにし、感極まって大歓声を上げるしかなかったようだ。
    そして何よりも決着を付けずに寸前で止めたという事に歓喜が上がったようである。
   真っ向勝負で戦い、互角による引き分けで幕を下ろす。
    かつて実在した東洋の国の武者が心構えていた武士道に似たものであろう。正しく晴れ渡る
   気分にしてくれるものであったようだ。

    試合が終わり、3人はアリーナのガレージに引き上げた。
   今の試合を繰り広げたレイヴンをこの目で見てみたいとする人々が、ガレージへと押し寄せ
   ようとする。
   しかしシティガードがそれらを制止。こういった事には慣れているようで、顔色変えずに対処
   している。
    そんな彼等を横目に見ながら、3人はそそくさげに控え室へと逃げ込む。まさかこういった
   事になるとは思っていなかったようである。
デュウバ妹「目立っちゃったね。」
デュウバ姉「財閥のガレージで試合した方がよかったかな。」
ウインド「何を今更・・・。久し振りにアリーナの空気に触れてみたいと言い出したのは、どこの
     誰でしたっけ?」
    その発言に姉妹は口を閉ざす。事の発端は姉妹が彼に切り出した事であり、ウインドは渋々
   2人に付いて来ていたのである。断ろうと思えばできた事ではあるが、我が娘同様の2人の
   喜ぶ姿を見た彼も嬉しくて仕方がなかった。
    つまりはウインドも屁理屈を述べたが、黙認してしまっていたと言う事である。
ウインド「まあ・・・久々に楽しめたからいいか。」
   苦笑いを浮かべるウインドを見つめ、ドゥガとシュヴも同じく苦笑いを浮かべた。難癖付ける
   が彼の心中が理解できる2人であった。

    直後控え室の扉をノックする音がした。3人ともギョッとしたが、これも自分達の過ちだと
   渋々応対する。
   シュヴが扉を開け相手を確認したが、どうやら観客ではないようであった。
    シュヴよりも小柄な女性であったが、出で立ちからしてレイヴンだと一目で分かった。
デュウバ妹「どちら様で?」
女性レイヴン「先ほどの試合を拝見させて頂きました。折り入ってお話があるのですが・・・。」
   シュヴはウインドを見つめどうするか求める。ウインドは小さく頷くと、シュヴは相手を控え
   室へと招き入れた。

女性レイヴン「ふ・・双子なのですか・・・。」
    シュヴの顔とドゥガの顔を見つめた女性レイヴンは驚く。2人の顔は全く同じで、どちらが
   どちらと見分けが付かない。双子なら多少の違いはあるが、この瓜二つには初対面の者は驚か
   ざろうえないだろう。
   まあ2人はクローン故に双子姉妹に見えるだけではあるが・・・。
デュウバ姉「え・・ああ・・・。」
ウインド「それよりも、話とは何だ?」
   どう答えていいかあたふたしていた姉妹をフォローするかのように、ウインドが相手の心境を
   聞き出す。
女性レイヴン「あ・・申し訳ありません。私はメイト=バルガルス。オールド・ガル近辺でレイヴン
       をしている者です。」
ウインド「そのあんたがどうしてここに?」
メイト「厄介な依頼を受けてしまい、手助けして欲しい方を探しています。」
   端的な会話だが、目が据わっているのを確認しているウインド。つまり相手は嘘を付いては
   いないという事である。

    メイトを控え室の椅子に座らせると、3人して彼女の話を聞き出した。
メイト「昨日メールにて依頼が来ました。地下実験場を制圧してくれという内容です。相手は無名で
    場所と戦力しか記述されていませんでした。」
デュウバ姉「メイト様は断れない口ですね。」
   話の内容から相手の正確を察知したドゥガがそう話した。それを聞いたメイトは驚き、相手の
   洞察力の凄さに目を白黒させている。
ウインド「敵の数は?」
   ウインドが更に詳しく聞き出す。嘘ではない以上、相手が気になるのも事実。
   数日前にあの決戦を乗り越えた3人にとって、別勢力がいるのかと半ば緊張を走らせている。
メイト「敵はAC3機、MTが15機です。パイロットまでは分かりません。」
デュウバ妹「全部で18機。確かにメイトさん1人じゃ厳しいですね。」
メイト「他にもレイヴンを探しましたが、1人だけしか雇えませんでした。もしよろしければお力を
    お借りしたいのですが・・・。」
ウインド「了解。その依頼、受けるとしよう。」
メイト「あ、ありがとうございますっ!」
   よほど嬉しいのか、メイトは瞳を輝かせている。
    しかしウインドは敵側が気になって仕方がなかった。それに地下実験場という場所も気に
   なっていた。何を実験する場所なのかと。
    そんな自分達の心境を見抜かれないようにと、シュヴがメイトに別の会話をしだしている。
   こういったコミュニケーションはお手のもの。彼女の行動にウインドは心中で礼を述べた。
                               第2話へ続く

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